最近、meniere (メニエール病)という疾患を学内新聞でよく見かける。

日本では聞いたことのなかった病気だが、髄膜炎と並んで典型的な「学生病」らしい。症状としてはめまい、一時的難聴、ひどいときには耳鳴りがする。また精神的に鬱になり、集中力が欠け、細かい作業などができなくなる。倦怠感や無気力感に苛まれて、やる気が起きない、というような病気らしい。

メニエール病の原因はよく分かっていないらしい。最も有力な説は、体内にもともとある菌が抵抗力の低下によって活性化し、症状をもたらす、というもののようだ。当然、患者のほとんどは過労気味で、睡眠不足、ひどい精神的ストレスを恒常的の被っているとのこと。

どうやらこれは、僕が勝手にカテゴリー化している「マジメ病」のひとつのようだ。

日本では、マジメ、勤勉、努力一直線が手放しの美徳とされている。いまいち真剣さを感じられないちゃらんぽらんな態度に眉をひそめ、「真面目にやれ」と叱り飛ばす。一般社会で働いていらっしゃる方は、他に迷惑をかけないために、確かに規律ある仕事ぶりは必要だろう。

しかし、大学の研究者のように、精神活動が日常生活に浸食するような生活をしていると、手を抜けることが非常に大切になる。日中は仕事で忙しくても、終業時間になればとりあえず解放、自分の時間になる、というサラリ?マンと違い、研究というのは一日24時間、すべてを注ぎ込まなければなかなか真実が見えてこない。ご飯を食べながら、研究室の往復をしながら、片時も考えることを止めない。真摯な研究者は、それこそ放っておけば10日でも20日でも同じ問題ばかりを考え続ける。体がおかしくならないほうが不思議だろう。

長い研究生活を健やかに乗り切る為には、楽観的であることも重要な才能だ。一部の天才を除いて、研究者と言えどひとりの人間なのだから、気分解放もバケーションも必要なのだ。私の周りを見てみると、優秀な研究者ほど余暇の使い方がうまい。本気で遊べる場を持っている。

思うに、人間はゴムと同じで、伸ばしっぱなしにしていると弾力を失ってしまうものではあるまいか。人生は長いんだから、一時の短期的な視野で自分を追い込み、精神的に自滅するのはあまりにもったいない。真剣で真面目でありすぎる人は、短期的な仕事では理想の働きを示すだろうが、長期にわたってコンスタントに柔軟性を維持できるかというと、ちょっと危険だと思う。自転車操業的な、その瞬間に固執しすぎる態度は長くは持たないだろう。「決して手を抜かない」人は、そういう姿勢が保てる程度の量のことしかできないのではあるまいか。

日本の修士課程のとき、帯状疱疹にかかった。授業のペースがものすごくきつく、体調を崩した。何時間勉強をしても頭に入らない。勉強時間に比べて身に付いているものが感じられない。勉強に焦りを感じた。
指導教授の勧めで1週間くらい完全に休みをとり、仙台郊外の作並温泉で保養した。かなり効いた。このときに、「休み方を知っているっていうのは大事なんだな」とあたりまえのことを学んだ。僕は子供の頃から体育会系で育ったので、休むことに罪悪感がある。

今では、授業、仕事、自分の勉強が重なりすぎる生活が続くと、「あ、そろそろ休んだほうがいいな」と分かるようになってきた。そういうときには、思い切って休む。開き直って寝てやる。授業にちょっとくらい遅れをとったところで、体調を崩すリスクには換えられない。正直な話、この「授業の予習復習をちょっとくらいサボッてもそれなりに授業についていくような手の抜き方」は、大学院生であれば必須の能力だと思う。すべての授業で完璧完全にすべての理解を目指していたら、一日30時間、自分が3人いても足りない。要は、自分の専門の勉強に100%の気力を残してあればいいのだ。

そう思ってるの、オレだけ?