『自民の敗北 佐賀の乱で見えたこと』
(2015年1月14日 朝日新聞社説)
「大学入試に出題される頻度No.1」という恥を、堂々と宣伝文句にする朝日新聞の面目躍如たる社説。
僕が現代文や小論文の出題担当者だったら、ぜひ内容要約問題に使いたい文章だ。つまり、内容が破綻しており、何を主張したいのか全く分からず、趣旨が一貫していない。
朝日新聞の社説の根本姿勢は、「日本なんて潰れてしまえ」だ。国益に反する方向に世論を誘導し、外患が容易となる政策を声高に主張する。少なくとも、そう批判されても仕方がない。
今回の社説も、要するに言いたいことは、現在の自民党政権に対する批判に過ぎない。先月の衆議院選挙で、朝日新聞は現政権へのネガティブキャンペーンを大々的に展開し、「選挙によって、政権にNOを突きつける民意が明らかになるだろう」と豪語した。しかし結果として自民党・公明党は大勝。現状認識の誤りが明らかになり、朝日新聞は面目を失った。
今回の社説は、その延長上にある。1月11日の佐賀県知事選で、自民、公明両党推薦の樋渡啓祐氏が破れ、新顔の山口祥義氏が当選した。これをもって朝日新聞は「ほらみろ、やっぱり地域住民は自民・公明にNOを突きつけたじゃないか」と鼻息を荒くしている。衆議院選で予測を外した失態を少しでも回復しようとする、せめてもの負け惜しみだろう。
この社説で論じられていることは、矛盾ばかりだ。特に、「地方選と国政の関係」と「結果分析に対する評価」のふたつで、相反する内容を並べており、結果として何が言いたいのかまったく分からない社説になっている。
まず、自民・公明にとって、佐賀県の知事選で負けたら、それが何なのだろうか。
国政選挙と地方選挙は、それぞれ異なる基準で候補者に投票するべき、別の問題だ。僕だって、知事選や県議会選で投票する政党と、国政選挙で投票する政党が異なることなど普通にある。別に地方選と国政選で同じ勢力に投票しなければならない理由はなく、それぞれの選挙ごとにマニフェストと実績を汲み取って、独立して考えて投票しなければならない別事案だろう。
社説全体の趣旨は、明らかに「だから安倍政権はダメなんです」だろう。佐賀の知事選で自民・公明推しが負けた。つまり佐賀県民は自民・公明にNOを突きつけた。だから国政でも自民・公明はダメだ。そう言いたいのだろう。それは、結語を「問われたのは、民意に対する安倍政権の姿勢そのものだ」で締めていることからも明らかだ。
しかし、同じ社説の文章中で朝日新聞自身が、佐賀県知事選の結果について「それを安易に国政に結びつけるべきではない」とも述べている。佐賀知事選の結果が国政への批判につながるのか、つながらないのか、さっぱり分からない。
地方政治と国政の関係は、単純に部品と全体の関係ではない。佐賀には佐賀なりの事情も状況もある。先に行われた衆議院選と同じ軸で議論をすることに、それほど意味があるとは思えない。
その「佐賀なりの事情」を、朝日新聞は農業問題と見ている。佐賀県は鉱工業や生産業による輸出産業が盛んではなく、農業が主体の県だ。朝日新聞は今回の佐賀県知事選の結果を招いた理由として、以下のように論じている。
なんだかよく分からないように工夫して書いているが、「改革派」だの「農協改革」だのの背景にあるのは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)だ。「人、モノ、サービスの流動性を高める」という綺麗事のもと、関税を撤廃して貿易を活発化させようという協定だ。厳密にはTPPは知的財産権や環境基準などを包括する幅広い協定だが、日本の産業界の浮沈に直結するのは関税問題だけと断じて良い。
日本は自動車や精密機械の輸出によって生き延びている国なので、関税を撤廃すれば輸出収入が増える。だから政権はTPPの締結に前向きな方向で検討を続けている。一方、関税が撤廃されて海外の安価な食料品が輸入されると、日本の農業は壊滅的な打撃を受ける。日本の農作物はグラム単位の単価が高いので、海外の安価な農作物が入ってきたら危機を被る。つまりTPPの締結というのは、「カネ儲けを優先して、日本の農業を見殺しにするのか」という問題だ。
佐賀県は農業県なので、TPPの締結にはもちろん反対の民意が強い。朝日社説の言う「農協改革」というのは、要するにTPPに反対する農協勢力を排除して、国策に沿う人材だけで農協を構築しようとする「人の入れ替え」を意味する。自民・公明が支持した樋渡啓祐氏は、その入れ替えを図る側の立場だ。
