僕は一応、言語学者ですので、日常使われている言葉で分からないものがあったら積極的に調べるようにしています。
そんな僕ですが、どうしても意味が分からなかった言葉がありまして。


「ポップでキッチュ」って、どういう意味?


昨日や今日の話じゃありません。僕が中高生の頃から使われている言葉なので、もうかれこれ20年ほど言葉の意味を追っていることになりますか。
僕が中高生の頃っていえばバブル景気の真っ最中ですので、その頃から使われている言葉ということになります。

この言葉を聞くのは、若年層の女の子の会話の中が多かったんですが、雑誌なんかでもよく見かける言葉です。
僕はこの言葉を耳にするたびに「それ、どういう意味?」と語義を訊いてみるのですが、誰一人としてその言葉を正確に定義できる女の子がいない、という謎の言葉です。「意味が分からないのに使う」という、言語的にとても不思議なことが起きています。
最近ではあまり口語でこの言葉を聞くことは少なくなりましたが、それでも雑誌媒体や週刊誌の広告などでたまに見かけます。

以来、女性諸氏(主に嫁)に聞き取り調査を継続し、自分なりになんとなく「こういう意味かな」という感じが掴めてきたような気がします。
合ってるか間違っているか分かりませんが。

まず「ポップ」ですが、これはどうやら「やたらに原色に近いカラフルさに溢れている」というくらいの意味らしいです。だから範疇としては「視覚に基づく色彩感覚の言葉」ということになります。
この言葉が難しいのは、どうやら単に「色が多けりゃいい」というわけではなさそうだ、という所です。色数の多さだけでなく、「かわいい色」である必要があるようなのです。イメージとしてはパステルカラーですかね。

次に「キッチュ」ですが、これはどうやら「親しみやすさ」「手に入りやすさ」「喪失感の薄さ」などを足して割ったような意味の言葉のようです。そう言うとなんとなく分かりにくいですが、ずばり言ってしまうと「安物っぽさ」を表しているようなのです。
だから、すごい高級感があって値段も高く、慎重に扱わなければならないような貴重品は「キッチュ」ではないようです。小銭程度で買えて、壊れたり無くしたりしたところで別に精神的なダメージを受けない、簡単に買い替えが効く、という程度の「日常品」的な感覚が、「キッチュ」の語義のようです。だから、「キッチュ」というのは視覚の用語ではなく、経済概念の用語に分類されると僕は見ています。まぁ、女の子は「服の色に合わせてカバンを変える」ということを頻繁になさるようなので、数が必要なのでしょう。そうなると必然的に、ひとつのものに高い金はかけられない、ということになるのだと思います。



僕は文房具が趣味なので、ペンを例にこれらの用語を分類してみます。
超高級筆記用具、たとえばモンブランの万年筆のようなやつは、色彩も単一ですし、高級感が全開です。こういうのは「どっちでもない」に分類できそうです。


モンブラン

ポップでもキッチュでもない 


一方、たとえばLAMYのサファリシリーズのような筆記用具は、カラフルなバリエーションで商品の躍動感を演出しています。しかし値段は4000円〜6000円くらいで、学生にとっては「買いやすい」とはとても言いがたい商品でしょう。
こういうのは、「ポップ」ではあるが「キッチュ」ではない、と分類できそうです。


ラミーサファリ

ポップではあるがキッチュではない 



お求めやすい文房具として地位を確立した無印良品はどうでしょう。これらは、ゲルインキボールペンなどはかなり色数のバリエーションが揃っています。しかし、女子中高生が熱中して集めるような「かわいい色」ではありますまい。値段は安いし、まとめ買いもできますが、色的にちょっと落ち着いた感じがあります。
こういうのは、「キッチュ」ではあるが「ポップ」ではない、と分類できそうです。


101

キッチュではあるがポップではない 


大手の文房具屋で女子中高生が群がっているのは、やはり売れ筋商品の「安いボールペン」です。まぁ、お金がないからしょうがないですね。文房具メーカーでもその辺の層をターゲットに定めた薄利多売商品にも力を入れていて、「全色そろえよう!」のようなシリーズ展開を繰り広げています。
僕はこの手の文房具をあまり使わないんですが、最近ちょっとZEBRAの「Prefill」というシリーズを購入しました。ポイントごとに色を分ける筆記をする必要があるときは、やはり多色ボールペンは便利です。そのため、女子中高生に混じって文房具屋さんで「かわいい文房具」を買い求めました。最近の多色ボールペンは、自分で色を選んで組み合わせを作れるようになってるんですね。しかもペン軸が300円程度、リフィルの替芯が100円程度と、女子中高生の皆様にもお求めやすい価格になっています。


プレフィール


ポップであり、かつキッチュでもある 



僕の趣味は、基本的に基本色のモノトーンで、しかも「多少高くても良いもの」をひとつ持つ高級指向ですので、ポップでもキッチュでもないことになります。
コンピューターでも、Windowsマシンはカラーバリエーションが豊かで、たまにキッチュなものがありますが、Macは頑にポップでもキッチュでもない路線のような気がします。iPodなどの消耗機器でも、一応カラーバリエーションを揃えてはいますが、女子中高生がキャーキャー騒ぐような感じの軽い色彩ではなく、ポップさを抑えているカラーデザインになっているような気がします。

僕が日常的に接している大学生世代だと、この好みがはっきり分かれるのは、カバンですかね。
おシャレで「その年の流行」的なカバンは、おおむねキッチュです。はっきり言って安物感が全開です。一方、一生もので使えるような本革の鞄を使っている女の子もたまにいますが、僕としてはこちらのほうが趣味がよろしいと感じてしまいます。

まぁ、語義の掴みが合っているか間違っているかは分かりませんが、こう定義しておくと、とりあえず何を言っているのか分かるような感じです。



あ、これはどう?これって「キッチュ」?

「うーん、キッチュではないわね。ポップではあるけど。」

あ、じゃあこれは?これも「ポップ」でしょ

「あら、これはポップじゃないわよ。どっちかというとキッチュね。」

あの、思うんですけどね

「なあに?」

話をまとめますと、ポップでキッチュなものというのは、子供の使うものではないかと

「は?」

もうワレワレはいい大人ですから、ポップでもキッチュでもない、落ち着いたものを持つべきではありませんか

ハー「あのね、何を言っているの」

はぁ。

「『大人だから落ち着いたものを持つべき』ってのは、一面的な価値観なのよ」

はぁ。

「それぞれのカテゴリーを、場合と状況によって使い分けてこそのオトナなのよ」

はぁ。

「だから、大人だからってポップさやキッチュさを否定するべきではないのよ」

はぁ。

「だから、私が今年のカバンを買うのも、大人として当然のことなのよ」



ちょっと待て。