「岸田政権、継続へ 真価問われる『丁寧な政治』」
(2021年11月1日 朝日新聞社説)
「自民単独過半数 緊張感持ち政権の安定を図れ」
(2021年11月1日 読売新聞社説)
「衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を」
(2021年11月1日 毎日新聞社説)
「岸田首相の続投 安定勢力で成果を挙げよ 対中抑止に本腰を入れる時だ」
(2021年11月1日 産経新聞社説)
「政権は民意踏まえ課題を前に進めよ」
(2021年11月1日 日本経済新聞社説)
締まりのない選挙だった。
「他に入れるところがないからしょうがなくここに入れる」という感じの選挙。
今回の選挙は、いわば「コロナ禍対策の『採点』」という趣きが濃かった。しかし、口ではいろいろ言っていながら、みんな心の底では分かっているのだろう。コロナ禍はいわば天災であって、どの政党が政権を担当しても100%誰もが納得する施策など打ちようがないのだ。みんな自分の生活が思うようにいかない苛々を誰かにぶつけたくて、政治に八つ当たりをしていたに過ぎない。マスコミは必死になって現政権の失策をあげつらうネガティブキャンペーンを展開したが、蓋を開けてみれば自民党の単独過半数。大山鳴動鼠一匹の感が拭えない。
それを報道する新聞各社にもそれぞれの色がはっきりと出た。
まず、例によっていつもの通り朝日新聞は論外だ。安倍憎し、自民党憎し、日本憎しの朝日新聞は相変わらず政権を貶める工夫に余念がない。明確な偏向報道だ。
「角度をつける」のも、ここまでやれば大したものだ。朝日社説が論じているのは「今回の選挙の総括」では全くない。「安倍・菅政権の悪口」だけだ。朝日社説は必死に無視しているが、事実として自民党は単独過半数を獲得して野党を退けている。いわば野党の完敗だ。それを何とかして「自民党はしくじった」「国民は自民党を見限った」という印象を植え付けようとしている。朝日社説は、自民党や旧安倍政権が嫌いで嫌いで仕方ない人が、ストレス発散のために読むものだ。便所の落書レベルのものだろう。
朝日新聞も毎日新聞も、安倍政権の悪口を言うときには必ず「『数の力』で強引に進める」という文言を使う。しかし、議院制民主主義に基づく政党政治はそもそも「数の力」を採択原理としたものだ。政治の原理原則を真っ向から否定して、何を主張したいのだろうか。数の力で勝てないから、数の力を貶めているに過ぎない。旧民主党が政権を取ったとき、強行採決を敢行した数はそれまでの自民党政権よりもはるかに多かった。そういう時には朝日も毎日も「数の力」云々などおくびにも出さず、「民意の反映」などと嘯く。自分達の都合によって言い方を変える論説は信用に値しない。
今回の野党敗北の原因を一刀両断にしている。今回の選挙は「与党が勝った」のではない。「野党が負けた」に過ぎない。朝日新聞が喚き倒しているように、本当に国民が自民党に愛想を尽かしたのであれば、単独過半数など到底無理だろうし、野党5党の連合は軒並み議席数を伸ばしたはずだ。しかし、実際にはそうはなっていない。
自民党が前回よりも議席数を減らした事実を見ても、コロナ禍対策に対する自民党の政策に有権者が厳しい目を向けているのは確かだろう。しかし野党5党の連合に対しては「だからといってお前らじゃない」という断を有権者は下したことになる。有権者に厳しい評価を下されたのは、野党5党も同じなのだ。朝日新聞は必死に「自民党1悪」の構図を吹聴したがっているが、その点、毎日新聞のほうがやや冷静に事実を俯瞰している。
朝日新聞が一切無視している部分だ。コロナ禍対策の内政問題を突くか、外交と安全保障対策の不備を突くか。左派系と右派系の新聞で論点がはっきり分かれている。
他の新聞は、自民党の今後に対して「コロナ禍を防ぐためにちゃんとしなければならない」「落ち込んだ経済状態を上向かせるためにちゃんとしなければならない」「安倍政権時の弊害を取り除くためにちゃんとしなければならない」と、漠然とした掛け声に終止している。具体的な提言は一切無しだ。どうすればコロナ禍を防げるのか、どうすれば経済が良くなるのか、安倍政権時の弊害は具体的にどういう所に顕在化しているのか、明確な言及を放棄している。曖昧な批判と文句を並べているだけで、読者の「印象」に訴えかけることしかしていない。
しかし産経新聞は、「自民党の議席が減った」ということに対して、唯一具体的で現実的な方策を提言している。外交や安全保障は、野党がみんな口を濁して明言を避け続けた問題だ。その不備を突くことで相対的に議席増が見込めたのではないか、という提言は、合っているか間違っているかは別として、具体性がある。正しいか間違っているかの検証ができる。つまり検討に値する。印象操作に終止し、イメージを喚起するためのふわふわした文言を並べているだけの他紙に比べれば、論述の方法として一段高いところにある。
その正反対が日本経済新聞だ。朝日新聞とは別の意味で、読むに値しない。
要するに、どれも「ちゃんとしてください」と言っているだけのことに過ぎない。「成果によって信頼を得ろ」「器を整えろ」「ビジョンを打ち出せ」「指導力を発揮して実績を積み上げろ」などということは、小学生にでも言える。問題は、「どのようにそれをしなければならないのか」という具体的な方策の切り口を示すことだろう。産経新聞は、合っているか間違っているかはともかく、それをしっかり書いた。日経は「間違い」の提言をすることを恐れているのか、美辞麗句を並べることが社説の品格だと勘違いしているのか、中身が全くない曖昧な理想論で最初から最後までを埋め尽くしている。
