大学でレポートの指導をするときに、「原因の究明は、手触りができる情報単位まで掘れ」と教えている。


ちょっと理解しにくいが、言っていることはそれほど難しくない。要するに「もっともらしい美辞麗句を並べて分かったつもりになるな」ということだ。
Aという不思議な現象があるとする。その原因を究明するときに、「Bだからだ」という答えを仮説として用意する。学生が書くレポートの多くは、その「B」が、なんのことだか分からない曖昧な言葉になっていることが多い。

たとえば、「現在の日本の景気が落ち込んでいる理由を説明せよ」とお題を出すとする。そうすると8割くらいの学生は、「ビジネスが国際化し、インターナショナルな視点で経済が相互に関連するようになり、景気変動の理由が多様化したから」のような答えを出してくる。おそらくどこかのネットで見かけた文言のコピペだろう。

こういう類いの答案は、答えになっていない。「ではどうすればその問題を解決できるのか」の具体策につながらないからだ。その背景には、「国際化」「インターナショナル」「相互に関連」「多様化」のような、わかったつもりになれる実態のない言葉がある。こうした言葉は様々な要素が絡まる概念をいいかげんに包む大雑把な言葉であり、ことばがもつ明確な指示対象がない。こうした学生に「『国際化』ってどういうこと?」「『相互関連』の具体例は?」「『多様化』の基準は?」などと、一歩突っ込んだ質問をすると、例外なく凍ってしまう。

こういう、実態のない「わかったつもり」の言葉を、マジックワードという。このマジックワードを使って説明したつもりになっていると、思考停止に陥る。具体策につながる提言にはならない。僕は大学のレポート課題で、こうしたマジックワードを使ったレポートはことごとく落第にしている。
マジックワードに陥らないためには、言葉を砕いて砕いて、具体的に「手触りのできる」情報単位まで思考を落とし込まなければならない。「Bだからだ」という仮説を出して満足するのではなく、「Bの具体例は何か」「Bを構成する要素にはどのようなものがあるか」「Bの対立仮説は」など、さらに掘り進む必要がある。

こうした掘り進みのためには、そもそものお題である「A」を詳細に分析する必要がある。「現在の日本の景気が落ち込んでいる理由を説明せよ」というAを示されたら、「『景気』とはいったい何のことか」「『景気が落ち込んでいる』とは何のことを指しているのか」など、そもそもの問題に含まれるマジックワードをまず明らかにしなければならない。これができずに、お題を「分かったつもり」になっているうちは、問題解決は絶対に無理だ。


閑話休題。8月20日の未明、広島の10カ所以上で土砂災害が発生し、死者が70人に達した。行方不明者も多く、安否が確認されていない人も多い。被災地では小学校や中学校を避難場所としたため、夏休み明けの授業再開をずれ込ませるなど、対応に追われた。安倍晋三首相は休暇を切り上げ首相官邸に戻り、自衛隊を派遣するなど、対策・現地支援の体制を整えている。
この件について、新聞各社が社説を掲載している。


『広島土砂災害 生かされなかった過去の教訓』
(2014年08月21日 読売新聞社説)

『広島の土砂災害 救援活動に全力挙げよ』
(2014年08月21日 毎日新聞社説)

『広島の土砂災害 地域「共助」で被害防ごう』
(2014年8月21日 産經新聞社説)

『豪雨土砂災害 情報が生死を分ける』
(2014年8月21日 東京新聞社説)

『豪雨土砂災害 避難の勧告ためらうな』
(2014年8月22日 東京新聞社説)

『広島土砂災害 検証究めて命を守れ』
(2014年8月22日 朝日新聞社説)

『なお死角多い土砂災害対策』
(2014年8月22日 日本経済新聞社説)


今回の土砂災害の背景には、広島県の災害対策の遅れがある。広島では、15年前の1999年の6月にも同様の土砂災害が発生し、20数名が死亡している。その事後対応として、2001年に「土砂災害防止法」が制定された。この法律では、各都道府県が危険箇所を調査し、「警戒区域」や「特別警戒区域」に指定し、ハザードマップを作製するよう義務付けている。
今回の広島の災害は、実質上、この土砂災害防止法が機能していなかった。土砂災害防止法が定める調査には膨大な人員と時間と予算がかかり、都道府県によってはその進捗状況が大きく遅れている。今回の広島の災害場所の大半は、警戒区域に指定されていなかった。

