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ラグビーワールドカップ プールA
日本 28-21 スコットランド


日本が予選プール最終戦でスコットランドを撃破。自力で決勝トーナメント進出を決めた。
日本は初の決勝トーナメント進出を果たし、前回大会で唯一の敗戦を喫した相手に雪辱を果たした。

台風19号の影響で他プールの試合が中止になり、開催が危ぶまれた中での試合だった。台風による中止の可能性が報じられると、スコットランド・ラグビー協会のマーク・ドッドソンCEOは「弁護士と相談したら、日程を柔軟にできるはずとの意見をもらった」と大会規約をまるで無視した言動を繰り返し、開催地・開催日程を変更してでも強行に試合実施の要求を繰り返した。試合が実施されない場合には法的措置も辞さないとの声明さえ発表している。被災地の惨状を顧みず、自分たちの利益のことしか考えないスコットランド協会の言動には、非難が殺到した。

そんな雰囲気の中での試合開催。試合前には台風19号の被災者に対する黙祷が行なわれた。
台風被害によるグラウンドコンディションと天候が懸念されたが、関係各所の尽力によって無事に開催にこぎつけた。ホスト国としての面目躍如といったところだろう。

結果からすると、奇跡でも大番狂わせでもなく、実力で日本が勝ち切った試合だった。
スコットランドと日本は、プレースタイルが似ている。世界トップレベルと比べれば破壊力抜群ではないものの、規律正しいFW陣でマイボールを確実に確保する。バックスの展開に優れ、特にバックスリーの走力が著しい。バックローの守備力が高く、ジャッカルによってマイボールを得る。 いままで日本がスコットランドに苦戦することが多かったのは、単純な実力差というよりも、プレースタイルが噛み合いすぎているが為の「相性」という面が大きい。

特にスコットランドの右FL、ジェーミー・リッチーは鬼だった。密集戦で必ずボールに絡み、日本ボールのラックをことごとくジャッカルされた。ラックやモールではスコットランドのプレッシャーを浴び、SHの流がボール出しに失敗するシーンが多く見られた。
そんな中、局所的には五分か、やや劣勢だった日本が、80分のトータルで勝ち切ったポイントは、ハーフバックス陣の差だろう。その差を生み出したのは、絶えることなく地道に仕事を遂行し続けた、日本のバックロー陣のディフェンスによるところが大きかった。

日本の両FL、リーチ・マイケルとピーター・ラブスカフニは、セットプレーのディフェンスで明確に相手SHのグレイグ・レイドローを狙っていた。ゲームキャプテンを務め、過去日本と4回対戦しており、日本はレイドローが出た試合ではひとつも勝てていない。前回大会でも予選プールで対戦し、その時はプレースキッカーとして20得点を献上している。「日本キラー」として警戒されていた選手だ。

スクラムやラックからの展開では、リーチ・マイケルとラブスカフニは執拗にレイドローをマークした。その結果、出足の早い詰めのディフェンスにプレッシャーを与えられ、レイドローはゲームコントロールを失う。
今大会の傾向は、ハイパントだ。しかもレイドローはキックの名手で、今大会でもスコットランドはハイパントでかなり陣地を稼ぐ傾向がある。しかしこの日本戦では、あれほどキックの警戒が叫ばれていたにもかかわらず、ハイパントがほとんど使われなかった。リーチ・マイケルとラブスカフニの速い潰しによって、レイドローがキックを蹴れなかったからだ。

執拗なディフェンスとコンタクトプレイは徐々にレイドローのペースを乱す。後半10分に、スコットランドはついにSHを交替し、レイドローに替えてジョージ・ホーンを投入する。このSHの交替がひとつの潮目だっただろう。

ジョージ・ホーンはもともと第三SHだ。大会前の時点でまだ6キャップしか経験がない。しかし2軍主体で臨んだロシア戦で3トライを挙げる大活躍をし、日本戦では控えSHに昇格した。若さを活かした俊敏な動きと、隙間を縫うような走りでは魅せるものがあるが、この日本戦でSHに要求される資質にはまだ追い付いていなかった。

試合最後の24分、スコットランドはどうしてもトライを取って追い付かなければならない状況に追い込まれた。こういう場面でSHに要求されるのは、FWとBKをうまくコントロールして、その局面に合わせてチーム全体の攻撃方針を瞬時に確立することだ。キャプテンを務めるレイドローはその役割に適役だったが、若いジョージ・ホーンは試合終盤の土壇場の場面になっても、普段と同じゲームメイクしかできなかった。端から見てると「トライ取らなければならない場面だってことが分かってるのかな」というくらい、必死さの欠ける「いつもどおりの攻撃」しか行なえなかった。

つまりスコットランドは、SHの起用順序を間違えたのだ。試合序盤は勢いと速さがあるジョージ・ホーンを使い、試合終盤のギリギリのせめぎ合いに備えてレイドローを後半途中から投入するべきだったのだ。後半最後の24分、スコットランドが猛攻をかけてどうしてもトライを取らなければならなかった時間帯に、FWとBKをうまく操るレイドローがピッチにいなかったことが、スコットランドの致命傷となった。