日経のような「きれいすぎる社説」が無価値なのは、そこから生み出されるものが何もないからだ。抽象的な提言からは、抽象的な方策しか出てこない。抽象的な方策からは、何も出てこない。単なる掛け声だ。業績を上げるための指示が「がんばりましょう」、国民の信を得るための提言が「しっかりしましょう」、選挙の総括が「ちゃんとしましょう」。
どれも正しい。絶対に正しい。どんな状況であっても間違っていることなど絶対に有り得ない。だからこそ、何の意味もない。現実に落し込んで考えるときに、誰にも、何をしろとも、どうしろとも言っていない。反証可能性がゼロなので、検証にも値しない。盛り盛りの角度をつけまくってプロパガンダに終止している朝日新聞よりはマシだが、人に読ませる文章という観点からすれば五十歩百歩だ。
最近、日経の社説にはこういうのが増えてきた。単なる感想文や作文に等しい。こういう社説を書いているうちは、日経の社説など読む価値はあるまい。
一言でいうと、「勝者のいない選挙」だったと言えるだろう。自民党は単独過半数を保持したが、岸田首相が息巻いたように「国民の信を得られた」わけではない。他の野党がもっとひどいので、仕方なく自民党に票を入れざるを得ない有権者が多かっただけのことだろう。各紙が指摘しているとおり、与党にも野党5党連合にも与せずに独自路線を敷いた日本維新の会が大きく議席を伸ばしたのは、その証左だろう。
今回の選挙は、夜の選挙速報がやたらと時間がかかった。深夜になってもまだ当確が出ない選挙区が相次いだ。それだけ接戦が続いたということだ。コロナ禍という未曾有の事態にあって、現政権に厳しい目を向けながらも、「だからといって変に八つ当たりをしたらもっとひどいことになる」という有権者の学習が結果に表れた、そんな選挙に見える。
(2021年11月1日 朝日新聞社説)
「自民単独過半数 緊張感持ち政権の安定を図れ」
(2021年11月1日 読売新聞社説)
「衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を」
(2021年11月1日 毎日新聞社説)
「岸田首相の続投 安定勢力で成果を挙げよ 対中抑止に本腰を入れる時だ」
(2021年11月1日 産経新聞社説)
「政権は民意踏まえ課題を前に進めよ」
(2021年11月1日 日本経済新聞社説)
締まりのない選挙だった。
「他に入れるところがないからしょうがなくここに入れる」という感じの選挙。
今回の選挙は、いわば「コロナ禍対策の『採点』」という趣きが濃かった。しかし、口ではいろいろ言っていながら、みんな心の底では分かっているのだろう。コロナ禍はいわば天災であって、どの政党が政権を担当しても100%誰もが納得する施策など打ちようがないのだ。みんな自分の生活が思うようにいかない苛々を誰かにぶつけたくて、政治に八つ当たりをしていたに過ぎない。マスコミは必死になって現政権の失策をあげつらうネガティブキャンペーンを展開したが、蓋を開けてみれば自民党の単独過半数。大山鳴動鼠一匹の感が拭えない。
それを報道する新聞各社にもそれぞれの色がはっきりと出た。
まず、例によっていつもの通り朝日新聞は論外だ。安倍憎し、自民党憎し、日本憎しの朝日新聞は相変わらず政権を貶める工夫に余念がない。明確な偏向報道だ。
有権者の審判は政権の「継続」だったが、自民党は公示前の議席を減らし、金銭授受疑惑を引きずる甘利明幹事長が小選挙区で落選した。首相や与党は重く受け止める必要がある。「1強」体制に歯止めをかけ、政治に緊張感を求める民意の表れとみるべきだ。
(朝日社説)
9年近く続いた安倍・菅政治の弊害に正面から向き合い、政治への信頼を回復する。議論する国会を取り戻し、野党との建設的な対話を通じて、直面する内外の諸課題への処方箋を探る
(同上)
国政選挙で6連勝した安倍長期政権の終焉、新型コロナ対応に失敗した菅政権の1年余りでの退場を経た今回、自民党はある程度の減少は織り込み済みだった。しかし、派閥の領袖や閣僚経験者が小選挙区で相次いで落選するなど、不人気の菅首相を直前に交代させ、新しい顔で臨んだにしては、国民の期待を糾合することはできなかった
(同上)
新しく選ばれた465人の衆院議員には、安倍・菅政権下で傷つけられた国会の機能を立て直す重い責任がある。憲法の規定に基づく臨時国会の召集要求に応じない。論戦の主舞台となる予算委員会の開催を拒む。質問をはぐらかし、正面から答えない。「虚偽」答弁が判明しても深く反省しない。議論の土台となる公文書を改ざん・廃棄する。過去の国会答弁を無視し、一方的に法解釈を変更する――。政府が説明責任を軽んじ、国会の行政監視機能を掘り崩す行為が、何度繰り返されたことか。特定秘密保護法や安保法制など、意見の割れる重要法案を、与党が「数の力」で押し切る場面も少なくなかった。
(同上)
「角度をつける」のも、ここまでやれば大したものだ。朝日社説が論じているのは「今回の選挙の総括」では全くない。「安倍・菅政権の悪口」だけだ。朝日社説は必死に無視しているが、事実として自民党は単独過半数を獲得して野党を退けている。いわば野党の完敗だ。それを何とかして「自民党はしくじった」「国民は自民党を見限った」という印象を植え付けようとしている。朝日社説は、自民党や旧安倍政権が嫌いで嫌いで仕方ない人が、ストレス発散のために読むものだ。便所の落書レベルのものだろう。
朝日と並んだ左派系の毎日新聞も、今回の選挙そっちのけで「安倍・菅政権の悪口」を並べている。
