たくろふのつぶやき

春来たりなば夏遠からじ。

2019年10月

ラグビーW杯 準々決勝 日本 vs 南アフリカ

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ラグビーワールドカップ 準々決勝第4試合
日本 3-26 南アフリカ


完敗だった。日本のいいところが一切出せず、南アフリカにノートライに抑えられた。さすが南アフリカという他はない。

試合全体として、「相手の作戦におつきあいし過ぎた」という印象がある。南アフリカは、明らかにFWの密集戦が多くなることを想定していた。8人登録できるリザーブメンバーのうち、6人がFW。BKの控えが2人しかいない。明確に、外勝負ではなく、縦突破のFW戦になることを想定している布陣だった。

日本のハーフバックス陣も十分にそれを分かっており、キックを絡めて相手FWを背走させ、体力を消耗させるゲームメイクをしていた。前半に限って言えばそれはうまくいっていたと思う。それが後半になって、途端にゲームの主導権を南アフリカに握られた。そのポイントとなったのはディフェンスだ。

明らかに南アフリカは、日本のオフロードパスの傾向を分析していた。タックルに行くとき、ボールを持っているプレーヤーに守備を集中させすぎず、その周りのサポートプレーヤーを必ずチェックしていた。日本代表はオフロードパスを出しても、あらかじめマークしていたタックラーにすぐにチェックされ、思うようにパス回しができなかった。

この南アフリカのディフェンスの仕方は、ふたつの意味で日本を制約した。ひとつは「オフロードパスからの繋ぎ攻撃を封じること」、ふたつめは「敵を内側で止めさせ、外まで回させない」ということだ。そのため南アフリカはこの試合を通して、ラインディフェンスは極端に詰めのディフェンスを押し通した。
オフロードパスと並んで、南アフリカが警戒してたのは、日本の両WTB、松島と福岡のスピードだろう。出足の速い詰めのディフェンスでスペースを消し、サポートプレーヤーをマークすることで展開を許さず、内側で止めて外まで回させない。これを南アフリカは80分やり切った。

このディフェンスの仕方は、前提として「ひとりが確実にひとりを止める」ということが必須条件だ。最初のタックラーがかわされてしまったら、サポートプレーヤーをマークしている味方ディフェンスとの間にギャップができてしまう。このディフェンスをやり切った南アフリカは、守備力とタックルにおいて盤石の自信を以て臨んでいたことが分かる。

この試合を通しての総タックル数は、日本が91、南アフリカが140。約1.6倍の開きがある。つないで回して相手を守勢に釘付けにして消耗させる作戦は、前半は成功していた。前半終了間際には南アフリカのFW陣は疲労がたまり、足が止まっていた。おまけにPRムタワリラがシンビンで10分間の退場になってしまう。この数的有利の時間帯に日本がトライを取りきれなかったのが、勝敗を分けたポイントだっただろう。あそこで日本がトライを取っていれば、また違った展開になっていたと思う。しかし結局、日本は南アフリカのゲームプランの枠の中から出ることができず、両WTBを自由に走らせる機会を最後まで得られなかった。

結局、南アフリカは前半終了間際の危険な時間帯をなんとか乗り切った。後半になると、豊富な交代要員でFWをどんどん入れ替え、逆に消耗度で優位に立つようになる。
その象徴が後半26分のSHデクラークのトライだ。モールを組まれ、20〜30mに渡って延々とドライブされた。守備陣形が壊滅した隙をつかれ、サイド攻撃からトライを取られた。

後半になると「モール」「ラインアウト」「ターンオーバー」で日本はチャンスを潰し続ける。特にラインアウトはひどかった。試合全体を通して、南アフリカのラインアウトの成功率は100%、一方の日本は61.5%。5本のラインアウトを相手に取られている。また敵陣深くまで攻め込んでから、ターンオーバーで簡単にボールを奪われた。この試合を通じて、合計10回のターンオーバーを南アフリカに許している。こういう局面でのミスが、流れを失うことにつながった。

日本の攻撃が無力だったかというと、そんなことはない。攻撃のスタッツを見てみると、日本の攻撃は想定通りに行なえていたところもあった。
ボールキャリーは、南アの88回に対して日本は120回。ディフェンス突破は南ア14回に対して日本は20回。パスは南ア100回に対して日本は186回。攻撃に関しては、日本は練習したことを実行していた。

南アの出来が良かったかというと、決してそんなことはない。特にハンドリングエラーが多すぎた。トライを狙える重要なチャンスで何度もボールを落とし、流れを失うことがあった。ところが日本はそれにつけ込むことができず、最初のゲームプランに固執し過ぎていた傾向があった。予想よりも厳しい南アの守備と、予想よりもハンドリングが緩いことを活かして、グラバーキックで陣地を稼ぐなどの工夫があってもよかったと思う。