そうした広島の「対応の遅れ」が惨事の原因だ、と正面から論じているのが読売新聞だ。広島県内の土砂災害危険箇所は3万2000か所に上り、他の都道府県と比べてもかなり多い。どこよりも予防と対策が必要だったにも関わらず、それが適切に行われていなかった。
また避難勧告の発令も遅かった。土砂災害の原因となる大雨はすでに夜半から生じ、真夜中には既に数カ所で土砂災害が発生していた。にも関わらず、広島市が避難指示・勧告を出したのは、20日の午前4時15分以降。すでに災害が発生してからのことだ。広島市の担当者は「雨量の分析を誤った」と、発令の遅れを認めている。

惨事が惨事だけに傷口に塩を擦り込む過激な論調ではないが、読売新聞の社説は、明らかに広島県の対応を非難している論調だ。「人災だ」とまでは言わないが、「もっと広島市が適切な対応をとっていれば、被害は食い止められたのではないか」という論旨が読み取れる。
つまり読売新聞は、今回の惨事の原因と対応箇所を「広島市」に絞っている。広島の対応がこうだったから、こうなった。だから広島がこうすれば、こうすることができる。現象の原因を広島市に絞っている以上、読売新聞から読み取れる今後の対策課題は「都道府県」「市町村」という、行政レベルの努力に還元されることになる。

果たして、そうだろうか。読売新聞の主張は、現象を一般化すれば「だから各都道府県は仕事を頑張れ」という、「わかったつもり」の具体策にしかつながらない。
各都道府県や市町村は、別に仕事をさぼっているわけではあるまい。地質調査や警戒区域指定などの土砂災害の対策は、できる範囲で頑張っているのだろう。今回の災害は、今までの「できる範囲での努力」ではカバーし切れなかった現象だ。できる限りのことを頑張っている市町村に対して、「それ以上の努力をしろ」というのは、建設的な提言になっているのだろうか。

つまり読売新聞は、「土砂災害防止法に基づいて警戒区域指定の努力を続けろ」という「マジックワード」に到達した時点で、思考を止めてしまっている。本気で具体策につなげようとしたら、その次段階として「では、なぜ警戒区域の指定が進んでいないのか」「土砂災害防止法の徹底に必要な人員・予算・環境面での条件は何か」など、その先の問いまで掘り進めなければならない。
普通に考えて、役所はただでさえ少ない人員で通常業務をこなしている。そこへ土砂災害防止法に基づく警戒区域指定という新しい仕事が降ってきたら、いままでの人員では人手が足りないのは当たり前だ。国会は法案をつくって終わりだろうが、立法を司る以上、その法案を実施して具体的な作業を行うために必要な予算や人員を見積もる必要がある。実質上、その仕事は国会が行っているのではなく、各都道府県に丸投げだろう。役所が独自の部署でその仕事を行うにしろ外部に委託するにしろ、負荷がかかることは間違いない。

読売新聞の主張は、いうなれば上から現場を見下ろす、国会の目線だと思う。法案が通過した。実施は必須だ。だから頑張れ。それで終わりにしている。そういう目線で今回の惨劇を見ると、「広島市の職務怠慢」という結論しか出てこない。事実上、実施が困難な法案をなんとか消化しようとする現場の事情など知ったこっちゃないし、作業が遅れている本質的な理由にも届かない。要するに、災害の再発を防ぐために必要なことが「努力と気合」という精神論に陥る。
今回の読売社説が僕の講義の課題レポートだとしたら、間違いなく落第点をつける。

それに比べると、東京新聞はまだ説得力のある社説を掲載している。東京新聞は、同様な災害が生じて人的被害を最小限に食い止めた、他の事例を紹介している。
21日の社説では、同月16日から17日にかけて記録的な大雨が降った岐阜県高山市の事例を紹介している。約170カ所で崖崩れが起きたが、人的被害は一件もなかった。

民間の気象情報会社のサービスも活用した素早く、きめ細かい避難勧告が奏功した。十七日昼に避難勧告を出した地区でその夜、土砂災害が発生して民家一棟が全壊した。住人は防災無線を聞いて小学校に避難しており、無事だった。なかなか指定が進まないとはいえ、土砂災害防止法の警戒区域は既に全国で三十五万カ所。危険を知らせる、危険を知る努力が命を守る第一歩であろう。
(東京新聞 8月21日社説)


