ラグビーW杯 プールC
ニュージーランド 26ー16 アルゼンチン
優勝候補No.1、連覇を狙うニュージーランドが登場。
前回大会から4年間で大躍進を遂げたアルゼンチンと、注目の一番となった。
アルゼンチンは前回の2011年大会終了後、NZ、オーストラリア、南アの対抗戦「トライネイションズ」に加盟し、毎年トップ3の国々と真剣勝負をする機会に恵まれた。
参加初年度は惨憺たる結果だったが、徐々に強化プランが功を奏し、去年とうとうオーストラリアと南アフリカから勝利をあげた。しかし、まだNZからはいまだに勝利がない。
試合は全般的に、「アルゼンチン、強くなったな」という印象。見事な試合だった。FWのフィットネスでNZにまったく引けを取らず、スクラムではむしろ押し勝った。NZのフロントローは幾度となくスクラムから剥がされ、非常に組みにくそうだった。ラインアウトも安定しており、確実にマイボールを確保する。密集ではNZのFW陣よりも早く立ち上がり、人数的には優勢に密集を支配していた。
FWの健闘が光るアルゼンチンだったが、BK陣も見事だった。特にハイパントはことごとくNZに競り勝った。今回のNZのスコッドには、前回大会のコーリー・ジェーンのようなハイボールキャッチャーがいない。アルゼンチンはSOニコラス・サンチェスがNZバックスリーの裏を狙う正確なキックでリズムを作った。出足の早いアルゼンチンBK陣のキック処理は、かなりNZを押し込めるのに効果的だったと思う。
一方のNZは、NZらしからぬ試合展開だった。BKラインは基本的にセンターを縦に突かせて、外に回さない。圧倒的なバックスリーの走力にものを言わせ、外展開でグラウンドを大きく使う、いつものNZの試合のしかたではない。
結果から見ると、これは最初からNZのゲームプランだったように見える。試合前半でアルゼンチンに縦攻撃を意識させ、相手FWのディフェンス力を消耗させる。BKの外展開を敢えて温存し、試合後半の最後の15分に溜めをつくる。
アルゼンチンは前回大会からの4年間で急激にFWが進化した。ここ4年間の試合でも、押し合いの勝負では南ア・オーストラリアと互角の勝負ができるまでになり、過去にはNZ相手にも前半終了時点でリードを奪う試合もあった。しかし、いつも後半のこり20分からNZの猛烈な逆襲を浴び、終わってみれば大差の敗戦、ということを繰り返していた。
アルゼンチンは、NZに対して、いままでとは試合の仕方を変えてくるよりも、いままでやってきたことを鍛え抜いて伸ばす方向で準備をしてきた。試合前半に限って言えば、それは成功したと言ってよいだろう。前半終了の時点では、13-12で、わずか1点の差ながらもリードして折り返している。
おそらく、そこまで含めて、NZのゲームプランだったのではないか。アルゼンチンはかなり自分たちのラグビーができていたが、それはNZによって戦術的に「させられていた」試合展開だったと思う。今回のNZは、いつもよりもFW陣の途中交代を早めに行っている。最初から消耗戦になることを想定した上で、体力を残した選手を惜しげも無く投入している。
試合後半、のこり15分を切ってから、いきなりNZは別チームに変わったかのように展開の仕方を変えてくる。それまで温存していたバックスリーをどんどん走らせ、外勝負でトライを連取した。それまでの削り合いですでに消耗していたアルゼンチンFW陣は、足が止まってしまい、NZの展開ラグビーについていけなくなった。後半終了間際には足をつった選手が多くグラウンドに倒れていたが、そのほとんどはアルゼンチンの選手だった。
試合全体を見てみると、あれだけアルゼンチンが押しまくっているように見えながら、NZは敵陣でのボール保持率が69%。一方のアルゼンチンは敵陣保持率が58%に留まっている。また最後の10分間、NZが試合のリズムを変えてからは、80%の割合でアルゼンチン陣で試合が進んでいる。攻撃で進んだ距離は、NZの543Mに対し、アルゼンチンは366M。ゲインラインを突破した回数も、NZの161回に比べて、アルゼンチンは116回。思ったほどアルゼンチンは優位に試合を進めてはいない。これはアルゼンチンが「ディフェンスとスクラムでは善戦したものの、トータルとしてはNZの戦術に嵌ってしまった」ということだと思う。フィットネスでは互角に戦えるまでになったが、「試合巧者」であるためには、まだまだアルゼンチンには勉強が必要だろう。
逆に言えば、今大会のアルゼンチンは、NZにそこまで「個別対策」をさせるほどのチームに成長した、ということだと思う。NZは明らかにアルゼンチンの傾向を研究し、「後半残り15分に弱い」という特徴につけ込む作戦をとってきた。初戦ということもあり、慎重にゲームに入った感じは否めない。
いままでのNZとアルゼンチンの実力差であれば、NZは作戦なしで自分たちのラグビーをしてきただろう。今回のように、アルゼンチンの意図通りに前半はFW戦の押し合いになったとしても、それでもFWで押し切る実力差があった。ところが今回は、アルゼンチンのプラン通りにFW戦を受けて立ち、アルゼンチンの予想外の奮闘により、押される展開になった。そこはNZの誤算だっただろう。