安倍晋三政権からの9年間では、政治に対する国民の信頼が損なわれる事態が相次いだ。コロナ対応では失政が続いた。経済活動の再開に前のめりになり、感染拡大を防げなかった。病床の確保が追いつかず、自宅で亡くなる人も出た。生活困窮者や休業を余儀なくされた飲食店への支援も十分に届かなかった。経済政策では格差拡大を招いた。成長と効率を重視するアベノミクスで富裕層は潤ったが、非正規労働者が増えた。異論を認めず、国会を軽視する姿勢も目立った。「政治とカネ」の問題では説明責任を果たそうとしなかった。安全保障関連法など世論が割れる政策を、「数の力」で強引に進めた
(毎日社説)
朝日新聞も毎日新聞も、安倍政権の悪口を言うときには必ず「『数の力』で強引に進める」という文言を使う。しかし、議院制民主主義に基づく政党政治はそもそも「数の力」を採択原理としたものだ。政治の原理原則を真っ向から否定して、何を主張したいのだろうか。数の力で勝てないから、数の力を貶めているに過ぎない。旧民主党が政権を取ったとき、強行採決を敢行した数はそれまでの自民党政権よりもはるかに多かった。そういう時には朝日も毎日も「数の力」云々などおくびにも出さず、「民意の反映」などと嘯く。自分達の都合によって言い方を変える論説は信用に値しない。
ただ、毎日新聞は朝日に比べて若干冷静に、今回の選挙全体の趨勢についても論じている。
野党第1党の立憲民主党は、共産党、国民民主党などと小選挙区の7割以上で候補者を一本化し、野党5党による共闘態勢で臨んだ。前回、野党第1党の民進党が分裂したことを教訓にしたものだ。今回は1対1の構図を作ることはできたが、政権交代への期待を高めるまでには至らなかった。政治の現状に対する国民の不満が高まっているにもかかわらず、民意を受け止めきれなかった。立憲は、共産との選挙協力の戦術を含め検証を迫られる。「改革」を訴えた日本維新の会が大きく議席を伸ばし、自民、立憲に対する批判の「受け皿」となった形だ。
(毎日社説)
今回の野党敗北の原因を一刀両断にしている。今回の選挙は「与党が勝った」のではない。「野党が負けた」に過ぎない。朝日新聞が喚き倒しているように、本当に国民が自民党に愛想を尽かしたのであれば、単独過半数など到底無理だろうし、野党5党の連合は軒並み議席数を伸ばしたはずだ。しかし、実際にはそうはなっていない。
自民党が前回よりも議席数を減らした事実を見ても、コロナ禍対策に対する自民党の政策に有権者が厳しい目を向けているのは確かだろう。しかし野党5党の連合に対しては「だからといってお前らじゃない」という断を有権者は下したことになる。有権者に厳しい評価を下されたのは、野党5党も同じなのだ。朝日新聞は必死に「自民党1悪」の構図を吹聴したがっているが、その点、毎日新聞のほうがやや冷静に事実を俯瞰している。
一方、保守系の読売新聞や産経新聞は、選挙の争点を内政から外交にずらすことによって自民党政権の失点をごまかす書き方をしている。自民党政権、特に旧安倍政権の一番の強みは、外交と安全保障対策だ。反対に今回の野党5党の連合が惨敗を喰らった原因は、その件に関して連合間の調整がうまくいかず、ごまかすしか仕方なかったからだ。特に立憲民主党と共産党という、安全保障に関して正反対の主張をする党同士が連合しても、矛盾しか生じない。
日本は今、新型コロナウイルス流行だけでなく、本格的な経済再生や、人口減少への対応など、困難な課題に直面している。軍事・経済両面で台頭する中国は国際ルールを無視した行動が目立ち、米国など民主主義国との対立が深まっている。
(読売社説)
北朝鮮のミサイル発射や、中国による一方的な海洋進出により、日本の安全保障環境は一段と厳しくなっている。ミサイル攻撃に対する抑止力の強化について、早急に方針をまとめるべきだ。 (同上)
立民は「現実的外交」を掲げるが、日米安保条約廃棄を主張する共産と連携して、どのような政権を目指すのか。それが不明確だったのが敗北の要因だろう。政権批判票の受け皿とならなかったことを、野党第1党として深刻に受け止めねばなるまい。共産との協力には、民間労組の一部からも反発を招いた。立民が政権交代を目指すのなら、安保関連法廃止などを訴えるのではなく、現実の脅威に対して具体的な外交・安保政策を掲げたうえで、経済や社会保障政策などで与党との違いを明確に打ち出すべきではなかったか。
(同上)
朝日新聞が一切無視している部分だ。コロナ禍対策の内政問題を突くか、外交と安全保障対策の不備を突くか。左派系と右派系の新聞で論点がはっきり分かれている。
同様の指摘は、同じく保守系の産経新聞も行っている。しかし、読売新聞とはちょっと書き方が異なる。産経新聞は、外交問題の不備を野党5党の惨敗理由とするだけでなく、自民党が議席を減らした原因としても見ている。
外交安全保障は大きな争点にならなかった。4年前の衆院選で北朝鮮の核・ミサイル問題が国難とされたのとは対照的だ。だが、今回衆院選の公示日には北朝鮮が日本海へ向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。選挙期間中には中国とロシアの合同艦隊10隻が日本を周回した。この艦隊は伊豆諸島付近でヘリを発艦させる演習を実施し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)した。日本へのあからさまな威嚇である。