また翌22日の社説では、2013年10月の伊豆大島(東京都大島町)の土石流災害の例を紹介している。こっちは「うまくいかなかったほうの例」で、避難勧告の遅れが災害につながった事例だ。
東京新聞は21日と22日の両日にかけて広島土砂災害の社説を掲載しているが、21日の社説は「土砂災害防止法の徹底の仕方」、22日の社説は「避難勧告のタイミング」に、それぞれ焦点を絞っている。
今回の広島の件は、災害が深夜だったこともあり、避難勧告を出すのが難しかった。昼間の避難に比べて、深夜の避難は行動が難しい。大雨がたいしたことなく避難勧告が空振りに終わった場合、住民感情としては行政に非難が向くだろう。こうした避難勧告の難しさについて、東京新聞は提言を行っている。

多くの犠牲者を出した昨年十月の伊豆大島(東京都大島町)の土石流災害でも、町が発生まで避難勧告を出していなかった。その失敗を教訓として、内閣府は今年四月、避難勧告や指示を出す際の指針を改定し、全国の市町村に通知していた。新指針は、被害想定がはずれる「空振り」を恐れず、早めに勧告を出すことを基本原則とし、夜間に避難行動が必要になりそうな場合には、早めに避難準備情報を出すことも示した。勧告を出すタイミングの事例も示し、土砂災害については、気象台などが土砂災害警戒情報を発表した段階で避難勧告を出すべきだとした。
(東京新聞 8月22日社説)


結果としては両社説とも「だから行政はがんばれ」という努力論になってしまうのだが、努力の仕方を明確に提言している分、読売社説よりも具体性が高い。また広島だけの問題として考えず、他の事例と比較して検証しているところも好ポイントだ。レポートの成績として評価すると、Aランクとまではいかないが、少なくともBはつけられる社説だと思う。

産経新聞は、他の社説とは一線を画した論調を載せている。広島市の対策の遅れや避難勧告の遅れについて、非難めいた論調を一切載せていない。産経社説は、このような災害への対策として、行政目線ではなく住民目線からの提言を行っている。「こうした災害時に必要なのは、近所同士の声かけなど、地域住民の共同対策だ」という内容だ。

災害から命を守る「自助」「共助」「公助」のなかでも、近隣住民が助け合い、地域の防災力を高める「共助」が、ゲリラ型の災害に対しては特に重要となる。土砂災害では、住宅が数メートル離れているだけで、生死が分かれるようなケースも少なくない。切迫した状況下では、避難行動の選択肢も限られる。独り暮らしの高齢者には、大雨や台風接近が予想される日には近所の家に身を寄せてもらうことで、災害時のリスクを大幅に縮小できる。今回のような深夜・未明の災害では、近隣住民同士の声かけによって命が救われることもあるだろう。

家庭ごとに安全を確保することも大事だが、10~20軒ぐらいの家が協力し、何ができるかを考えて行動すれば、より多くの命を守ることができるはずだ。それには、自分たちの住む地域でどんな災害が起こり得るか、災害時にはどんな対応ができるかを、普段から話し合っておく必要がある。地域のつながりと「共助」の力を高めるため、防災訓練などの機会に近隣住民の会合の場を設けてはどうだろう。
(産経社説)


おそらく産経社説の意図は、即効性だろう。災害対策は、長期的視野に立った対策と、短期的な努力目標の両面が必要となる。今回の災害の引き金になった大雨は依然勢力が弱まっておらず、広島の災害後の1週間くらいの間に、全国各地で同様の災害が発生する懸念がある。
産経新聞は、そうした「喫緊の必要性」に考慮し、すぐにでも実践可能な具体策を提言する方針で社説を書いたのだろう。長期的視野に立った行政の非難は後回し、とりあえず他の地域にも注意を呼びかけ、明日にでもすぐに実践可能な「心がけ」を説いている。こうした災害が頻発する時期には、行政を上から目線で訳知り顔に説教しても、何の助けにもならない。その点、産経社説の具体性は評価できる。

