昔、ピアノをたしなんでいた。
楽譜を見るたびに不思議だったことがある。

音楽では、「音名」と「階名」を区別するのをご存知だろうか。
「音名」というのは、周波数で絶対的に表される音の高さを示すものだ。440HzをAと定め、周波数が2の整数乗になれば、その整数分だけオクターブが上がる。日本では音名は「ハ、ニ、ホ、へ、ト、イ、ロ」で表している。他の音との比較ナシに単音で周波数を感知できる能力が、いわゆる絶対音感である。I wishのキーボード、naoはこの絶対音感の持ち主。ゴスペラーズには絶対音感の持ち主がいないため、歌い始めの音を取る為に音叉を使っている。

それに対し「階名」というのは、主音との関係によって音階の各音に付けられた、相対的な名前のことだ。長調の場合、主音をドとし、上に向かって以下レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シと名付ける。一方、短調の場合は、主音をラとし、上に向かって以下シ、ド、レ、ミ、ファ、ソと名付けるのが一般的だ。

つまり、ハ長調の「ド」と、ニ短調の「ド」は、階名は同じでも、違う音名のつく違う音なのだ。説明するとややこしいが、これはピアノやバイオリンを習っている5歳の女の子でも感覚として身につけているほど基本的なことである。

音名を「ハ、ニ、ホ、へ、ト、イ、ロ」という大和ことばで表すのは、まぁ分かる。私が疑問だったのは、階名の「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」というのは、いったい何なのだろう、ということだ。何語なのかすらも分からない。この謎の記号は、いったいいつ、どこで、どうやって決まった名前なのだろうか。

最近、その謎が解けた。
「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」というのは、ラテン語だそうだ
ラテン語で古くから伝わる「パプテスマのヨハネ賛歌」という歌がある。

Ut queant laxis
Resonare fibris
Mira gestorum
Famili tuorum
Solve Polluti
Labil reaturn
Sancte Johanes

この歌は「ドレミの歌」のように、それぞれの行で一音ずつ上がっていく。各行の歌詞の先頭の音をとって、階名がつけられたらしい。主音の「ut」は口調をよくするために「do」に変えられ、第七音はSancte Johanes(聖ヨハネ)をフランス語表記したSaint-Ianから「Si」になったそうだ。この歌から「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」を作った人も分かっている。11世紀のイタリア人、グィードという人だそうだ。Johanesを勝手にIanに変えてしまうと、もはや「ヨハネ賛歌」ではなくなっちゃうのではないかという懸念はないのだろうか。

外来語を母国語と勘違いしたり、その逆の勘違いをしたり、ということはよくある。まさか小学校の時に習った「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」が、ラテン語だとは思わなんだ。我々が小学校で最も早く習う外来語は、実はラテン語だったという衝撃の事実。

僕と違い、兄は長じてもピアノをたまにつまびくらしい。兄曰く、「音を聞くと、本当にその音に聞こえる」んだそうだ。ドの音は、ほんとうに「ド」、ファの音は本当に「ファ」という言語として聞こえるらしい。それって本当だったら絶対音感では。絶対音感はそれだけで相当なカネになる才能だ。鍛えて身につくものではない天性のものなので、使わない手はない。

おい兄、職業間違えてないか?