NZは試合前半では外展開を控えたため、経験値の少ない新戦力をバックスリーに抜擢している。そこでうまくはまればラッキーボーイが登場するチャンスでもあったが、僕の見るところ、今回のNZのバックスリーはいまいちだった。
特に、右WTBのミルナースカッダーは、及第点にはほど遠い。W杯前の代表経験はほとんどなく、わずか2キャップでW杯のスタメンに選ばれた若手だ。伸びのあるランニングには確かに伸びしろを感じるが、キック処理とハンドリングがまだまだ雑だ。ターンオーバーからのキック処理に難点があり、戻りが遅い。
特に悪かったのが、ライン際のキック処理だ。WTBのキック処理は、最初にラインの外に構えて、ライン内に飛び込みながらボールをキャッチするのが基本だ。ラグビーでは空中はライン外には含まれないので、ボールが空中でラインから出ていても、キャッチした後の着地がライン内であればインプレーになる。しかしミルナースカッダーは逆に、ラインの中から外に出ながらキックボールを捕球し、相手ボールラインアウトにしてしまっていた。後方へのキック処理が甘いところを突かれて、幾度となくアルゼンチンSOニコラス・サンチェスにハイパントを狙われている。
その他にも、トライ寸前でラストパスをノックオンするという「WTBが絶対にやってはいけないミス」を犯している。ミルナースカッダーにもっとプレイの確実性があれば、前半でもNZのFW陣はもっと楽な試合展開ができたのではないか。バックスリーの経験値の少なさが、今後NZのアキレス腱になる危険性がある。
劣勢だったNZのリズムを変えたのは、やはりハーフバックスだった。SHアーロン・スミス、SOダン・カーターの「世界最高のハーフバックス」は、いくらアルゼンチンに追いつめられた展開になっても慌てなかった。
前半終了直前に、FLリッチー・マコウ、CTBコンラッド・スミスのふたりをシンビンで欠き、NZはFWとBKのリーダー両方を欠く状態で戦う状況に追い込まれる。厳しい局面だったが、効果的に球を散らし、人数不足が不利にならないように配球を工夫していた。SHアーロン・スミスはリーダー不在のFWをうまく統率し、難しい時間帯を乗り切った。
試合後半に、NZハーフバックスの二人はゲーム展開をがらっと変え、FW同士のガチンコ勝負から、アルゼンチンの疲労のたまるFWと勢いに先走るBKのギャップをつく戦術に切り替えた。後半17分には、疲れの見えたアルゼンチンFWの一瞬の隙をついて、SHアーロン・スミスがトライを奪っている。アルゼンチンが本気でNZに勝つためには、ハーフバックスのふたりを絶対にフリーにしてはいけない。しかし結局は、そのふたりに試合展開をひっくり返された。
試合後半でNZが展開の仕方を変える際には、途中出場のソニービル・ウィリアムスが効いていた。通常のセオリーとは違う軌道のランニング、タックルされて死に体になっても片腕一本さえ活きていれば展開につなげられるオフロードパス、密集するFW陣を縦に切り裂く体幹の強さなど、豊富なアイデアと意外性があり、NZが息を吹き返すためのリズムを作った。堅実なプレーで正攻法に優れるノヌーに替えて、変則攻撃を得意とするソニービルを投入したということは、NZは最初から、展開の仕方を変える合図としてのソニービル投入を既定路線として準備していたのだと思う。
ソニービル・ウィリアムスは前回大会ではWTBとして途中出場したが、持ち味を活かしきれたとは言いがたい。やはりソニービルは、インサイドセンターとしてオフロードパスを駆使してこそ活きる。今回の試合は「ソニービルはこう使うんだ」という見本のような試合だったと思う。
結局アルゼンチンは、NZの試合運びの巧みさにしてやられた展開だった。FW戦を制し、相手を2人退場に追い込み、機動力で勝っていながらも、それでも試合には負けた。NZにしてみれば、思ったよりも手こずったのは確かだろうが、戸惑いながらも慌てることはなく、80分かけて冷静に試合を自分たちのペースに引き込んだ。
アルゼンチンの試合運びは、決して間違ってはいなかったと思う。破壊的な攻撃力を誇るNZに勝つためには、今回の試合のように忍耐強くディフェンスを徹底し、FWが密集戦の主導権を握り、ロースコアの勝負に持ち込むのが王道だ。2007年大会には、同じ戦術でフランスがNZに番狂わせの勝利を挙げている。フランスとアルゼンチンの差は、その戦術を80分継続するだけのスタミナと、「あと1手」の決め手になるBK陣の攻撃オプションの幅だろう。
今回の大会の傾向として、トップの国々と、中堅国の実力差が縮まっている。ラグビーは15人と人数が多いため、実力差が結果に反映されやすく、番狂わせが起きにくい。突出したひとりのタレントに、勝負の比重がかかりにくい。個々のフィットネス以外に、チーム戦術としての熟練度が勝敗を分けることがある。
今回のアルゼンチンのように、強豪国を追いつめる試合は今後も増えるだろう。そういう国が強豪国に勝ちきるためには、フィットネス以外にも、「試合をどのように進めるか」というゲームプランとその理解度が、差を分けるだろう。
僕もWTBだったので見る目が厳しいんです。