産経社説の欠点は、地域性を考慮していないことだ。たとえば東京新聞が紹介している岐阜県高山と、大都会である広島市では、「住民同士の関係」が大きく異なることが想像できる。これが東京、神奈川、埼玉、千葉などの都心に近くなれば、なおさら実践が難しいだろう。「住民同士で声を掛け合って」という提言は、地域によって実行可能性が大きく異なる。
土砂災害のような地域災害は、その地域によって大きく対処の方策が異なる。本来であれば、地域性や地理的条件など、局地的な条件をそれぞれの住民がよく考えて、地域にあった方策を独自に編み出す必要があるのだろう。
しかし、社説で「それぞれの地域で、それぞれに考えて」と書いたのでは、提言として漠然とし過ぎる。産経社説はその辺の事情を考慮して、日本全国のあらゆる地域で、共通項としてある程度通用しそうな「地域の連携」という最大公約数を、とりあえず掲載したのではないか。産経社説の書き方として、自社の主張内容が万能の方策ではあり得ないことを充分に承知した上で、なお緊急の必要性に応えるべく、拙速を了とした上での社説、という姿勢のような気がする。

今回の社説でいちばん良い点をつけられるのは、毎日新聞と日本経済新聞の社説だ。この両紙は、土砂災害防止法の徹底が進まない理由を、一歩踏み込んで指摘している。

広島県は危険箇所が多いが、調査に時間がかかることなどから作業が進まず、今回の被災現場も大半が指定されていなかった。危険度の高い地域の指定を優先するなど臨機応変の対応が求められる。全国的に見ても、国土交通省の調査で危険箇所は約52万カ所に上るが、3分の1は未指定で、作業は遅れている。指定されれば不動産価値が下がると住民が懸念し、理解を得にくいことも要因とされる。だが土砂災害の被害は甚大だ。住民に法の趣旨を丁寧に説明する必要があるだろう
(毎日社説)

広島市が避難勧告を出したのは土砂崩れの発生後だった。被災地は花こう岩が風化したもろい地質からなり、15年前にも大規模災害を経験している。8月に入って雨が続き、地盤もゆるんでいた。真夜中に突然、避難勧告を出すのは住民の安全確保に課題があり、自治体がためらうのは無理もない。だが雨の予報が出た段階で、注意を呼び掛ける「避難準備情報」は出せなかったのか

土砂災害の危険が高い地域では日ごろから住民に注意を喚起することも欠かせない。国土交通省によると、全国で土砂災害の危険地域は52万カ所にのぼる。土砂災害防止法は都道府県が「警戒区域」や「特別警戒区域」を定め、市町村に避難計画づくりを求めている。特別区域には宅地開発の制限もある。だが危険地域のうち3分の1は未指定だ。自治体の担当職員の不足に加え、警戒区域に指定されると不動産価格が下がるとして、地元住民が反対するケースもあるという。自治体は住民に粘り強く説明し、区域指定を急ぐべきだ。国が専門家を派遣して防災計画づくりを後押しすることも考えたらどうか。土砂災害から命を守るには、先手を打って避難するのが鉄則だ。迅速な避難行動を促すため、事前の情報周知がカギを握る。
(日経社説)


毎日も日経も、土砂災害防止法の実践の遅れの原因を「住民の理解が得られていないから」と分析している。確かに、いきなり行政に「あんたの住んでるところ、警戒区域ですよ」と公に指定されたら、いい気はしないだろう。不動産業者であれば、地価の変動に直結する死活問題だ。
つまり、地域住民には「土砂災害防止法の推進を喜ばない要因」が潜んでいるのだ。こうした要因を行政が丹念に排除していかない限り、土砂災害防止法は机上の空論になりかねない。

日経社説は、さらに踏み込んだ提言を行っている。広島市の避難勧告が遅れたのは東京新聞も指摘してる通りだが、警告はなにもいきなり避難勧告を出さなければいけないわけではない。大雨警報、避難準備情報、非難勧告、と順次警戒レベルを高めていく方法がある。こうした「情報発信の方法の整備」という視点は、単に避難勧告の遅れを責めるよりも、よほど建設的だ。
日経社説は、他紙が指摘している論点をすべて包括した上で、さらにそれを一歩進めて具体策まで掘り進んでいる。「広島市は努力が足りない」という安易な根性論ではなく、避難勧告と土砂災害防止法実施の両面で、きちんと具体案まで砕いている。毎日社説では前者の視点が欠けている分、日経社説のほうに軍配が上がるだろう。レポートの成績として評価すると、毎日新聞がA、日経新聞がA+くらいの評価だろう。