予選プールと、決勝トーナメントでは、また違う次元の戦いがある、ということなのだろう。日本以外にも、例えばアイルランドなどは毎度優勝候補に挙げられながら、実はベスト8の壁を破ったことが一度もない。今回の大会で日本代表は、いままで立ったことのなかったステージに立った。見たことのない景色を見た。こういうことを地道に積み重ねて行くより他に、強くなる方法はない。

今大会、日本代表はよく戦った。どうすれば勝てるのか、よく考えてそれを実行した。その結果、過去最高の成績を収めた。結果の良いところは自信につなげ、悪かったところは改善の課題とする。そのサイクルを高速で回せるチームが強くなる。

アジアで初、伝統国以外の国で初めてとなるラグビー・ワールドカップがここまで盛り上がっているのは、間違いなく日本代表の躍進にその理由の一端がある。日本代表は開催国として立派な成績を収めた。大会全体の成功にも寄与したという点でも、代表チームの功績は大きいだろう。



おつかれさまでした。また次を目指して頑張ろう。

加法定理

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明快な証明。

ラグビーW杯 プールA 日本 vs スコットランド

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ラグビーワールドカップ プールA
日本 28-21 スコットランド


日本が予選プール最終戦でスコットランドを撃破。自力で決勝トーナメント進出を決めた。
日本は初の決勝トーナメント進出を果たし、前回大会で唯一の敗戦を喫した相手に雪辱を果たした。

台風19号の影響で他プールの試合が中止になり、開催が危ぶまれた中での試合だった。台風による中止の可能性が報じられると、スコットランド・ラグビー協会のマーク・ドッドソンCEOは「弁護士と相談したら、日程を柔軟にできるはずとの意見をもらった」と大会規約をまるで無視した言動を繰り返し、開催地・開催日程を変更してでも強行に試合実施の要求を繰り返した。試合が実施されない場合には法的措置も辞さないとの声明さえ発表している。被災地の惨状を顧みず、自分たちの利益のことしか考えないスコットランド協会の言動には、非難が殺到した。

そんな雰囲気の中での試合開催。試合前には台風19号の被災者に対する黙祷が行なわれた。
台風被害によるグラウンドコンディションと天候が懸念されたが、関係各所の尽力によって無事に開催にこぎつけた。ホスト国としての面目躍如といったところだろう。

結果からすると、奇跡でも大番狂わせでもなく、実力で日本が勝ち切った試合だった。
スコットランドと日本は、プレースタイルが似ている。世界トップレベルと比べれば破壊力抜群ではないものの、規律正しいFW陣でマイボールを確実に確保する。バックスの展開に優れ、特にバックスリーの走力が著しい。バックローの守備力が高く、ジャッカルによってマイボールを得る。 いままで日本がスコットランドに苦戦することが多かったのは、単純な実力差というよりも、プレースタイルが噛み合いすぎているが為の「相性」という面が大きい。

特にスコットランドの右FL、ジェーミー・リッチーは鬼だった。密集戦で必ずボールに絡み、日本ボールのラックをことごとくジャッカルされた。ラックやモールではスコットランドのプレッシャーを浴び、SHの流がボール出しに失敗するシーンが多く見られた。
そんな中、局所的には五分か、やや劣勢だった日本が、80分のトータルで勝ち切ったポイントは、ハーフバックス陣の差だろう。その差を生み出したのは、絶えることなく地道に仕事を遂行し続けた、日本のバックロー陣のディフェンスによるところが大きかった。

日本の両FL、リーチ・マイケルとピーター・ラブスカフニは、セットプレーのディフェンスで明確に相手SHのグレイグ・レイドローを狙っていた。ゲームキャプテンを務め、過去日本と4回対戦しており、日本はレイドローが出た試合ではひとつも勝てていない。前回大会でも予選プールで対戦し、その時はプレースキッカーとして20得点を献上している。「日本キラー」として警戒されていた選手だ。

スクラムやラックからの展開では、リーチ・マイケルとラブスカフニは執拗にレイドローをマークした。その結果、出足の早い詰めのディフェンスにプレッシャーを与えられ、レイドローはゲームコントロールを失う。
今大会の傾向は、ハイパントだ。しかもレイドローはキックの名手で、今大会でもスコットランドはハイパントでかなり陣地を稼ぐ傾向がある。しかしこの日本戦では、あれほどキックの警戒が叫ばれていたにもかかわらず、ハイパントがほとんど使われなかった。リーチ・マイケルとラブスカフニの速い潰しによって、レイドローがキックを蹴れなかったからだ。