県知事選でそれが選ばれなかったということは、県民がTPP推しの政策に反対したということだ。これについて朝日社説は、「やり方が強引すぎたからだ」と主張している。
しかし朝日新聞は、もともとTPPには賛成の立場だ。2014年9月7日の朝刊では「TPPは消費者にメリットをもたらす」という前提で、TPPに賛同する姿勢を示している。左派の朝日新聞は工業労働者を支持する立場なので、輸出産業を活発にするTPPを容認する立場をとる。保守系との結びつきが強い農業関係者は、もともと朝日新聞の読者層ではない。
つまり、佐賀県知事選の結果は、従来朝日新聞が主張していたTPP擁護の立場にとっても打撃のはずだ。その朝日新聞が、こともあろうに、TPP反対の農業関係者の民意を根拠に、現政権を批判しているわけだ。自社の主張とぶつかる結果が出ようとも、「政権批判のネタになるんなら、それもいいや」という、無節操な態度だ。少なくとも、日本の行く末について真剣に考えている新聞の態度ではない。
今回の朝日社説の内容が不可解なのは、本来であれば批判するべき事態を、「現政権の批判に役に立つ」というだけの理由で擁護しているからだ。自社の立場や主張と反することでも、「反安倍政権」を何よりも最優先し、肯定する立場に立つ。そして、そこから生まれる批判を受けないために、わざと分かりにくく記事を書いている。
佐賀県知事選の結果を「民意の反映」として捉えると、要するに「TPP反対」ということだ。だから馬鹿正直に「佐賀県民の総意はTPP反対だ。だからTPPを押し進めようとする安倍政権はダメだ」と書き、TPP導入を徹底的に叩けばいいだけの話だ。しかし、朝日の購買層である輸出産業界はTPPに大賛成のため、露骨にTPPを叩くと購買層からの反発を受ける。だから朝日社説はわざと「TPP」というキーワードを隠し、「農協改革」「規制改革」などという、実態がよく見えない言葉でごまかしている。
ごまかしの最たるものは、最後の段落にある「今回の結果を、農協改革の是非という狭い枠組みだけでとらえるべきではなかろう」というまとめ方だ。「だったら言うな」だろう。自分で持ち出した根拠を自分で否定して、一体何をしたいのだろか。農協改革の是非を根拠に現政権を批判しておいて、「それだけで今回の結果を捉えるべきではない」というのであれば、朝日新聞の政権批判は根拠を失う。
このまとめ方は要するに、朝日新聞の購買層に対する言い訳だろう。「TPP導入に反対の結果が出てしまいましたけれど、それだけが今回の選挙結果の理由ではありませんよね。すべて安倍首相が悪いんですよね」という媚に過ぎない。
自分たちの主張を曲げることなく政権の批判をするのであれば、それはそれで立派な態度だ。また、それが新聞の果たすべき役割でもあるだろう。しかし、まず「政権批判ありき」で、自社の主張と反することでも政権批判のためならば節操なく持ち上げる態度は、まっとうな新聞社のあり方とは思えない。
『自民の敗北 佐賀の乱で見えたこと』
(2015年1月14日 朝日新聞社説)
(2015年1月14日 朝日新聞社説)
「大学入試に出題される頻度No.1」という恥を、堂々と宣伝文句にする朝日新聞の面目躍如たる社説。
僕が現代文や小論文の出題担当者だったら、ぜひ内容要約問題に使いたい文章だ。つまり、内容が破綻しており、何を主張したいのか全く分からず、趣旨が一貫していない。
朝日新聞の社説の根本姿勢は、「日本なんて潰れてしまえ」だ。国益に反する方向に世論を誘導し、外患が容易となる政策を声高に主張する。少なくとも、そう批判されても仕方がない。
今回の社説も、要するに言いたいことは、現在の自民党政権に対する批判に過ぎない。先月の衆議院選挙で、朝日新聞は現政権へのネガティブキャンペーンを大々的に展開し、「選挙によって、政権にNOを突きつける民意が明らかになるだろう」と豪語した。しかし結果として自民党・公明党は大勝。現状認識の誤りが明らかになり、朝日新聞は面目を失った。
今回の社説は、その延長上にある。1月11日の佐賀県知事選で、自民、公明両党推薦の樋渡啓祐氏が破れ、新顔の山口祥義氏が当選した。これをもって朝日新聞は「ほらみろ、やっぱり地域住民は自民・公明にNOを突きつけたじゃないか」と鼻息を荒くしている。衆議院選で予測を外した失態を少しでも回復しようとする、せめてもの負け惜しみだろう。