問題が生じて、それに解決案を提案するときに、マジックワードを散りばめて提言をしたつもりになっているうちは、何の実効性もない。「わかったつもり」になっているだけの提言は、気持ちに作用するかもしれないが、必要なのは気持ちではない。実行可能な具体策だ。そこまで思考を掘り下げ、噛み砕き、自分の行動に還元できる提言でないと、単なるかけ声と同じだ。そういう見方で社説の読み方をすれば、大学のレポートで無様な成績をとるようなことはないと思う。



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『広島土砂災害 生かされなかった過去の教訓』
2014年08月21日 読売新聞社説

谷を流れ下った大量の土砂が、多数の住宅をのみ込んだ。局地的豪雨に見舞われた広島市内の10か所以上で20日未明、土石流や崖崩れが発生した。約40人の死亡が確認され、行方不明者もいる。痛ましい災害だ。夏休み中だった安倍首相は急きょ、首相官邸に戻り、被災者の救命・救助にあたっている自衛隊の増員などを指示した。現地では、救助活動中の消防隊員も犠牲になった。警察や消防、自衛隊は、二次災害に注意を払いつつ、不明者の捜索に全力を挙げてもらいたい。

気象庁によると、広島市安佐北区では、20日午前4時半までの3時間雨量が200ミリを超えた。例年の8月1か月間の1・5倍の降水量だった。大量の雨水が、土砂と樹木を巻き込みながら、山裾の住宅地に流れ込んだ。甚大な被害が出た原因として、広島特有のもろい地質が指摘される。花こう岩が風化し、堆積した「まさ土」の上に、多くの住宅が建てられている。広島県内の土砂災害危険箇所は3万2000か所に上り、都道府県の中で突出して多い。日頃からの備えが、どこよりも求められていたと言えるだろう。

広島市では1999年6月にも、今回のような崖崩れなどが発生し、20人が死亡した。この災害をきっかけに、土砂災害防止法が2001年に施行された。防止法は、都道府県が、危険箇所を調査した上で、警戒区域や特別警戒区域に指定し、市区町村がハザードマップを作製するよう義務付けている。特別警戒区域では、宅地開発が規制される。だが、今回の被災地域の多くは警戒区域に指定されていなかった。人員不足で指定作業が追いつかないとの証言もある。防止法が機能しなかったのは残念だ。

広島市が住民に避難指示・勧告を出したのは、20日午前4時15分以降だった。既に、土砂災害が発生していたとみられる。市は「雨量の分析を誤った」と、発令の遅れを認めた。ただ、適切に避難指示・勧告が発令されても、豪雨と暗闇の中での避難は、危険が伴う。広島市に限らず、夜間や未明に発生した災害での避難の在り方は、重要な検討課題である。今回の豪雨は、日本海にある前線に、南の暖かく湿った空気が流れ込んだことが原因だ。この気圧配置はしばらく続くという。西日本を中心に、警戒を怠れない。

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『広島の土砂災害 救援活動に全力挙げよ』
2014年08月21日 毎日新聞社説

局地的な豪雨に見舞われた広島市北部で土砂崩れが発生し、住宅が押しつぶされるなどして多くの死者・行方不明者が出た。警察や消防、自衛隊による救助・救援活動が急がれるが、救助中の消防隊員が犠牲となり、2次災害に注意しながらの作業となる。政府は被災地の復旧や住民支援に全力を挙げてほしい。今月に入って、西日本を中心に台風11号による大雨が続いた。その後も前線が日本列島上空に停滞し、度重なる雨で地盤は緩んでいる。わずかな雨でも土砂災害が起きる恐れがあり、今後も厳重な警戒が必要だ。

広島市北部で20日未明の3時間に平年の8月1カ月分の雨量を大きく上回る雨が降った。広島地方気象台は記録的短時間大雨情報を発表し、その約30分後に広島市が避難勧告を出した。しかし、既に土砂崩れが発生し、住民からの通報が相次いでいた。行政の対応は後手に回った。なぜ被害が発生する前に避難指示や勧告を出せなかったのか。徹底的に検証し対策を講じる必要がある。被災現場は山間部を切り開いて宅地開発が進められた地域だ。広島県には風化した花こう岩の上を薄い表土が覆う地質が広がり、雨で水がたまると斜面は崩れやすくなる。今回も、これまでの雨が土壌にたまり、短時間に大量の雨が降ったことで土石流などが発生したとみられる。