執拗なディフェンスとコンタクトプレイは徐々にレイドローのペースを乱す。後半10分に、スコットランドはついにSHを交替し、レイドローに替えてジョージ・ホーンを投入する。このSHの交替がひとつの潮目だっただろう。

ジョージ・ホーンはもともと第三SHだ。大会前の時点でまだ6キャップしか経験がない。しかし2軍主体で臨んだロシア戦で3トライを挙げる大活躍をし、日本戦では控えSHに昇格した。若さを活かした俊敏な動きと、隙間を縫うような走りでは魅せるものがあるが、この日本戦でSHに要求される資質にはまだ追い付いていなかった。

試合最後の24分、スコットランドはどうしてもトライを取って追い付かなければならない状況に追い込まれた。こういう場面でSHに要求されるのは、FWとBKをうまくコントロールして、その局面に合わせてチーム全体の攻撃方針を瞬時に確立することだ。キャプテンを務めるレイドローはその役割に適役だったが、若いジョージ・ホーンは試合終盤の土壇場の場面になっても、普段と同じゲームメイクしかできなかった。端から見てると「トライ取らなければならない場面だってことが分かってるのかな」というくらい、必死さの欠ける「いつもどおりの攻撃」しか行なえなかった。

つまりスコットランドは、SHの起用順序を間違えたのだ。試合序盤は勢いと速さがあるジョージ・ホーンを使い、試合終盤のギリギリのせめぎ合いに備えてレイドローを後半途中から投入するべきだったのだ。後半最後の24分、スコットランドが猛攻をかけてどうしてもトライを取らなければならなかった時間帯に、FWとBKをうまく操るレイドローがピッチにいなかったことが、スコットランドの致命傷となった。

SOもうまく機能していなかった。スコットランドのSOフィン・ラッセルは、日本のバックロー陣による強いプレッシャーを受けて、自由なゲームメイクを封じられた。特にNo.8の姫野和樹、トイメンSOの田村優には、完全に当たり負けていた。思うようにプレーができず、ラッセルは前半途中からすでにイライラを募らせ、レフェリーの判定に食って掛かるなど平静を欠いていた。その姿勢が視野の狭窄を引き起こし、単調なゲームメイクに終止してしまった。

一方、日本のハーフバック陣は、スコットランドと真逆のマネジメントが行えていた。試合序盤には球足が速くワイドな展開に優れる流大をスタメンで起用し、前半だけで3トライを奪ってリードした状態で後半に入れた。

日本代表は、後半・終盤になってスコットランドが猛攻をかけて来て、防戦一方にならざるを得ない展開をあらかじめ読んでいた。その局面になってから落ち着いてFWを指揮できるよう、後半10分に満を持して経験豊富なSHの田中史朗を投入した。スコットランドとは真逆の選手起用だ。

相手のキーマン、SHレイドローを下げさせる代償として、日本はキャプテンのFLリーチ・マイケルを消耗させてしまい、途中交替せざるを得なくなる。しかし、その後に試合をコントロールする経験豊富な選手がしっかりと役割を引き継いだ。後半から投入されたSH田中史朗は、防戦一方の展開でも落ち着いてFW陣をコントロールし、スコットランドの組織的な攻撃を防ぎ切った。反則でペナルティーを与えないようにFW陣のオフサイドを下げさせ、捨てるラックと入るモールを明確に指示し、何度フェイズを重ねられてもFW陣を叱咤しディフェンスラインを作らせる。一方、スコットランドの控えSHジョージ・ホーンは、どうしてもトライを取らなければいけない土壇場の場面になっても、圧勝したロシア戦と同じようなゲームメイクしかできなかった。経験値という面で格が違っていた。

日本代表SOの田村優も、リーチ・マイケルが下がった後、積極的にFWとコミュニケーションをとり、BKとFWをつなげるディフェンスラインをしっかりと指揮した。試合終盤では、田村が事実上のキャプテンとしてチームを取り仕切り、リーチが欠けた後の日本の組織力が崩れることはなかった。イライラを募らせ、冷静さを欠き、ゲームコントロールを失ったスコットランドSOフィン・ラッセルとは大きな違いだ。

試合後のインタビューで、日本代表の選手は「ゲームプラン」という言葉を頻繁に使った。具体的な内容には言及していなかったが、その主な内容は(1)どうやってレイドローを封じるか、(2)リーチ・マイケルが抜けたときのチームは誰がどう仕切るか、という点に集約されるだろう。日本はそれがうまく機能した。だから勝てた。

