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シモ・ヘイヘ (1905-2002)


フィンランド陸軍が誇る、「史上最強」と称される狙撃手。
通称、「白い死神」。
公式に記録されているだけで、狙撃で殺害した敵兵の数は505人。世界記録。
しかも、その記録はわずか100日程度の間に達成。


フィンランドとソ連の国境近くにある小さな町に生まれる。幼いころから猟師をして射撃の腕を磨く。1925年、20歳でフィンランド軍に入隊。1939年にソ連と開戦すると、前線の狙撃兵として数々のソ連兵を撃ち殺した。

故郷に近いコラー河は、ソ連にとってフィンランド侵攻の要所だった。そこにソ連軍は4000人の特攻部隊を送り込む。この地に配属されたヘイヘを含むフィンランド軍は、わずか32名でソ連の大軍を迎え撃つ。32人の精鋭は、文字通り一騎当千の働きをみせ、ソ連の進攻から国境を守り抜いた。のちにこの戦闘は「コラー河の奇跡」と呼ばれる。結果、フィンランドはソ連の進攻を食い止め、独立を守り抜いた。

終戦後、ヘイヘはその卓越した業績から、兵長から少尉へ、なんと5階級もの特進を果たす。その後は前線に出ることなく静かな余生を過ごす。2002年、96歳で死去。


シモ・ヘイヘの能力は、狙撃能力と身体能力に特筆される。


非常に緻密で精密な射撃能力を誇った。速射も得意で、狙撃用の単発銃を何なく連射できた。 軍の狙撃練習時、150Mの長距離射撃で、1分間に16発(3.75秒に1発)を命中させて軍幹部を仰天させた。泳がせ弾で標的を走らせるようなことはせず、常に一発で標的の頭部を仕留めるヘッド・ショットを行った。300M以内なら間違いなく一撃で命中したという。

使用した銃は、当時すでに旧式だったソ連製モシン・ナガンM28。この銃は5発しか装填できず、銃の全長が123cmと長かったため、兵士には不評だった。フィンランド軍は昔からソ連軍と同規格の武器を使っており、そのため倒した敵の武器や弾薬を奪って使い続けることが可能だった。ヘイヘはあらかじめ自分用にオーダーメイドした銃ではなく、戦場で現地調達した銃でも、どんな銃でも、変わりなく精密な射撃が可能だったという。

この銃には狙撃用のスコープを装着することが可能だが、ヘイヘはスコープを用いず、肉眼と鉄製の照星と照門のみで射撃を行った。レンズによって光が反射し、敵に場所を悟られるのを避けるためだという。最新式のライフルとスコープを装備したソ連軍を、はるかに旧式で劣る銃で撃ち殺した。ソ連は当初、フィンランド軍が未知の新式銃を開発したと思い込むほどだった。

ヘイヘは身長152cmと小柄だが、自分の肩までほどの長さのある重い銃を持ちながら、信じられない距離の行軍が可能だった。マイナス40℃もの寒冷地で、長距離の移動を走り抜き、さらに精確な射撃を行う。実戦に必要な、寒冷に対する耐久力、走力、持久力、心肺能力が半端なく優れていた。

寒冷地の迷彩服として純白の戦闘服を装備し、神出鬼没に戦場に姿を現し、多くのソ連兵を瞬く間に狙撃して姿を消す。一日で25名もの敵兵を射殺したこともある。その名はソ連軍に恐怖の対象として轟き、赤軍の脅威の的となった。

1998年、晩年のヘイヘに狙撃の秘訣を訊くと、ただ一言、「練習だ」と答えたという。生涯に記録された夥しい数の狙撃殺害記録については、「できると言ったことを実行しただけだ」と書き記している。



ゴルゴか、こいつは。



射撃の名手など、世界に山ほどいる。オリンピックの射撃競技を見てみれば、信じられない神業のような精度の射手はいっぱいいる。

しかし、そうした「名手」は、いわば射撃のための射撃をしているに過ぎない。最新式の装備で、静粛な試合会場で、ルールにのっとり、紙の的を狙う。射撃を何かの手段として用いているわけではない。

シモ・ヘイヘは、一発必中で敵兵を殺している。彼にとって射撃は殺傷手段であって、彼が撃つことはすなわち人の命が失われることを意味する。僕はもちろん人を殺した事はないが、人を殺すというのは、人の精神をものすごく圧迫するものだという。たとえ戦場であっても、たとえ敵兵であっても、継続的に人を殺す経験をくり返すと、なんらかの精神的な破綻を来す。そういう心理負担や悪条件をものともせず、命中精度が全く落ちない。尋常な精神力ではない。

「弘法筆を選ばず」というのは眉唾もののことわざで、実際にはプロは道具にとても神経を使う。しかしヘイヘは、当時の水準よりもはるかに劣る装備をものともしない。他人の銃だろうが、戦場で拾った銃だろうが、命中精度が変わらない。銃の性能に頼らず、己の身につけた射撃能力だけを頼りに実績を残している。

環境や装備の不備をいいわけにするのは簡単だ。しかし、真の一流はどんな条件下でも結果を出す。シモ・ヘイヘのように、敵よりもはるかに劣った装備で、敵をはるかに凌駕する使い手を見ると、「結局、最後は人の能力なんだ」ということを実感する。


装備に頼らず人の能力でソ連軍を撃退したフィンランド軍の精神は、その後もフィンランド国民の誇りとなっている。シモ・ヘイヘの使用した旧式ライフルは、現在、フィンランド国立軍事博物館に保存されている。冬季オリンピック種目のひとつ、長距離クロスカントリーと射撃の総合点を競うバイアスロンにおいて、フィンランドは世界最高の水準を誇っている。



ちなみに僕は30M先の標的にも当たりません