TeXを使うことにした。


いままで自分の論文を書くときにはMicrosoft Wordを使っていたのだが、どう考えてもTeXを使った方が便利そうだ。

僕はMacユーザーだが、Macユーザーには「Macが好きだからMac」派と、「Microsoftが嫌いだからMac」派がいるそうな。でも、僕の見る限り、後者の中には「Microsoft製品って不便なんだよねー」と言いながらも、レポートや論文ではちゃっかりMicrosoft Wordを使っている人も多い。

僕は製造会社にこだわらず、便利なものは便利、いいものを偏見なく使えばいいじゃないか、と思っているので、いままでMac上でMicrosoft Wordを使ってた。でも、それは他の製品と比較して「Wordがいい」と判断したのではなく、Wordしか知らなかったから、と言った方が近い。

しかし最近、いろいろとWordの不便な点が気になるようになってきた。まず第一に、PDFファイルに変換したときに、重い。特に僕は論文のなかで図表をバシバシ使う。TreeもぜんぶArborWrinじゃなくて、「Object挿入」から「Picture」でTreeを描き、図表扱いにして本文に貼付ける。そのほうがサイズ変更、移動、複製、修正などが簡単だから。ところが、そうやって図表だらけの論文にすると、PDFにするとやたらと重くなる。このあいだ70ページくらいのごつい論文を書いたのだが、PDFに変換したらサイズが2MBを越えてた。まるで動画だ。


他にもいろいろ細かい弊害が気になるようになってきたので、TeXを使うことにした。


TeXというのは、スタンフォード大学の数学者、Donald Knuthによって開発された組版処理ソフトウェア。ワープロソフトではない。日本では「テフ」と聞いていたが、アメリカでは「テック」に近く聞こえる。

Knuthは大学の学部生時代に書いた卒論が「修士論文と同レベル」と大学に判断され、学士号と修士号を同時に取得。そのわずか3年後に博士号を取得した。不愉快な奴だ。

その後Knuthは自著が出版されたときに、その組版の汚さにがっかりした。そこで、自分で気に入った組版の仕方で、自由に構成を制御したいと思い、そのためのプログラム"TeX"を、自分で開発してしまった。「印刷所に仕事を任せるととんでもない出来になるから、組版は自分でやる」というわけだ。常人の発想じゃない。グーテンベルグの活版印刷発明と同じくらいのインパクトだと思う。

TeXはワープロソフトではないので、テキストさえ記述できれば何を使ってもいい。「ノートパッド」だろうが「メモ帳」だろうが「TextEdit」だろうが、なんでもいい。このテキストをDVI形式に出力する。DVIというのはDeVice-Independentの謂いで、装置に依存しない。だからMacだろうがWindowsだろうが関係ない。このDVIファイルをPostScriptなどのトランスレータによって表示する。

なにせ印刷屋の仕事ができるわけだから、構成性能がWordと比べものにならない。Wordだと、図表を配置するときに「あ、ずれちゃった」「あ、行き過ぎた」など、うまく配置できないことがあるが、TeXだとそれがない。TeX が文字などを配置する精度は 25.4 / (72.27 × 65536) mm。これは約0.000005 mm、473628.672dpiに相当する。これがプロじゃなくて一般人が制御できる仕事になる。化け物としか思えない。

PDF変換後の容量でいうと、Wordで作った僕の70枚の論文は2.1MBだった。これじゃフロッピーディスクにも入らない。一方、TeXは基本的にはテキストベースなので、容量がとても軽い。TeXで作った200ページくらいの博士論文でも0.5MBくらい。鬼のような軽さだ。

TeXの最も大きな利点は、やはり数式処理に優れてることだ。そのために開発されたのだから、当たり前だ。言語学でいうと、論理式を書くのがとても楽になる。意味論をやってる人なら誰でも使うDenotation Bracket。これをWordで書こうとすると、[ [ とカッコをふたつ並べて書き、「フォント」で字幅を思いっきり縮めて外延カッコをつくる。


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Microsoft Wordで記述した意味表示



これをTexで書くと、↓のようになる。


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違いが歴然。



僕も、まれにだが、IPA(International Phonetic Alphabet、国際音声字母。いわゆる発音記号)を使うことがある。Wordだとフォントが入ってない端末だとIPAが表示できないが、TeXだと機種に依存しないので簡単に入力できる。

IPA以外にも、Syntaxをやってる人なら誰もが苦労するZeljkoの名前なども、簡単に表示できる。Wordだと、外延カッコと同様にIPAでアクセント記号を別に書いて、「c '」のように並べ、「フォント」から字幅を狭めて作るか、特殊フォントをインストールして表示する。これがTeXだと、

${}\rm \check{ Z }$eljko Bo${}\rm \check{ s }$kovi${}\rm \acute{ c }$

と記述すればいいだけ。これをマクロとして登録したり、一発変換できるように日本語変換機能に付け加えておけばいい。


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Wordで書いたもの。どうしてもちょっとずれる。



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TeXで書いたもの



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何が悲しゅうてこんなマクロ作らにゃならんのだ



僕は日本にいた頃に工学系の研究科にいたので、Unixを扱う授業が必修だった。当然その時にTeXも習ってる。しかし「打ち込みが面倒」「入手法、インストールの仕方がよくわからん」という理由で、個人的には使ってなかった。

しかし考えてみれば、TeXはその記述法自体はHTMLに非常によく似ており、別に面倒がるほどのことでもない。ちなみに僕はホームページを作るときには、ソフトウェアなど一切使わずにHTMLをすべて手打ちする。

むかしは入手方法がよく分からなかったが、今は4, 5年前とは状況が大きく違ってきたようだ。TeXはフリーソフトなので、必要な環境はすべてネット上でダウンロードできる。本気になってネットで検索すれば、インストールからシステムの整理から、最初のおためし文書の印刷まで、1日でできる。初心者のためにTeXのやり方を解説してくれているWebサイトもたくさんある。いい仕事をしていらっしゃる方が多い。どこかの「たくつぶ」とは大違いだ

感覚としてはプラモデルやジグソーパズルに近い。僕も子供のころによくプラモを作ったが、あれは精巧な部品を組み立てる過程こそが面白いのではあるまいか。正直、できあがった作品自体にはあまり興味がない。TeXも、ごちゃごちゃした記述をプラモデル感覚でくみ上げて、コンパイルしたあとに美しい文書ができてたりすると「おおぉーっ」と思うものではないか。


まぁ、論文は書いた後の中身も重要なわけですが。



どなたか言語学の論文に便利なマクロありましたら教えて下さい。