日本をとりまく安全保障環境は厳しい。台湾危機や北朝鮮による拉致、核・ミサイル問題などへの対応を、与野党はもっと語るべきだった。立民や共産党などは、安全保障関連法の「違憲部分」廃止を唱えた。集団的自衛権の限定行使容認の道を閉ざすもので、日米同盟を機能不全に陥れる政策だ。この政策の危うさや厳しい国際情勢を、岸田首相や与党は具体的に指摘し、対中抑止や防衛力の強化の必要性を訴えるべきだった。そこに力を入れなかった点は、自民の議席減の理由の一つであろう。岸田政権が、防衛力充実や経済安全保障を推進し、対中抑止を強化しなくては平和は守れない。
(産経社説)
そこじゃないだろう、という気もする。自民党が今回議席を減らした一番の原因は、やはりコロナ禍対策の失策が第一だろう。それを「外交・安全保障問題に関する野党の不備をもっと攻撃すれば、議席はもっと取れたはずだ」というのは、敗因を正しく汲み取っていない提言かもしれない。
しかし、今回の社説で「建設的な提言」をしているのは唯一、産経新聞だけであることも確かだ。
他の新聞は、自民党の今後に対して「コロナ禍を防ぐためにちゃんとしなければならない」「落ち込んだ経済状態を上向かせるためにちゃんとしなければならない」「安倍政権時の弊害を取り除くためにちゃんとしなければならない」と、漠然とした掛け声に終止している。具体的な提言は一切無しだ。どうすればコロナ禍を防げるのか、どうすれば経済が良くなるのか、安倍政権時の弊害は具体的にどういう所に顕在化しているのか、明確な言及を放棄している。曖昧な批判と文句を並べているだけで、読者の「印象」に訴えかけることしかしていない。
しかし産経新聞は、「自民党の議席が減った」ということに対して、唯一具体的で現実的な方策を提言している。外交や安全保障は、野党がみんな口を濁して明言を避け続けた問題だ。その不備を突くことで相対的に議席増が見込めたのではないか、という提言は、合っているか間違っているかは別として、具体性がある。正しいか間違っているかの検証ができる。つまり検討に値する。印象操作に終止し、イメージを喚起するためのふわふわした文言を並べているだけの他紙に比べれば、論述の方法として一段高いところにある。
その正反対が日本経済新聞だ。朝日新聞とは別の意味で、読むに値しない。
日経の記事は、とにかく「正しいことを書こう」としているように見える。「正しければそれが一番良いことだ」という考えが透けて見える。
自民党は単独で安定多数を確保したものの選挙前からは議席を減らし、選挙区で落選した甘利明幹事長が辞意を示す事態となった。政権はこの結果を真摯に受け止め、新型コロナウイルス対策や経済再生など直面する課題に取り組み、着実な成果によって信頼を得るよう全力をあげてもらいたい
(日経社説)
野党がより大きな塊となり、「1強多弱」といわれた状況が変われば、政治に緊張感が生まれ、政権や与党は丁寧な運営を心がけなければならなくなる。そのためには経済や外交・安全保障など国の根幹にかかわる政策を擦り合わせることが避けて通れない。政権選択の名に値するような器を整えてもらいたい。
(同上)
重要なのはコロナの感染状況が落ち着いている間に「第6波」への備えを固めるとともに、経済再生への具体策を示すことだ。コロナ禍で困窮している人たちや企業への支援は重要だが、一律給付のようなばらまき政策は効果が不明だし、厳しい財政状況を考えればとるべき選択肢ではない。経済成長と財政再建を果たしていく中長期のビジョンを打ち出すことが肝要だ。
(同上)
来年夏には参院選が控え、首相はすぐに成果を問われることになる。政権の求心力維持には、指導力を発揮して実績を積み上げていくことこそが王道だ。それが国民の負託にこたえる道でもある。
(同上)
要するに、どれも「ちゃんとしてください」と言っているだけのことに過ぎない。「成果によって信頼を得ろ」「器を整えろ」「ビジョンを打ち出せ」「指導力を発揮して実績を積み上げろ」などということは、小学生にでも言える。問題は、「どのようにそれをしなければならないのか」という具体的な方策の切り口を示すことだろう。産経新聞は、合っているか間違っているかはともかく、それをしっかり書いた。日経は「間違い」の提言をすることを恐れているのか、美辞麗句を並べることが社説の品格だと勘違いしているのか、中身が全くない曖昧な理想論で最初から最後までを埋め尽くしている。
日経のような「きれいすぎる社説」が無価値なのは、そこから生み出されるものが何もないからだ。抽象的な提言からは、抽象的な方策しか出てこない。抽象的な方策からは、何も出てこない。単なる掛け声だ。業績を上げるための指示が「がんばりましょう」、国民の信を得るための提言が「しっかりしましょう」、選挙の総括が「ちゃんとしましょう」。
どれも正しい。絶対に正しい。どんな状況であっても間違っていることなど絶対に有り得ない。だからこそ、何の意味もない。現実に落し込んで考えるときに、誰にも、何をしろとも、どうしろとも言っていない。反証可能性がゼロなので、検証にも値しない。盛り盛りの角度をつけまくってプロパガンダに終止している朝日新聞よりはマシだが、人に読ませる文章という観点からすれば五十歩百歩だ。
最近、日経の社説にはこういうのが増えてきた。単なる感想文や作文に等しい。こういう社説を書いているうちは、日経の社説など読む価値はあるまい。
一言でいうと、「勝者のいない選挙」だったと言えるだろう。自民党は単独過半数を保持したが、岸田首相が息巻いたように「国民の信を得られた」わけではない。他の野党がもっとひどいので、仕方なく自民党に票を入れざるを得ない有権者が多かっただけのことだろう。各紙が指摘しているとおり、与党にも野党5党連合にも与せずに独自路線を敷いた日本維新の会が大きく議席を伸ばしたのは、その証左だろう。