この社説で論じられていることは、矛盾ばかりだ。特に、「地方選と国政の関係」と「結果分析に対する評価」のふたつで、相反する内容を並べており、結果として何が言いたいのかまったく分からない社説になっている。
まず、自民・公明にとって、佐賀県の知事選で負けたら、それが何なのだろうか。
国政選挙と地方選挙は、それぞれ異なる基準で候補者に投票するべき、別の問題だ。僕だって、知事選や県議会選で投票する政党と、国政選挙で投票する政党が異なることなど普通にある。別に地方選と国政選で同じ勢力に投票しなければならない理由はなく、それぞれの選挙ごとにマニフェストと実績を汲み取って、独立して考えて投票しなければならない別事案だろう。
社説全体の趣旨は、明らかに「だから安倍政権はダメなんです」だろう。佐賀の知事選で自民・公明推しが負けた。つまり佐賀県民は自民・公明にNOを突きつけた。だから国政でも自民・公明はダメだ。そう言いたいのだろう。それは、結語を「問われたのは、民意に対する安倍政権の姿勢そのものだ」で締めていることからも明らかだ。
しかし、同じ社説の文章中で朝日新聞自身が、佐賀県知事選の結果について「それを安易に国政に結びつけるべきではない」とも述べている。佐賀知事選の結果が国政への批判につながるのか、つながらないのか、さっぱり分からない。
地方政治と国政の関係は、単純に部品と全体の関係ではない。佐賀には佐賀なりの事情も状況もある。先に行われた衆議院選と同じ軸で議論をすることに、それほど意味があるとは思えない。
その「佐賀なりの事情」を、朝日新聞は農業問題と見ている。佐賀県は鉱工業や生産業による輸出産業が盛んではなく、農業が主体の県だ。朝日新聞は今回の佐賀県知事選の結果を招いた理由として、以下のように論じている。
知事選では、県内にある九州電力玄海原発の再稼働や、自衛隊のオスプレイ佐賀空港配備といった問題よりも、政権が進める農協改革をめぐる「政権対農協」の争いがクローズアップされた。政権が支援する樋渡氏に対し、改革に否定的な地元農協などが反旗を翻す形で山口氏を推したからだ。
農協改革など規制改革に力を入れる政権が樋渡氏を全面的に支援したのは、「改革派」の側面を買ったからだ。農業県の知事選を制すれば、抵抗が大きい農協改革にも弾みがつくとの狙いだ。
なんだかよく分からないように工夫して書いているが、「改革派」だの「農協改革」だのの背景にあるのは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)だ。「人、モノ、サービスの流動性を高める」という綺麗事のもと、関税を撤廃して貿易を活発化させようという協定だ。厳密にはTPPは知的財産権や環境基準などを包括する幅広い協定だが、日本の産業界の浮沈に直結するのは関税問題だけと断じて良い。
日本は自動車や精密機械の輸出によって生き延びている国なので、関税を撤廃すれば輸出収入が増える。だから政権はTPPの締結に前向きな方向で検討を続けている。一方、関税が撤廃されて海外の安価な食料品が輸入されると、日本の農業は壊滅的な打撃を受ける。日本の農作物はグラム単位の単価が高いので、海外の安価な農作物が入ってきたら危機を被る。つまりTPPの締結というのは、「カネ儲けを優先して、日本の農業を見殺しにするのか」という問題だ。
佐賀県は農業県なので、TPPの締結にはもちろん反対の民意が強い。朝日社説の言う「農協改革」というのは、要するにTPPに反対する農協勢力を排除して、国策に沿う人材だけで農協を構築しようとする「人の入れ替え」を意味する。自民・公明が支持した樋渡啓祐氏は、その入れ替えを図る側の立場だ。
県知事選でそれが選ばれなかったということは、県民がTPP推しの政策に反対したということだ。これについて朝日社説は、「やり方が強引すぎたからだ」と主張している。
しかし朝日新聞は、もともとTPPには賛成の立場だ。2014年9月7日の朝刊では「TPPは消費者にメリットをもたらす」という前提で、TPPに賛同する姿勢を示している。左派の朝日新聞は工業労働者を支持する立場なので、輸出産業を活発にするTPPを容認する立場をとる。保守系との結びつきが強い農業関係者は、もともと朝日新聞の読者層ではない。
つまり、佐賀県知事選の結果は、従来朝日新聞が主張していたTPP擁護の立場にとっても打撃のはずだ。その朝日新聞が、こともあろうに、TPP反対の農業関係者の民意を根拠に、現政権を批判しているわけだ。自社の主張とぶつかる結果が出ようとも、「政権批判のネタになるんなら、それもいいや」という、無節操な態度だ。少なくとも、日本の行く末について真剣に考えている新聞の態度ではない。