1999年6月には広島市などの住宅地で31人が死亡し1人が行方不明になる集中豪雨があった。この災害を受けて制定されたのが土砂災害防止法だ。法に基づき、都道府県は土砂災害危険箇所を調査した上で警戒区域や危険性のより高い特別警戒区域に指定する。市町村は避難体制を整備し、警戒区域を示す地図を作製、周知する。ソフト面の対策を充実して住民の安全と生命を守るのが狙いだ。

広島県は危険箇所が多いが、調査に時間がかかることなどから作業が進まず、今回の被災現場も大半が指定されていなかった。危険度の高い地域の指定を優先するなど臨機応変の対応が求められる。全国的に見ても、国土交通省の調査で危険箇所は約52万カ所に上るが、3分の1は未指定で、作業は遅れている。指定されれば不動産価値が下がると住民が懸念し、理解を得にくいことも要因とされる。だが土砂災害の被害は甚大だ。住民に法の趣旨を丁寧に説明する必要があるだろう。

近年、局地的な豪雨が各地で増えている。山地や河川の多い日本では、いつどこでどんな自然災害が起きてもおかしくない。これまでの常識にとらわれず、幅広く事態を想定した災害対策が全国すべての自治体に求められる。

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『広島の土砂災害 地域「共助」で被害防ごう』
2014年8月21日 産經新聞社説

広島市を襲った局地的豪雨により、北部の山沿いで住宅を巻き込む土砂災害が多数発生し、甚大な被害が出た。強い雨がやんだ後も、土砂災害や河川の氾濫は起きやすい。住民の安全確保を図り、行方不明者の捜索、救助に全力をあげてもらいたい。日本海に停滞する前線の影響で、日本列島は大気が不安定な状態が続いている。今夏は九州から東北までの各地で、局地的豪雨などによる災害が相次いで起きている。

秋の台風シーズンまでは、豪雨災害が起きやすい。土砂災害や河川の氾濫から命を守るために、備えと心構えを新たにしたい。土砂災害が多発した広島市北部では、20日未明になって雨が激しさを増し、1時間で100ミリ、3時間では200ミリを超える猛烈な雨になった。線状降水帯と呼ばれる特徴的な積乱雲が、狭い範囲に豪雨をもたらした。地球温暖化やヒートアイランド現象の影響で、近年は「ゲリラ型」の局地的豪雨が多発する傾向にある。都道府県や市町村単位の防災より、さらにきめ細かな対応が求められよう。

災害から命を守る「自助」「共助」「公助」のなかでも、近隣住民が助け合い、地域の防災力を高める「共助」が、ゲリラ型の災害に対しては特に重要となる。土砂災害では、住宅が数メートル離れているだけで、生死が分かれるようなケースも少なくない。切迫した状況下では、避難行動の選択肢も限られる。独り暮らしの高齢者には、大雨や台風接近が予想される日には近所の家に身を寄せてもらうことで、災害時のリスクを大幅に縮小できる。今回のような深夜・未明の災害では、近隣住民同士の声かけによって命が救われることもあるだろう。

家庭ごとに安全を確保することも大事だが、10~20軒ぐらいの家が協力し、何ができるかを考えて行動すれば、より多くの命を守ることができるはずだ。それには、自分たちの住む地域でどんな災害が起こり得るか、災害時にはどんな対応ができるかを、普段から話し合っておく必要がある。地域のつながりと「共助」の力を高めるため、防災訓練などの機会に近隣住民の会合の場を設けてはどうだろう。

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『豪雨土砂災害 情報が生死を分ける』
2014年8月21日 東京新聞社説

山裾の新興住宅地で、また…。局地的な豪雨に見舞われた広島県で土砂崩れが相次ぎ、多くの犠牲者を出してしまった。過去の教訓は生かせなかったのか。命を守るため、先手先手の情報発信を。

広島市安佐南区、安佐北区で多数の住宅が土砂崩れや土石流にのみ込まれ、多くの住民が生き埋めになった。犠牲者の冥福を祈るとともに、まずは、救助や被災者支援に全力を尽くさねばならない。広島県は、花こう岩が風化した「まさ土」と呼ばれる地質が広がる。真砂土とも記され、水を含むと崩れやすい。この一帯では、一九九九年六月の豪雨でも三十二人の死者・行方不明者を出した。土砂災害の被害は、今回と同じように、まさ土の地盤に造成された山裾の新興住宅地に集中した。  