今回の選挙は、夜の選挙速報がやたらと時間がかかった。深夜になってもまだ当確が出ない選挙区が相次いだ。それだけ接戦が続いたということだ。コロナ禍という未曾有の事態にあって、現政権に厳しい目を向けながらも、「だからといって変に八つ当たりをしたらもっとひどいことになる」という有権者の学習が結果に表れた、そんな選挙に見える。
選挙行ったあと外食しました。
「岸田政権、継続へ 真価問われる『丁寧な政治』」
(2021年11月1日 朝日新聞社説)
「自民単独過半数 緊張感持ち政権の安定を図れ」
(2021年11月1日 読売新聞社説)
「衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を」
(2021年11月1日 毎日新聞社説)
「岸田首相の続投 安定勢力で成果を挙げよ 対中抑止に本腰を入れる時だ」
(2021年11月1日 産経新聞社説)
「政権は民意踏まえ課題を前に進めよ」
(2021年11月1日 日本経済新聞社説)
(2021年11月1日 朝日新聞社説)
4年ぶりの衆院選で、自民、公明両党は絶対安定多数を維持し、1カ月前に就任したばかりの岸田首相の続投が決まった。有権者の審判は政権の「継続」だったが、自民党は公示前の議席を減らし、金銭授受疑惑を引きずる甘利明幹事長が小選挙区で落選した。首相や与党は重く受け止める必要がある。「1強」体制に歯止めをかけ、政治に緊張感を求める民意の表れとみるべきだ。
■「野党共闘」の検証を
9年近く続いた安倍・菅政治の弊害に正面から向き合い、政治への信頼を回復する。議論する国会を取り戻し、野党との建設的な対話を通じて、直面する内外の諸課題への処方箋(せん)を探る。首相が掲げる「丁寧で寛容な政治」の真価が問われるのは、これからである。安倍首相の下で行われた前回の衆院選は、野党第1党だった民進党の分裂で野党系候補が乱立するなか、自民、公明両党が定数の3分の2を上回る313議席を獲得し、大勝した。国政選挙で6連勝した安倍長期政権の終焉(しゅうえん)、新型コロナ対応に失敗した菅政権の1年余りでの退場を経た今回、自民党はある程度の減少は織り込み済みだった。しかし、派閥の領袖(りょうしゅう)や閣僚経験者が小選挙区で相次いで落選するなど、不人気の菅首相を直前に交代させ、新しい顔で臨んだにしては、国民の期待を糾合することはできなかった。就任したばかりの首相に実績は乏しく、「分配重視」や「新しい資本主義」などの理念も具体性を欠き、有権者は評価し切れなかったのではないか。世論調査などで、安倍・菅路線からの転換を求める声が多いなか、森友・加計・桜を見る会といった「負の遺産」の清算に後ろ向きな姿勢も影響しただろう。疑惑についての説明責任から逃げ回った甘利氏の落選は、「政治とカネ」の問題に対する有権者の厳しい評価に違いない。首相に幹事長を辞任する意向を伝えたのは当然だ。一方、全国の4分の3の小選挙区で与党候補と1対1の構図をつくりあげた「野党共闘」の効果は限定的だった。立憲民主党の議席は伸びず、枝野幸男代表が訴えた、政権交代につながるような力強さには程遠かった。野党の中ではむしろ、共闘と一線を画した日本維新の会が躍進した。立憲は来夏の参院選に向け、共産党などとの協力の効果を選挙区ごとに徹底して検証するとともに、自公に代わる政策の選択肢の肉付けに地道な努力を続けねばならない。
■コロナ対策遺漏なく
首相は近く召集される特別国会での首相指名を受け、第2次内閣を発足させる。まずは、この冬にも起こりうるコロナ第6波への備えに万全を期すことだ。すでに病床確保策を中心とした「骨格」は示されているが、いかにも選挙前の急ごしらえだった。人材の手当てを含め、具体策を練り上げる必要がある。新規感染者は全国的に大幅に減少しており、観光業や飲食店を支援する「Go To キャンペーン」の再開を求める声も強まろう。感染の再拡大に細心の注意を払いつつ、社会・経済活動の回復をどう進めるか。安倍・菅政権の反省に立ち、幅広い専門家の知見を踏まえた、責任ある政治の判断と国民への丁寧な説明が欠かせない。スローガン先行だった首相の理念の具体化も問われる。衆院選の公示直前に設置された「新しい資本主義実現会議」は、「成長と分配の好循環」に向けた実効性のある施策を打ち出せるのか。当面の経済対策にとどまらず、コロナ後も見据えた中長期的なビジョンを示せなければ、看板倒れになるだろう。
■「言論の府」立て直せ
新しく選ばれた465人の衆院議員には、安倍・菅政権下で傷つけられた国会の機能を立て直す重い責任がある。憲法の規定に基づく臨時国会の召集要求に応じない。論戦の主舞台となる予算委員会の開催を拒む。質問をはぐらかし、正面から答えない。「虚偽」答弁が判明しても深く反省しない。議論の土台となる公文書を改ざん・廃棄する。過去の国会答弁を無視し、一方的に法解釈を変更する――。政府が説明責任を軽んじ、国会の行政監視機能を掘り崩す行為が、何度繰り返されたことか。特定秘密保護法や安保法制など、意見の割れる重要法案を、与党が「数の力」で押し切る場面も少なくなかった。「1強多弱」といわれた与野党の力関係が、政権のおごりや緩みを許すことにもつながった。与野党の議席差が縮まった今回の選挙結果を、強引で恣意(しい)的な政権運営の見直しにつなげねばならない。これまで首相官邸に追従し、内部から自浄作用を発揮できなかった与党議員は自らを省み、進んで「言論の府」の再生に尽くすべきだ。森友・加計・桜を見る会など一連の疑惑の真相解明も、政権が動かないのなら、国会こそが、その役割を果たすべきだ。野党の責任も重い。政権へのチェックのみならず、開かれた政策論争を通じて、多様な民意を政治に反映させる力とならねばならない。
