夏のオープンキャンパスがありまして。
暑い中、大学に出勤です。
昨今は大学も受験生確保に必死でして。日本全国の大学の募集人員の合計よりも受験生数のほうが少ない時代ですから、どうやって受験生を確保するかは各大学が頭を悩ますところです。
そんなわけで昨今ではどこの大学もオープンキャンパスに力を入れています。高校生に大学に来てもらい、実際の大学を見てもらおう、というイベントです。大学の授業を体験できる模擬授業を実施したり、学食無料券を配付したり、催し物や展示・説明・相談ブースを設けたり、来場者に大学グッズをプレゼントしたり、いろんな趣向を凝らします。この時期の電車の中吊り広告には、各大学のオープンキャンパスの宣伝が多く見られます。
僕が受験生のころは学生数が多かった最後の世代で、まだ大学は受験生に対して頭が高かった時代です。もちろんオープンキャンパスなんてありませんでした。受験生は名前だけで受験校を決め、受験のときに初めてその大学に行く、ということも珍しくありませんでした。
だけど時代は変わりまして、高校生はオープンキャンパスで実際に大学に行き、自分が授業を受けることになる教室で授業を体験し、教わることになる先生と実際に話をして、自分の感触で大学を選ぶ時代です。言い様に依っては真っ当な大学選びの仕方ですね。僕がアメリカにいたときの大学でも、同じようなキャンパスツアー企画を頻繁にやっていました。
でも大学の先生の世代は、自分がオープンキャンパスで大学を選んでいませんから、受験生目線でどのようなオープンキャンパスが高校生に対して訴求力があるか、いまいち分かりにくいんですよね。大学でそういう企画を担っている重鎮の世代はなおさらです。僕も電車に乗ると、職業柄、つい広告に目を走らせて他の大学のオープンキャンパスではどういう企画をやっているのか見ちゃいますが、まぁいろんなことやってますね。
いま高校では進路指導の一環として、生徒に夏休みの課題として大学のオープンキャンパス訪問を必須にしているところも多いそうです。それぞれの大学がどのような特色があるか、自分の進路にフィットしているかどうか、報告書のようなものを書かせて提出させているんだそうです。受験を控えた3年生だけでなく、2年生や1年生が来ることもあります。
大学側の人間としては頭が痛い話ですね。どれだけ高校生に「この大学に入りたい」と思わせられるかどうか、企画段階から頭を悩ませます。いまの大学は、夏休み前の前期授業の間、ずっとこのオープンキャンパス関係の業務でてんてこ舞いになります。
まぁ、内側の感覚としては、オープンキャンパスっていうのは「教職員の文化祭」なんですよね。企画ごとにチームをつくり、担当者を決めてイベント計画を立て、会場を飾り付け、来場者を接待するわけです。
大学の先生の中には「なんで大学がそんなことせにゃならんのだ」と否定的な人もいますが、僕はこういうお祭りイベントの現場仕事がわりと好きですので、結構楽しんでやってます。
僕は大学で語学担当と留学業務を担当しているので、そのふたつの企画を担当しています。僕の大学は学べる外国語の種類が多く、留学派遣に力を入れています。だから高校生に「外国語で話せるようになろう!」「留学しよう!」「世界に出よう!」などと宣伝するわけです。
留学や語学の業務を担当している教員は比較的若手の先生が多く、企画も若手のチームに任されます。普段からわりと仲の良い先生達ですので、仕事がしやすいチームです。
僕は常々、自分が思っている以上に、生徒と大学教師の間には立場の壁があると感じています。たとえば、学生にちょっと聞きたいことがあってメールで研究室に呼び出すと、学生は「なにか怒られるんじゃないか」と思って、ものすごく緊張して研究室に来ます。
いまの高校生は年長者に対して敬意を持ってないとか何とか言われていますが、僕は全然そんなことはないと思います。彼らだって、いままで話したこともない「大学の先生」というのは、あまり落ち着いて話をできる相手ではないでしょう。オープンキャンパスで大学に行ってみたら偉そうな大学の先生がドンと構えて座っている、というのでは、あまり高校生だって親しみやすくはないと思います。