九九年の広島豪雨災害をきっかけに、国は土砂災害防止法を制定した。土砂災害の恐れがある場所を、都道府県が特別警戒区域、警戒区域に指定する。警戒区域では避難態勢の整備と周知徹底が義務付けられ、特別警戒区域なら、宅地開発などが規制される。今回、災害が発生した地域は、一部を除き、まだ、指定されていない場所だった。広島県砂防課によると、危険箇所は全国最多の三万二千カ所をリストアップしているが、詳細な基礎調査が必要になるため、まだ、一万二千カ所しか指定できていないという。現住者もいて、なかなか指定が進まない、というが、人々の命に関わる問題である。指定されていれば、災害の危険性に対する住民の意識も違っていただろう。広島市が避難勧告を出したのが土砂崩れの通報が相次いでからだったことと併せ、後手に回った対応が被害の拡大を招いた。未明の急激な豪雨ではあるが、情報の早期伝達は重要な課題だ。  

今月十六~十七日に記録的な大雨が降った岐阜県高山市では、約百七十カ所で崖崩れが起きたが、人的被害は一件もなかった。民間の気象情報会社のサービスも活用した素早く、きめ細かい避難勧告が奏功した。十七日昼に避難勧告を出した地区でその夜、土砂災害が発生して民家一棟が全壊した。住人は防災無線を聞いて小学校に避難しており、無事だった。なかなか指定が進まないとはいえ、土砂災害防止法の警戒区域は既に全国で三十五万カ所。危険を知らせる、危険を知る努力が命を守る第一歩であろう。

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『豪雨土砂災害 避難の勧告ためらうな』
2014年8月22日 東京新聞社説

恐れるべきは空振りか、手遅れか。局地的豪雨を予想することは難しいが、多くの犠牲者を出した広島市の土砂災害は、行政が避難勧告をためらってはならないことをあらためて示している。広島地方気象台が広島市に大雨警報を出したのは十九日午後九時二十六分。二十日午前一時十五分には土砂災害警戒情報を出した。その後、市北部の丘陵地帯で雨脚が強まり、三時から四時にかけて時間雨量が一〇〇ミリを超える猛烈な雨に。広島市が最初の避難勧告を出したのは、土砂災害発生後の四時十五分だった。  

市消防局は、大雨警報を受けて十九日午後十時から防災無線で注意を呼び掛けた。「その時に避難勧告を出せていれば結果は違ったかもしれない。悔いがある」と消防局幹部は振り返っている。松井一実市長も「勧告まで出すかちゅうちょしていたと報告を受けた。空振りでも注意を促すべきだった」と述べた。今回の豪雨では、同じ場所で積乱雲が次々発生し、風に乗って一列に並ぶ「バックビルディング形成」が起きていたとみられる。大雨が狭い範囲に集中して降ることになるが、的確に予測することは難しい。未明という時間帯も、勧告をためらった要因であろう。避難先へ安全に移動できるのか…。

多くの犠牲者を出した昨年十月の伊豆大島(東京都大島町)の土石流災害でも、町が発生まで避難勧告を出していなかった。その失敗を教訓として、内閣府は今年四月、避難勧告や指示を出す際の指針を改定し、全国の市町村に通知していた。新指針は、被害想定がはずれる「空振り」を恐れず、早めに勧告を出すことを基本原則とし、夜間に避難行動が必要になりそうな場合には、早めに避難準備情報を出すことも示した。勧告を出すタイミングの事例も示し、土砂災害については、気象台などが土砂災害警戒情報を発表した段階で避難勧告を出すべきだとした。

広島の土砂災害では、新指針に沿う対応ができなかった。土砂災害の危険が高まる一時間五〇ミリ以上の「ゲリラ豪雨」は近年、増加傾向にある。土砂災害発生の恐れがある危険箇所は、全国に五十二万カ所以上ある。勧告に従う住民が少ないとの指摘もあるが、いつ起きても不思議ではない土砂災害である。空振りがあろうとも、先手の避難勧告が命を救うとわきまえたい。

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『広島土砂災害 検証究めて命を守れ』
2014年8月22日 朝日新聞社説