「自民単独過半数 緊張感持ち政権の安定を図れ」
(2021年11月1日 読売新聞社説)
◆難局乗り切る実行力が必要だ◆
長期政権の緩みに反省を求め、緊張感のある政治を期待したい。それが今回示された民意であろう。岸田首相は政策の実行力を高め、難局を乗り切らねばならない。第49回衆院選は、自民党が単独過半数の議席を維持し、公明党と合わせ与党で絶対安定多数を確保した。首相は「政権選択選挙で信任をいただいた。しっかり政権運営をしていきたい」と語った。
◆「1強」の緩み反省促す
自民は、厳しい選挙戦を強いられた。9年近い安倍、菅両政権は、外交や安全保障、経済政策で実績を重ねる一方、感染症対策で後手に回り、政策に関する説明不足が指摘された。「1強」の驕りに対する批判もあった。首相は、1か月前に政権を引き継いだばかりだ。国民の声に謙虚に耳を傾け、丁寧な政権運営に努めてもらいたい。日本は今、新型コロナウイルス流行だけでなく、本格的な経済再生や、人口減少への対応など、困難な課題に直面している。軍事・経済両面で台頭する中国は国際ルールを無視した行動が目立ち、米国など民主主義国との対立が深まっている。国際社会の平和と繁栄に向け、日本が果たすべき役割は大きい。日本政治の動向は、国際情勢にも影響を与える。来夏には参院選が行われる。短命政権が繰り返されることがないよう、政治の安定を図るのが首相の最大の責務である。一つ一つの課題に着実に取り組み、国民の期待に応えてほしい。首相は選挙戦で、「新しい資本主義」によって「成長と分配の好循環」を作り出すと訴えた。だが、その具体策が十分に示されたとは言えない。速やかに政策の全体像を明示し、経済再生を進めていく必要がある。北朝鮮のミサイル発射や、中国による一方的な海洋進出により、日本の安全保障環境は一段と厳しくなっている。ミサイル攻撃に対する抑止力の強化について、早急に方針をまとめるべきだ。自民党が議席を減らしたことで、政権内で公明党との調整がより重要になるとの見方もある。公明は、抑止力の強化などに慎重な立場だ。だが、与党として必要な政策課題を遂行する責任がある。両党で協議を重ね、結論を出していくことが大切である。
◆野党共闘は振るわず
立憲民主、共産など野党4党は、市民団体を介して「安保関連法の違憲部分の廃止」などの政策協定を結んで選挙に臨んだ。立民は、共産と「限定的な閣外からの協力」を受けることで合意した。これを踏まえ、共産は小選挙区の擁立を大幅に減らし、国民民主党を加えた野党5党の候補者が213小選挙区で一本化された。野党は、共闘に一定の効果があったとしているものの、立民は公示前の議席数を下回った。立民は「現実的外交」を掲げるが、日米安保条約廃棄を主張する共産と連携して、どのような政権を目指すのか。それが不明確だったのが敗北の要因だろう。政権批判票の受け皿とならなかったことを、野党第1党として深刻に受け止めねばなるまい。共産との協力には、民間労組の一部からも反発を招いた。立民が政権交代を目指すのなら、安保関連法廃止などを訴えるのではなく、現実の脅威に対して具体的な外交・安保政策を掲げたうえで、経済や社会保障政策などで与党との違いを明確に打ち出すべきではなかったか。参院選に向けて、共闘の路線を見直し、政権担当能力を示していくことが課題となろう。日本維新の会は、自公政権に不満を抱く保守層から支持を集めた形だ。成長のための改革を訴え、地盤の関西だけでなく、関東などでも議席を獲得して躍進した。今後、憲法改正などの課題では、自民が維新に協力を求める場面もあろう。国会での憲法論議を活発化させてもらいたい。
◆盛り上がり欠いた論戦
4年ぶりの審判の機会だったにもかかわらず、選挙戦が今ひとつ盛り上がりに欠けたことは残念だ。与野党のどちらにも、「追い風」は吹かなかった。自民党に不満を持ちながら、野党にも政権を任せられないと考え、投票所から足が遠のいた人は少なくなかったのではないか。各党の訴えや候補者らに魅力が足りなかった面も否めない。有権者の声を政策に生かす日頃の地道な政治活動が減っているという。与野党は危機感を持って政治のあり方を見直してほしい。
「衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を」
(2021年11月1日 毎日新聞社説)
4年ぶりとなった衆院選で自民党は単独過半数を維持した。岸田文雄首相が引き続き政権を担うことになった。選挙結果について首相は「信任を頂いた」と強調した。しかし、甘利明幹事長や複数の閣僚経験者が小選挙区で落選するなど、9年間に及ぶ自民党政治に対する国民の不信も表れた。後手に回った新型コロナウイルス対応で失われた信頼を取り戻すことができるのか。首相就任間もない岸田氏にこの難局のかじ取りを委ねられるのか。それが問われた選挙だった。自民は直前に不人気だった菅義偉前首相から岸田氏へと「選挙の顔」を代え、日程を1週間前倒しした。首相交代で内閣支持率が持ち直す中、自民に有利な環境だったが、都市部では野党候補に競り負けるケースも目立った。小手先の対応だけでは失われた政治への信頼が取り戻せないことを、首相は重く受け止めなければならない。
■大物落選は不信の表れ
