月が好きだ。

いつ見てもまん丸な太陽と違い、月は29日周期でその形を変える。変化が誰の目にも分かりやすいため、世界の文化圏では最初、太陰暦を採用するところが多かった。長期休暇などで曜日感覚がない時期でも、月を見ると日付がだいたい分かる。

満月に敏感だ。なんというか、月光が身体の中の何かに直接刺さり、全身に何かが満ち渡るような気がする。自分の身体感覚で唯一説明できない感覚だ。ヨーロッパではこういうことを感じるバカがもっと多かったらしく、月は狂気の象徴とされた。「狂気」(lunatic)、「誘惑」(lure)という言葉は、ともに月を表すラテン語‘luna'に由来している。

月は引力で地球の海水を引き寄せるため、干潮、満潮を引き起こす。あれほどの膨大な量の海水が引っ張られるくらいだ。人間一人の中にある何かが引っ張られないほうが不思議だ。月が真上にくる時間帯になると、見るより先に真上に何かが引かれ、体中が総毛立つのを感じる。その感覚が襲った後に見上げると月が真上にある。

詩を詠むに、李白の「月下独酌」がぶっちぎりで好きだ。

花間、一壺の酒
独り酌んで相親しむ無し
杯を挙げて明月を邀え
影に対して三人と成る
月、既に飲むを解せず
影、徒にわが身に随う
暫く月と影を伴い
行楽、須らく春に及ぶべし
我歌えば月徘徊し
我舞えば影繚乱す
醒時は同に交歓し
酔後はおのおの分散す
永く無情の遊を結び
相期す、遥かなる雲漢に

季節に浮かれて酒壺をひっかけふらついて出たものの、どうも独りで飲むのはつまらん。おや、月が出た。月と影とで三人になったじゃないか。でも月は飲み方が分からんらしく、影は私に随ったきりだ。まぁまぁ一緒にやろうじゃないか、こんないい季節に飲まない手はないだろう。私が歌うと月もふらつき回り、私が踊ると陰も一緒になって舞っている。いい加減に酔っ払うまで一緒に騒ぎ、酔ってしまったら勝手にしよう。いつまでも一緒に飲みたいもんだ。今度は遥かな雲の上で一杯やろうか。

豪放極まる。何たる酒仙の誉れ。
世の行儀作法に迎合することなく己の酔狂を剛毅に晒すその意気や良し。
これほどまでに月と飲んでみたい。