広島市北部の土砂災害で多くの犠牲者が出た。広島県では15年前、32人が犠牲になる豪雨があり、国が土砂災害防止法を制定するきっかけになった。その教訓が生かされなかったことは痛恨の極みだ。今回、土砂が崩れた場所の多くは、法に基づく警戒区域に指定されていなかった。広島市が避難を勧告したのは災害発生後。現場では二次崩壊が起き、消防署員が亡くなった。なぜこんなことになったのか。徹底した検証が必要だ。

積乱雲が急に発達し、1時間100ミリを超す猛烈な雨になったのは未明だった。とはいえ、土砂災害は、累積の降水量が大きく影響する。広島市では今月上旬以降、降水量が平年の3倍強。豪雨がピークを迎える前に、気象台から土砂災害警戒情報は出ていた。ただでさえ広島は地質がもろい。山すそに近い住宅地が多く、県内の土砂災害危険箇所の数は全国一だ。広島市幹部は「(雨が)収束するのではとの淡い期待があった」と言うが、認識が甘すぎた。

日本では毎年1千件前後の土砂災害が起きている。昨年10月は東京・伊豆大島で土石流が発生し、39人が犠牲になった。猛烈な雨も増加傾向にあり、温暖化の影響が疑われている。災害リスクは高まっている。命を守る網の強化が必要だ。

広島の被災地では「危険だと思っていなかった」という声が相次いだ。自治体はハザードマップをつくって公表しているが、住民はえてして「自分のところは大丈夫」と思いがちだ。よりきめ細かく、危険性を周知していく必要がある。伊豆大島や広島のケースでは、雨が夜更けに強まったことが自治体の対応を鈍らせた。当然ながら災害は昼夜関係なく起こる。気象予測に合わせた、早め早めの備えが肝心だ。

熊本県が昨年度から始めた「予防的避難」が参考になる。12年7月の未明の豪雨で犠牲者が出た反省から、夜間に大雨が心配される場合は、自治体が夕方から避難所を設け、自主避難を呼びかける。今年7月の台風8号の時は、県全域で約5千人が実際に避難した。空振りはあっても、住民の危機意識を高める効果が期待できよう。私たち自身の心がけも重要だ。裏山がある、小川がある。そうした周辺の特性を理解し、大雨の時はどう行動するかをあらかじめ考えておく。一人ひとりがそうした自助努力を積み重ね、命が奪われる事態をなくしていきたい。

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『なお死角多い土砂災害対策』
2014年8月22日 日本経済新聞社説

広島市で大規模な土砂災害が起き、多くの死者・不明者が出ている。20日未明の猛烈な雨で市内各地で土砂崩れが多発した。自衛隊や消防などが不明者を捜している。2次災害に注意し、人命救助に全力を挙げてほしい。

同市北部では20日未明に3時間で200ミリ超と、8月の月間雨量を上回る雨が降った。台風や梅雨末期ではなく、盛夏の土砂災害に不意を突かれた住民も多かったことだろう。対策にはなお死角が多いことを浮き彫りにした。ひとつが、数カ月分の雨が短時間に降る集中豪雨にどう備えるかだ。地球温暖化が犯人とは言い切れないが、集中豪雨や土砂災害は列島のどこでも油断できない。

広島市が避難勧告を出したのは土砂崩れの発生後だった。被災地は花こう岩が風化したもろい地質からなり、15年前にも大規模災害を経験している。8月に入って雨が続き、地盤もゆるんでいた。真夜中に突然、避難勧告を出すのは住民の安全確保に課題があり、自治体がためらうのは無理もない。だが雨の予報が出た段階で、注意を呼び掛ける「避難準備情報」は出せなかったのか。

土砂災害の危険が高い地域では日ごろから住民に注意を喚起することも欠かせない。国土交通省によると、全国で土砂災害の危険地域は52万カ所にのぼる。土砂災害防止法は都道府県が「警戒区域」や「特別警戒区域」を定め、市町村に避難計画づくりを求めている。特別区域には宅地開発の制限もある。だが危険地域のうち3分の1は未指定だ。自治体の担当職員の不足に加え、警戒区域に指定されると不動産価格が下がるとして、地元住民が反対するケースもあるという。自治体は住民に粘り強く説明し、区域指定を急ぐべきだ。国が専門家を派遣して防災計画づくりを後押しすることも考えたらどうか。土砂災害から命を守るには、先手を打って避難するのが鉄則だ。迅速な避難行動を促すため、事前の情報周知がカギを握る。



ここ最近カープの頑張りようが凄い。