モール、ラック、BK展開に関しては、どう見てもスコットランドのほうが上だった。特にスコットランドに取られたトライは、どれも日本が意図的に組んだディフェンスラインを突破されて、組織的に奪われたものだ。
実は日本代表はいままでのロシア戦、アイルランド戦、サモア戦の3試合で、組織的に防御を崩されて取られたトライは、サモア戦の1本しかない。あとのトライは、すべてキックパスやターンオーバーなどの突発的な要因で取られたものだ。ところがスコットランドは日本のディフェンスを組織的に崩し、3本ものトライを取ってきた。

ところが、最後の最後、もう1本のトライが必要なところで、スコットランドはそれを取りきれなかった。日本が周到に準備した「最後の24分」を崩せなかった。そこで力を出し切れるようにチーム戦力をうまくマネジメントし、体力と戦力を温存しつつ最後の場面で力を出し切り、防ぎ切った。日本の「ゲームプラン」によって計画的に勝った試合だった。


個人的には、スコットランド協会のマーク・ドッドソンCEOの、被災者のことを一切鑑みることのない自分勝手な声明が非常に残念だった。自分たちさえ決勝トーナメントに進めれば、被災者が何人死のうが、大会準備委員会がどんなに疲弊しようが、知ったこっちゃない、という許しがたい態度だ。少なくともラガーマンとしては唾棄に値する。あまつさえ、大会規約にサインをしてるにも関わらず「法的措置」などという意味不明な恫喝を浴びせてきた。この一連の言動で、スコットランドの品位は激下がりだ。「自分たちさえ良ければ、他人を踏みにじっても構わないと思っている国」という評価が僕の中では定着した。

4週間にわたって、数多くのチームがそれぞれの目標を目指して熱闘を繰り広げた。予選プールの試合が終了し、敗退したチームは惜しまれながらそれぞれ帰国の途につく。その中で、スコットランドに関しては、ちっとも敗退を惜しむ気になれない。早く帰って頂きたい。



選手が悪いわけではないだけになお一層残念。

ラグビーW杯 プールA 日本 vs サモア

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ラグビーワールドカップ プールA
日本 38-19 サモア


日本が予選プール3連勝。初の決勝トーナメント進出に大きく前進した。
結果だけ見れば楽勝に見えるが、苦しい試合だった。日本のゲームプランをなかなか実践できず、もどかしい時間帯が続いた。

何よりもサモアの修正能力が見事だった。サモアは「フィジカルが強い」とよく言われているが、実はプレイの精度が低いのが弱点だ。特に前大会からアンバインドタックルとハイタックルで反則をとられ、自滅することが多かった。今大会でもこれまで2試合で合計4枚のイエローカードをもらい、スコットランド戦ではレッドカードで退場者まで出している。

しかし日本戦では、その弱点を極力回避しようと策を練ってきた。サモアの防御に反則が多いのは、組織的なディフェンスよりも1対1の局地的なマッチアップに頼りがちな傾向があるからだ。敵の攻撃を前で止められず、後ろから追いかける形になることが多いので、いきおい首にタックルしてしまう。

その弱点を克服するため、サモアはディフェンスの仕方を変えてきた。具体的には、ラックを捨てるのが非常に早い。勝ち目のないラックをすぐに捨て、サイドディフェンスとラインディフェンスに人数をかける。これまでのロシア戦、スコットランド戦に比べると、日本戦のサモアの密集戦は非常に消耗度が軽い。それによって後追いのディフェンスを減らし、日本の縦攻撃を正面から受ける時間帯が長く続いた。

日本にとっては、そのサモアの守備は想定外だっただろう。FWで縦攻撃を続ければ、サモアの防御に人を巻き込める。そこで人数を減らして、BKの外展開を狙う、日本としてはそういう作戦だったはずだ。
しかし、攻めても攻めてもサモアの守備人数が減らない。相手が疲れない。試合後半になって疲労が激しかったのは、むしろ日本代表のほうだった。これは日本にとって、しつこい縦攻撃で相手ディフェンスの体力を削り続けた、ロシア戦とアイルランド戦とは逆の状況だ。


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日本が警戒しなくてはいけないことは、もうひとつあった。サモアFBのティム・ナナイ・ウィリアムズだ。
フィジカル系の選手が多いサモアにあって、ひとり突出してラグビーIQが高い。試合前の会見で日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチも、最も警戒するべき選手として挙げていた。キック処理に秀で、ディフェンスの指揮力が高く、エキストラマンとして攻撃参加する頻度も高い。今大会参加選手の中でもトップレベルのFBだ。