SOもうまく機能していなかった。スコットランドのSOフィン・ラッセルは、日本のバックロー陣による強いプレッシャーを受けて、自由なゲームメイクを封じられた。特にNo.8の姫野和樹、トイメンSOの田村優には、完全に当たり負けていた。思うようにプレーができず、ラッセルは前半途中からすでにイライラを募らせ、レフェリーの判定に食って掛かるなど平静を欠いていた。その姿勢が視野の狭窄を引き起こし、単調なゲームメイクに終止してしまった。

一方、日本のハーフバック陣は、スコットランドと真逆のマネジメントが行えていた。試合序盤には球足が速くワイドな展開に優れる流大をスタメンで起用し、前半だけで3トライを奪ってリードした状態で後半に入れた。

日本代表は、後半・終盤になってスコットランドが猛攻をかけて来て、防戦一方にならざるを得ない展開をあらかじめ読んでいた。その局面になってから落ち着いてFWを指揮できるよう、後半10分に満を持して経験豊富なSHの田中史朗を投入した。スコットランドとは真逆の選手起用だ。

相手のキーマン、SHレイドローを下げさせる代償として、日本はキャプテンのFLリーチ・マイケルを消耗させてしまい、途中交替せざるを得なくなる。しかし、その後に試合をコントロールする経験豊富な選手がしっかりと役割を引き継いだ。後半から投入されたSH田中史朗は、防戦一方の展開でも落ち着いてFW陣をコントロールし、スコットランドの組織的な攻撃を防ぎ切った。反則でペナルティーを与えないようにFW陣のオフサイドを下げさせ、捨てるラックと入るモールを明確に指示し、何度フェイズを重ねられてもFW陣を叱咤しディフェンスラインを作らせる。一方、スコットランドの控えSHジョージ・ホーンは、どうしてもトライを取らなければいけない土壇場の場面になっても、圧勝したロシア戦と同じようなゲームメイクしかできなかった。経験値という面で格が違っていた。

日本代表SOの田村優も、リーチ・マイケルが下がった後、積極的にFWとコミュニケーションをとり、BKとFWをつなげるディフェンスラインをしっかりと指揮した。試合終盤では、田村が事実上のキャプテンとしてチームを取り仕切り、リーチが欠けた後の日本の組織力が崩れることはなかった。イライラを募らせ、冷静さを欠き、ゲームコントロールを失ったスコットランドSOフィン・ラッセルとは大きな違いだ。

試合後のインタビューで、日本代表の選手は「ゲームプラン」という言葉を頻繁に使った。具体的な内容には言及していなかったが、その主な内容は(1)どうやってレイドローを封じるか、(2)リーチ・マイケルが抜けたときのチームは誰がどう仕切るか、という点に集約されるだろう。日本はそれがうまく機能した。だから勝てた。

モール、ラック、BK展開に関しては、どう見てもスコットランドのほうが上だった。特にスコットランドに取られたトライは、どれも日本が意図的に組んだディフェンスラインを突破されて、組織的に奪われたものだ。
実は日本代表はいままでのロシア戦、アイルランド戦、サモア戦の3試合で、組織的に防御を崩されて取られたトライは、サモア戦の1本しかない。あとのトライは、すべてキックパスやターンオーバーなどの突発的な要因で取られたものだ。ところがスコットランドは日本のディフェンスを組織的に崩し、3本ものトライを取ってきた。

ところが、最後の最後、もう1本のトライが必要なところで、スコットランドはそれを取りきれなかった。日本が周到に準備した「最後の24分」を崩せなかった。そこで力を出し切れるようにチーム戦力をうまくマネジメントし、体力と戦力を温存しつつ最後の場面で力を出し切り、防ぎ切った。日本の「ゲームプラン」によって計画的に勝った試合だった。


個人的には、スコットランド協会のマーク・ドッドソンCEOの、被災者のことを一切鑑みることのない自分勝手な声明が非常に残念だった。自分たちさえ決勝トーナメントに進めれば、被災者が何人死のうが、大会準備委員会がどんなに疲弊しようが、知ったこっちゃない、という許しがたい態度だ。少なくともラガーマンとしては唾棄に値する。あまつさえ、大会規約にサインをしてるにも関わらず「法的措置」などという意味不明な恫喝を浴びせてきた。この一連の言動で、スコットランドの品位は激下がりだ。「自分たちさえ良ければ、他人を踏みにじっても構わないと思っている国」という評価が僕の中では定着した。

4週間にわたって、数多くのチームがそれぞれの目標を目指して熱闘を繰り広げた。予選プールの試合が終了し、敗退したチームは惜しまれながらそれぞれ帰国の途につく。その中で、スコットランドに関しては、ちっとも敗退を惜しむ気になれない。早く帰って頂きたい。



選手が悪いわけではないだけになお一層残念。