就任から1カ月足らずの首相には実績がなく、「安倍・菅政治」を変えられるかが焦点だった。安倍晋三政権からの9年間では、政治に対する国民の信頼が損なわれる事態が相次いだ。コロナ対応では失政が続いた。経済活動の再開に前のめりになり、感染拡大を防げなかった。病床の確保が追いつかず、自宅で亡くなる人も出た。生活困窮者や休業を余儀なくされた飲食店への支援も十分に届かなかった。経済政策では格差拡大を招いた。成長と効率を重視するアベノミクスで富裕層は潤ったが、非正規労働者が増えた。異論を認めず、国会を軽視する姿勢も目立った。「政治とカネ」の問題では説明責任を果たそうとしなかった。安全保障関連法など世論が割れる政策を、「数の力」で強引に進めた。森友・加計学園問題などでは行政の信頼性も揺らいだ。自民党総裁選で首相は「民主主義の危機」を訴え、従来の政治からの転換を打ち出した。新自由主義的な政策を見直し、格差を是正するために富の再分配を進めることが主張の柱だった。ところが衆院選では「岸田カラー」がかすんだ。遊説で「分配」よりも「成長」を強調する言いぶりに変わり、アベノミクスをなぞっているようだった。森友学園を巡る公文書改ざん問題の再調査や、政治とカネの問題への取り組みにも消極的だった。業者への口利き疑惑を抱える甘利氏が小選挙区で敗れたのは、こうした姿勢に対する有権者の不信を象徴している。一方、野党第1党の立憲民主党は、共産党、国民民主党などと小選挙区の7割以上で候補者を一本化し、野党5党による共闘態勢で臨んだ。
■安倍・菅政治と決別必要
前回、野党第1党の民進党が分裂したことを教訓にしたものだ。今回は1対1の構図を作ることはできたが、政権交代への期待を高めるまでには至らなかった。政治の現状に対する国民の不満が高まっているにもかかわらず、民意を受け止めきれなかった。立憲は、共産との選挙協力の戦術を含め検証を迫られる。「改革」を訴えた日本維新の会が大きく議席を伸ばし、自民、立憲に対する批判の「受け皿」となった形だ。コロナ禍で政治が生活に直結すると多くの人が実感した。にもかかわらず投票率が大幅に上がらなかったのは、与野党が争点を明確に示せなかったからではないか。岸田政権が取り組まなければならない課題は山積している。格差是正やコロナ対策と経済活動の両立、人口減少社会への対応などは待ったなしだ。首相の政策実行力が試される。首相は街頭演説で「信頼と共感に基づいて丁寧で寛容な政治を進めたい」と訴えた。そうであるならば、安倍・菅政治の問題点を率直に認め、脱却することから始めなければならない。謙虚で丁寧な政権運営が求められる。来年夏には参院選が控える。今回とは異なり、岸田政権の実績が審判を受けることになる。野党も衆院選の結果を総括したうえで、どう対峙(たいじ)するかが問われる。本格的な国会論戦は今月中にも始まる。コロナ禍が続く中、どのような国づくりを目指すのか。建設的な議論を期待したい。
「岸田首相の続投 安定勢力で成果を挙げよ 対中抑止に本腰を入れる時だ」
(2021年11月1日 産経新聞社説)
政権選択の衆院選で、自民党が単独で安定多数を得た。連立する公明党と合わせ絶対安定多数となり、岸田文雄政権は有権者から信任されたといえる。だし、解散時と比べ、自民の議席は減少した。政権運営の要である甘利明幹事長は選挙区で敗れ、比例代表で復活したが、岸田首相に辞意を伝えた。岸田首相や自民党は選挙結果を真摯(しんし)に受け止めねばならない。国会で丁寧な議論を重ねていくべきだ。同時に政策遂行で足踏みしてはならないのはもちろんだ。来年夏には参院選がある。公約実現へ働き抜くべきである。
≪コロナへの備え確実に≫
新型コロナウイルス対策は待ったなしの課題である。国内の感染状況は落ち着いているものの、先行きは不透明だ。政府のこれまでの取り組みへの批判が自民の議席減につながった点は否めない。コロナ禍で経済的苦境に陥った人や事業所は少なくない。入院が必要なのに自宅療養を余儀なくされた人は全国で一時約13万5千人にも及んだ。岸田政権は、コロナ病床を第5波のピーク時よりも2割以上増やす方針だ。掛け声倒れになってはいけない。ワクチンの3回目接種へ準備中だが、調達や接種態勢に万全を期すべきだ。経口薬の承認、供給も急がれる。都市封鎖(ロックダウン)などの強力な手立てを、感染症対策の選択肢として日本も持っておくべきだ。岸田首相は慎重姿勢だが、再考すべきである。経済では当面、コロナ禍で落ち込んだ景気の回復が最優先課題となる。支援を要する世帯や企業に財政面で万全の措置を講じるのは当然だ。まずは経済対策の具体化を急がなければならない。足元で人流や消費が動き始める中で、対策の規模ばかりを追求しても仕方がない。民需が自律的に回復するよう、政策の実効性や緊急性を吟味してもらいたい。成長と分配の両立で分厚い中間層を築くという、「新しい資本主義」の肉付けも問われる。アベノミクスが失敗したと唱えた立憲民主党などに対し、自民はこの路線を踏襲しつつ、成長の恩恵が大企業や富裕層に偏らないよう、所得再分配重視の姿勢を示した。所得格差の是正には経済全体の賃金水準の底上げが求められる。これは安倍晋三、菅義偉両政権が十分になし得なかった難題だ。一過性のばらまきとはせず、企業の継続的な賃上げを促す道筋を明確にすべきだ。外交安全保障は大きな争点にならなかった。4年前の衆院選で北朝鮮の核・ミサイル問題が国難とされたのとは対照的だ。だが、今回衆院選の公示日には北朝鮮が日本海へ向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。選挙期間中には中国とロシアの合同艦隊10隻が日本を周回した。この艦隊は伊豆諸島付近でヘリを発艦させる演習を実施し、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)した。日本へのあからさまな威嚇である。