だからチームの先生同士で相談して、どうすれば高校生に興味を持たせられるかをいろいろ考えます。説明を行なうブースは、机を挟んで大学教員と来場者が対面する形式ではなく、来場者が掲示物を見ながら興味のある内容を好きに見歩ける形にしました。来場者が見ている掲示の種類を見極めながら、その掲示内容の担当の学生や教員が来場者に話しかけ、立ち話で相談にのります。じっくり話を聞いてみたい来場者用に、椅子を喫茶店やラウンジのように円形に並べ、気軽に座れるようにしました。
僕が高校生の立場だったら、実際にその大学で勉強したらどういう大学生になるのか、実際の在学生の姿を見てみたいと思うだろうな、と感じます。なのでチームの先生方と相談して、留学・語学の企画では、自分が担当している学生をたくさん動員することにしました。「外国語を勉強すればこれだけ話せるようになります」と口で説明するよりも、実際に外国語を勉強したり留学経験がある学生に、外国語を喋らせればいいんです。高校生だって、流暢に外国語を操る大学生を見れば、「おおっ」と思うでしょう。
どの高校生も、「6年間も英語を勉強しているのにちっとも話せるようにならない」という不満を感じています。それはもともと中・高の英語教育がそれを目的として作られていない、というだけの話なんですが、高校生にとっては「英語ができる=英語が話せる」という図式が固まっています。大学ってのは学問研究機関であって、英会話教室ではないんですけどね。
僕は大学で、海外に学生を派遣して現地の小・中・高等学校で授業を行なう、という海外インターンの指導をしています。英語で授業をしてくるわけですから、帰国組はみんな英語が流暢です。今回のオープンキャンパスでは、その帰国学生に、実際に現地でやってきた授業を英語で行なう、という模擬授業の企画を組みました。僕が鍛えた学生達にオープンキャンパスの動員をかけ、模擬授業組と営業組に分け、仕事を分担します。
僕は思うんですが、こういう時に自分の学生さんが力を貸してくれるかどうかは、普段からの学生さんへの接し方に掛かっているんでしょうね。
学生さんにしてみれば、夏休みの猛暑の中、大学に出向いて仕事をするわけですから、普通であれば嫌に決まってます。時期的にもお盆の前後ですから、実家への帰省の日程を無理に調整して出てきてくれる学生さんだっているでしょう。もし学生さんが嫌々仕事をさせられているのであれば、高校生の前で上手な模擬授業ができるわけありません。
そういう時に学生さんを動かすのに必要なのは、普段から学生さんと築きあげている信頼関係が全てだと思います。今回、仕事をしてくれた学生さんたちは、みんな意気込んで楽しく仕事をしてくれました。僕が担当している企画は、学生さんたちに仕事を依頼した時、学生さんが喜んで引き受けてくれた時点で、すでに成功は決まったようなもんです。仕事をしてくれる学生さんには大学から謝礼が出ますが、今回は認められている予算額を越える数の学生さんが手伝ってくれました。予算を越えた分の学生さんは、いわばボランティアで仕事をしてくれたわけですから、仕事の後に冷たいビールでも奢って埋め合わせです。
模擬授業は3人の学生さんにお願いしましたが、みんな上手に授業をやってくれました。英語力、構成力、プレゼンテーション能力、素材作成能力、すべて申し分なしです。ブースで高校生に説明を担当した学生さんたちも、高い営業力を発揮し、笑顔で丁寧に説明をしてくれました。
ほんの2, 3年前はなんにもできなかった学生さんたちが、大学の顔として仕事をしてくれるまでに成長したのを見るにつけ、僕も感無量です。今回の来場者の高校生の中から、数年後に同じ立場で大学を代表する学生さんが出てきてくれるといいですね。
模擬授業は僕の予想よりも多くの来場者が詰めかけ、盛況でした。
いわば大学を代表する模擬授業ですので、重鎮の先生方や事務方の偉い人達も見に来ました。学生の模擬授業を心配そうに見ています。まぁ、他の先生や事務方は、僕が普段学生にやっている授業なんて見たことありませんから、学生の力が分からないんですね。
学生さんが無事に模擬授業を終えると、事務の職員さんが話しかけてきました。
「たくろふ先生、海外インターンって本当に英語で授業できるようになるんですね」
だからそう言ってるだろうが