試合前半のうちに縦攻撃に活路を見いだせなくなった日本は、キック攻撃に切り替える。SO田村はハイパントを多用し、ボールを一旦イーブンにするリスクを犯しても陣地を進める戦術をとった。
しかし、このハイパントが全く機能しなかった。サモアのバックスリー陣は、ティム・ナナイ・ウィリアムズの指揮のもと、日本のハイパント攻撃によるコンテストボールをことごとく確保した。

大会開始後からずっと言われていることだが、今大会の戦術的傾向は、ハイパントだ。湿度が高く気温が高い日本での開催なので、体力のマネジメントにはキックが不可欠だ。全体の傾向として、セットプレーやサインプレー以外の「アンストラクチャー(秩序が乱れた状態)」からの試合運びがトライに結びつく傾向が多く、ハイパントはアンストラクチャーをつくりだす最も直接的な方法だ。

日本はハイパント攻撃をことごとくティム・ナナイ・ウィリアムズにキャッチされ、みすみす相手にボールを渡してしまう展開が続いた。しかしSO田村は、効果がなくても執拗にハイパントを蹴り続けた。これが試合後半になってボディーブローのように効いてくる。
サモアは、試合前半だけでティム・ナナイ・ウィリアムズを交代し下げてしまったのだ。後半になると、サモアのゲームプランが少しずつ狂ってくる。なぜサモアはティム・ナナイ・ウィリアムズを下げざるを得なかったのか。

やはりサモアの根源的な弱点が露呈された、ということだろう。前半24分に、サモアFLのイオアネが危険なプレーでシンビンを受けた。FWの枚数が削られたことで、サモアは全線のディフェンスにBKから1枚出さざるを得なくなり、後方の守備が手薄になった。
日本代表は、明らかにこのタイミングを狙っていたように見える。FW、BK両方の意思が統一されたかのように、ハイパント攻撃を一変させて縦攻撃に切り替えた。4分後、日本は最初のトライを取ることに成功する。

前半25分過ぎになっても日本のハーフバックス陣は、縦攻撃とハイパント攻撃を陣地によって使い分け、サモアのバックスリーにプレッシャーをかけ続けた。その結果、サモアFBティム・ナナイ・ウィリアムズが消耗してしまい、前半だけで途中交代せざるを得なくなった。
SO田村が執拗にハイパント攻撃を繰り返した理由は、競ってマイボールを確保するためではあるまい。後半になってサモアの体力が落ちてきたときにWTBで外勝負ができるように、サモアの守備の砦であるティム・ナナイ・ウィリアムズを削ることが目的だったのだろう。

その日本のゲームプランは、最後の最後で結実する。後半35分に左WTB福岡、試合終了直前の後半40分には右WTB松島が、それぞれ立て続けにトライを挙げた。これで日本は4トライを奪い、ボーナスポイント1点を獲得した。
試合としてはあれだけFW同士の密集戦が続きながら、4トライのうち2つは両端のWTBが取ったことになる。日本代表は80分をトータルに使い、「FWとバックスリーを地味に削り続けて、最後の最後で外勝負」という戦術がチーム全員に浸透していた。外側のWTBの決定力の高さを最大限に活かすために、80分かけて布石を敷いていた感じの試合だった。

結局のところ、サモアと日本の勝敗を分けたのは「戦術理解度」だろう。日本のほうが、極地的な部分だけでなく、80分トータルで試合を運ぶための意思統一ができていた。前回大会でも日本とサモアは予選プールで対戦し、そのときは日本が26-5で圧勝している。サモアはその時から4年間で進化してきたが、日本が積み重ねてきた進化のほうが勝っていた。そういう類いの勝利だったように見える。

これで日本は3勝を挙げ、プールAの首位に立った。最終戦のスコットランド戦に負けても、4トライ以上か7点差以内のボーナスポイントさえ得られれば決勝トーナメントに進める。しかし、今回の最終戦に関しては、そういう話ではあるまい。相手はあのスコットランドなのだ。前回大会で日本が唯一の負けを喫し、しかも10-45という惨敗だった。南アフリカ戦から中3日というハンデはあったにせよ、「奇跡の勝利」から気持ちを切り替えられず、世界の壁の高さを痛感した試合だった。今回の試合では、世界ランキングは日本が8位、スコットランドが9位。日本のほうが上ということになっているが、実際のところスコットランドはまだまだ日本にとって格上だ。「決勝トーナメントに進むため」だけでなく、前回大会の借りを返すため、日本代表の予選プール最終戦は気合を入れて臨んでほしい。



サモアの防御からは学ぶべきことが多かった。
ペンギン命

takutsubu

ここでもつぶやき
バックナンバー長いよ。
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