今回の朝日社説の内容が不可解なのは、本来であれば批判するべき事態を、「現政権の批判に役に立つ」というだけの理由で擁護しているからだ。自社の立場や主張と反することでも、「反安倍政権」を何よりも最優先し、肯定する立場に立つ。そして、そこから生まれる批判を受けないために、わざと分かりにくく記事を書いている。
佐賀県知事選の結果を「民意の反映」として捉えると、要するに「TPP反対」ということだ。だから馬鹿正直に「佐賀県民の総意はTPP反対だ。だからTPPを押し進めようとする安倍政権はダメだ」と書き、TPP導入を徹底的に叩けばいいだけの話だ。しかし、朝日の購買層である輸出産業界はTPPに大賛成のため、露骨にTPPを叩くと購買層からの反発を受ける。だから朝日社説はわざと「TPP」というキーワードを隠し、「農協改革」「規制改革」などという、実態がよく見えない言葉でごまかしている。
ごまかしの最たるものは、最後の段落にある「今回の結果を、農協改革の是非という狭い枠組みだけでとらえるべきではなかろう」というまとめ方だ。「だったら言うな」だろう。自分で持ち出した根拠を自分で否定して、一体何をしたいのだろか。農協改革の是非を根拠に現政権を批判しておいて、「それだけで今回の結果を捉えるべきではない」というのであれば、朝日新聞の政権批判は根拠を失う。
このまとめ方は要するに、朝日新聞の購買層に対する言い訳だろう。「TPP導入に反対の結果が出てしまいましたけれど、それだけが今回の選挙結果の理由ではありませんよね。すべて安倍首相が悪いんですよね」という媚に過ぎない。
自分たちの主張を曲げることなく政権の批判をするのであれば、それはそれで立派な態度だ。また、それが新聞の果たすべき役割でもあるだろう。しかし、まず「政権批判ありき」で、自社の主張と反することでも政権批判のためならば節操なく持ち上げる態度は、まっとうな新聞社のあり方とは思えない。
「○○の乱」というのは、結果として鎮圧されたものを指すのだが
『自民の敗北 佐賀の乱で見えたこと』
(2015年1月14日 朝日新聞社説)
地方選には地域固有の事情が反映する。それを安易に国政に結びつけるべきではないにしても、安倍政権にとっては痛い結果だったに違いない。前知事の衆院選立候補に伴う11日の佐賀県知事選で、元総務官僚で新顔の山口祥義(よしのり)氏が当選した。衆院選で大勝した自民、公明両党推薦の樋渡(ひわたし)啓祐・前佐賀県武雄市長らを破っての「番狂わせ」である。
知事選では、県内にある九州電力玄海原発の再稼働や、自衛隊のオスプレイ佐賀空港配備といった問題よりも、政権が進める農協改革をめぐる「政権対農協」の争いがクローズアップされた。政権が支援する樋渡氏に対し、改革に否定的な地元農協などが反旗を翻す形で山口氏を推したからだ。2006年から武雄市長を務めた樋渡氏は、レンタル大手ツタヤの運営会社と組んで市立図書館を刷新、全国的な注目を集めた。また、地元医師会の反発を押し切っての市民病院の民間移譲なども進めた。市長としての行動力に高い評価を得ると同時に、強引な手法への批判もまた根強かった。
農協改革など規制改革に力を入れる政権が樋渡氏を全面的に支援したのは、「改革派」の側面を買ったからだ。農業県の知事選を制すれば、抵抗が大きい農協改革にも弾みがつくとの狙いだ。しかし、地元の側には、農協改革だけでなく、中央主導のトップダウンで知事選を仕切ろうとした政権のやり方への反発も強かったようだ。日本の農業が行き詰まりつつあるのは明らかだ。農政とともに農協の改革は避けられないという政権の意図はわかる。一方で、改革を進めようとすれば摩擦が生じる。突破するには強いリーダーシップが必要だとしても、同時に指導者の考え方を丁寧に説明し、議論を通じて異論をすくいとっていくプロセスもまた欠かせない。
原発再稼働が問われた滋賀県、米軍普天間飛行場の県内移設が争点になった沖縄県。昨年来、自民党が支援する候補が敗れた知事選を振り返ると、いずれも地元の意思よりも「国策」を優先しようとする政権の姿勢が拒否されたという構図が浮かび上がる。
4月の統一地方選を控え、安倍首相はきのうの党役員会で「敗因分析をしっかりしたい」と述べた。今回の結果を、農協改革の是非という狭い枠組みだけでとらえるべきではなかろう。問われたのは、民意に対する安倍政権の姿勢そのものだ。