暑い中、大学に出勤です。
昨今は大学も受験生確保に必死でして。日本全国の大学の募集人員の合計よりも受験生数のほうが少ない時代ですから、どうやって受験生を確保するかは各大学が頭を悩ますところです。
そんなわけで昨今ではどこの大学もオープンキャンパスに力を入れています。高校生に大学に来てもらい、実際の大学を見てもらおう、というイベントです。大学の授業を体験できる模擬授業を実施したり、学食無料券を配付したり、催し物や展示・説明・相談ブースを設けたり、来場者に大学グッズをプレゼントしたり、いろんな趣向を凝らします。この時期の電車の中吊り広告には、各大学のオープンキャンパスの宣伝が多く見られます。
僕が受験生のころは学生数が多かった最後の世代で、まだ大学は受験生に対して頭が高かった時代です。もちろんオープンキャンパスなんてありませんでした。受験生は名前だけで受験校を決め、受験のときに初めてその大学に行く、ということも珍しくありませんでした。
だけど時代は変わりまして、高校生はオープンキャンパスで実際に大学に行き、自分が授業を受けることになる教室で授業を体験し、教わることになる先生と実際に話をして、自分の感触で大学を選ぶ時代です。言い様に依っては真っ当な大学選びの仕方ですね。僕がアメリカにいたときの大学でも、同じようなキャンパスツアー企画を頻繁にやっていました。
でも大学の先生の世代は、自分がオープンキャンパスで大学を選んでいませんから、受験生目線でどのようなオープンキャンパスが高校生に対して訴求力があるか、いまいち分かりにくいんですよね。大学でそういう企画を担っている重鎮の世代はなおさらです。僕も電車に乗ると、職業柄、つい広告に目を走らせて他の大学のオープンキャンパスではどういう企画をやっているのか見ちゃいますが、まぁいろんなことやってますね。
いま高校では進路指導の一環として、生徒に夏休みの課題として大学のオープンキャンパス訪問を必須にしているところも多いそうです。それぞれの大学がどのような特色があるか、自分の進路にフィットしているかどうか、報告書のようなものを書かせて提出させているんだそうです。受験を控えた3年生だけでなく、2年生や1年生が来ることもあります。
大学側の人間としては頭が痛い話ですね。どれだけ高校生に「この大学に入りたい」と思わせられるかどうか、企画段階から頭を悩ませます。いまの大学は、夏休み前の前期授業の間、ずっとこのオープンキャンパス関係の業務でてんてこ舞いになります。
まぁ、内側の感覚としては、オープンキャンパスっていうのは「教職員の文化祭」なんですよね。企画ごとにチームをつくり、担当者を決めてイベント計画を立て、会場を飾り付け、来場者を接待するわけです。
大学の先生の中には「なんで大学がそんなことせにゃならんのだ」と否定的な人もいますが、僕はこういうお祭りイベントの現場仕事がわりと好きですので、結構楽しんでやってます。
僕は大学で語学担当と留学業務を担当しているので、そのふたつの企画を担当しています。僕の大学は学べる外国語の種類が多く、留学派遣に力を入れています。だから高校生に「外国語で話せるようになろう!」「留学しよう!」「世界に出よう!」などと宣伝するわけです。
留学や語学の業務を担当している教員は比較的若手の先生が多く、企画も若手のチームに任されます。普段からわりと仲の良い先生達ですので、仕事がしやすいチームです。
僕は常々、自分が思っている以上に、生徒と大学教師の間には立場の壁があると感じています。たとえば、学生にちょっと聞きたいことがあってメールで研究室に呼び出すと、学生は「なにか怒られるんじゃないか」と思って、ものすごく緊張して研究室に来ます。
いまの高校生は年長者に対して敬意を持ってないとか何とか言われていますが、僕は全然そんなことはないと思います。彼らだって、いままで話したこともない「大学の先生」というのは、あまり落ち着いて話をできる相手ではないでしょう。オープンキャンパスで大学に行ってみたら偉そうな大学の先生がドンと構えて座っている、というのでは、あまり高校生だって親しみやすくはないと思います。