≪早期訪米で日米会談を≫
日本をとりまく安全保障環境は厳しい。台湾危機や北朝鮮による拉致、核・ミサイル問題などへの対応を、与野党はもっと語るべきだった。立民や共産党などは、安全保障関連法の「違憲部分」廃止を唱えた。集団的自衛権の限定行使容認の道を閉ざすもので、日米同盟を機能不全に陥れる政策だ。この政策の危うさや厳しい国際情勢を、岸田首相や与党は具体的に指摘し、対中抑止や防衛力の強化の必要性を訴えるべきだった。そこに力を入れなかった点は、自民の議席減の理由の一つであろう。岸田政権が、防衛力充実や経済安全保障を推進し、対中抑止を強化しなくては平和は守れない。国民への明快な説明や公明の説得に努めてほしい。首相は31日夜、バイデン大統領と会談するため早期に訪米したい意向を示した。台湾問題をはじめとする対中戦略や日米同盟強化を話し合うべきだ。共産などと選挙協力した立民は振るわなかった。基本政策の異なる共産との「閣外協力」路線は、政権への道をかえって閉ざす点にも気づくべきである。与党批判票の受け皿となった日本維新の会は大幅に勢力を伸ばした。憲法改正論議をリードするとともに、現実的な安保政策を推進する行動が期待される。
「政権は民意踏まえ課題を前に進めよ」
(2021年11月1日 日本経済新聞社説)
第49回衆院選は自民、公明の与党が過半数を獲得し、国会で安定的な運営ができる議席数を引き続き確保した。衆院選は政権選択選挙であり、民意は岸田文雄首相(自民党総裁)の続投を選んだ。一方で、自民党は単独で安定多数を確保したものの選挙前からは議席を減らし、選挙区で落選した甘利明幹事長が辞意を示す事態となった。政権はこの結果を真摯に受け止め、新型コロナウイルス対策や経済再生など直面する課題に取り組み、着実な成果によって信頼を得るよう全力をあげてもらいたい。
■自民に謙虚さ促す審判
衆院選は2017年10月以来、4年ぶりだ。政権発足から1カ月足らずで選挙に臨んだ首相にとって、語るべき成果はほとんどなかったに等しい。この間、国のかじ取りを担ってきた安倍晋三、菅義偉両政権の評価と、今後の岸田政権への期待度が問われた総合的な結果と受け止めるべきだろう。安倍政権は民主党からの政権奪還後、落ち込んでいた経済を一定の回復軌道に乗せることに成功した。しかし、後半は息切れ感が否めず、政治とカネの問題や国会審議での丁寧さを欠く対応などおごりが目立つようになった。菅政権はコロナ対策で医療の逼迫を招き、記者会見などでは「安全安心」を繰り返すばかりで、説明力の乏しさを露呈。1年で退陣を余儀なくされた。有権者はこうした両政権のあり方を戒める審判を示したと言えよう。岸田首相は「信頼と共感が得られる政治」の実現を掲げ、国民との対話を重視する考えを示してきたが、有権者は首相の姿勢がほんものか、慎重に見極めようとしているということではないか。首相は今後の政権運営にあたって、おごりを排して謙虚に取り組むとともに、総裁選で掲げた党の改革をきちんと進めて、国民に明示していく必要がある。野党は乱立で与党を利してきた反省から、立憲民主党を中心とした5党が多くの選挙区で候補者を一本化したが、政権批判票を取り込む受け皿としての効果をあげるには至らなかった。議席の大幅増を狙った立民は厳しい結果となり、政権交代への道は険しい。立民は市民団体を介して共産党などと政策協定を結んだものの、基本政策の食い違いは残したままだった。有権者の目には信頼に足る内容とは映らなかったのだろう。逆に、共闘に加わらなかった日本維新の会は改革を主張して躍進。与党でも野党共闘でもない第三極として、有権者に存在感を印象づけることに成功した。野党がより大きな塊となり、「1強多弱」といわれた状況が変われば、政治に緊張感が生まれ、政権や与党は丁寧な運営を心がけなければならなくなる。そのためには経済や外交・安全保障など国の根幹にかかわる政策を擦り合わせることが避けて通れない。政権選択の名に値するような器を整えてもらいたい。今回は衆院解散から投開票までの実質的な選挙期間が17日と戦後最短となったことで、政策論争が十分深まらなかった感が強い。与野党を問わず、給付金や減税など分配を掲げる主張が目立つ半面、財源論は置き去りにされた。「成長と分配の好循環」を唱える首相は選挙戦の過程で「分配」から「成長」に訴えの比重を移した。それでも成長のための具体的な方策は不明確なままだった。
■経済再生へ道筋示せ
来週にも発足する第2次岸田内閣は経済対策の策定に着手し、裏付けとなる補正予算案の年内成立をめざす。重要なのはコロナの感染状況が落ち着いている間に「第6波」への備えを固めるとともに、経済再生への具体策を示すことだ。コロナ禍で困窮している人たちや企業への支援は重要だが、一律給付のようなばらまき政策は効果が不明だし、厳しい財政状況を考えればとるべき選択肢ではない。経済成長と財政再建を果たしていく中長期のビジョンを打ち出すことが肝要だ。首相は政権を維持したとはいえ、自民党はベテランを中心に苦戦が目立ったことから、党の体制の立て直しが急務となる。党内力学の変化も読み切れず、注意深い運営が必要となろう。来年夏には参院選が控え、首相はすぐに成果を問われることになる。政権の求心力維持には、指導力を発揮して実績を積み上げていくことこそが王道だ。それが国民の負託にこたえる道でもある。