だからチームの先生同士で相談して、どうすれば高校生に興味を持たせられるかをいろいろ考えます。説明を行なうブースは、机を挟んで大学教員と来場者が対面する形式ではなく、来場者が掲示物を見ながら興味のある内容を好きに見歩ける形にしました。来場者が見ている掲示の種類を見極めながら、その掲示内容の担当の学生や教員が来場者に話しかけ、立ち話で相談にのります。じっくり話を聞いてみたい来場者用に、椅子を喫茶店やラウンジのように円形に並べ、気軽に座れるようにしました。
僕が高校生の立場だったら、実際にその大学で勉強したらどういう大学生になるのか、実際の在学生の姿を見てみたいと思うだろうな、と感じます。なのでチームの先生方と相談して、留学・語学の企画では、自分が担当している学生をたくさん動員することにしました。「外国語を勉強すればこれだけ話せるようになります」と口で説明するよりも、実際に外国語を勉強したり留学経験がある学生に、外国語を喋らせればいいんです。高校生だって、流暢に外国語を操る大学生を見れば、「おおっ」と思うでしょう。
どの高校生も、「6年間も英語を勉強しているのにちっとも話せるようにならない」という不満を感じています。それはもともと中・高の英語教育がそれを目的として作られていない、というだけの話なんですが、高校生にとっては「英語ができる=英語が話せる」という図式が固まっています。大学ってのは学問研究機関であって、英会話教室ではないんですけどね。
僕は大学で、海外に学生を派遣して現地の小・中・高等学校で授業を行なう、という海外インターンの指導をしています。英語で授業をしてくるわけですから、帰国組はみんな英語が流暢です。今回のオープンキャンパスでは、その帰国学生に、実際に現地でやってきた授業を英語で行なう、という模擬授業の企画を組みました。僕が鍛えた学生達にオープンキャンパスの動員をかけ、模擬授業組と営業組に分け、仕事を分担します。
僕は思うんですが、こういう時に自分の学生さんが力を貸してくれるかどうかは、普段からの学生さんへの接し方に掛かっているんでしょうね。
学生さんにしてみれば、夏休みの猛暑の中、大学に出向いて仕事をするわけですから、普通であれば嫌に決まってます。時期的にもお盆の前後ですから、実家への帰省の日程を無理に調整して出てきてくれる学生さんだっているでしょう。もし学生さんが嫌々仕事をさせられているのであれば、高校生の前で上手な模擬授業ができるわけありません。
そういう時に学生さんを動かすのに必要なのは、普段から学生さんと築きあげている信頼関係が全てだと思います。今回、仕事をしてくれた学生さんたちは、みんな意気込んで楽しく仕事をしてくれました。僕が担当している企画は、学生さんたちに仕事を依頼した時、学生さんが喜んで引き受けてくれた時点で、すでに成功は決まったようなもんです。仕事をしてくれる学生さんには大学から謝礼が出ますが、今回は認められている予算額を越える数の学生さんが手伝ってくれました。予算を越えた分の学生さんは、いわばボランティアで仕事をしてくれたわけですから、仕事の後に冷たいビールでも奢って埋め合わせです。
模擬授業は3人の学生さんにお願いしましたが、みんな上手に授業をやってくれました。英語力、構成力、プレゼンテーション能力、素材作成能力、すべて申し分なしです。ブースで高校生に説明を担当した学生さんたちも、高い営業力を発揮し、笑顔で丁寧に説明をしてくれました。
ほんの2, 3年前はなんにもできなかった学生さんたちが、大学の顔として仕事をしてくれるまでに成長したのを見るにつけ、僕も感無量です。今回の来場者の高校生の中から、数年後に同じ立場で大学を代表する学生さんが出てきてくれるといいですね。
模擬授業は僕の予想よりも多くの来場者が詰めかけ、盛況でした。
いわば大学を代表する模擬授業ですので、重鎮の先生方や事務方の偉い人達も見に来ました。学生の模擬授業を心配そうに見ています。まぁ、他の先生や事務方は、僕が普段学生にやっている授業なんて見たことありませんから、学生の力が分からないんですね。
学生さんが無事に模擬授業を終えると、事務の職員さんが話しかけてきました。
「たくろふ先生、海外インターンって本当に英語で授業できるようになるんですね」
だからそう言ってるだろうが
夏の仕事明けのビールのうまさは異常。

