「感染症と世界 「鎖国」は解にはならぬ」
(2020年3月19日 朝日新聞社説)
「G7首脳会議 感染拡大の阻止へ指導力示せ 」
(2020年3月18日 読売新聞社説)
「G7首脳がコロナ協議 個別対策と協調の両立を」
(2020年3月18日 毎日新聞社説)
「世界的感染拡大で問われる政治の指導力」
(2020年3月14日 日本経済新聞社説)


なんというか、世の中の正論が、事実よりも先走って幅を利かせるようになると、こういう支離滅裂なことを言って辻褄を合わせなければならなくなる、という典型的な例だろう。端的に言うと、「『グローバル化』なる高尚な理念は嘘っぱちだ」ということをまざまざと露呈している。

これらの社説を読むときの視点はただひとつ、「出入国封鎖は是か非か」だけだ。
事実としては、伝染病が発生したときは発生源を封鎖しなければならない。そんなことは疫学上の常識だ。人の行き来を凍結し、誰も立ち入れないようにする。ところが問題は、「封鎖」という行政的な手続きを実行するとき、どの単位でその施策を実行するのか、ということだ。
人の行動に対する強制権を行使できる必要かつ十分な行政単位は、「国」でしか有り得ないだろう。ある国の中で伝染病が発生したら、直ちに国の出入りを禁止し、世界中に伝播することを避ける。これが国際社会に対する責任であるはずだ。

しかし現在、「ボーダーレス社会」「グローバル化」という大義名分のもと、「国」という単位で他と区別する施策はすべて「悪」と見なされるようになっている。「自国民に限る」という施策は「国籍で差別するのか」となり、他国とは違う独自路線はすべて「国際社会から孤立するぞ」という脅迫がついてまわる。

今回の新型コロナウィルスは、そうした「『グローバル化』という正義」に対して、本当にそれは正しいのか、世界中の人々に問題点を突き付けているように見える。グローバル化というお題目を嘲笑うかのように「国境封鎖」を各国に迫っている。特にヨーロッパの国々でその傾向が顕著だ。フランスやイタリアは自国内で爆発的に感染者が増加したことを受けて、あわてて入国制限に走った。EUの理念などクズ同然に吹っ飛び、自国の安全しか考えていない。

それが悪いと言っているのではない。伝染病の時には、そもそもそうするべきなのだ。EUの理念がコロナウィルスの前にクズ同然に吹っ飛んだのは、EUの理念がクズ同然だったからだ。ボーダーレス、国境の廃止、人の自由な行き来、物流の流動性。すべて20世紀終わりごろから世の中に押し付けられてきた「正しい世界のあり方」だ。ところが、そんなことは人が頭の中だけで考えた「理想の正義」でしか無いことが明々白々となっている。

今回の騒ぎでどのマスコミも報じていないが、先にさっさとEUを離脱したイギリスは、真っ先に他国からの入国制限をかけている。島国という地理的な要因もあろうが、その封鎖体勢は徹底している。EUの理念など真っ向からガン無視だ。このイギリスの対応をどのメディアも報じていないのは、「『グローバル化』という『正義』に反するから」だ。イギリスの対応策を報じてその有効性が周知されると「うちも」「うちも」と入国制限をかける国が続出する。それはEUが高らかに奉じているところの「グローバル化」に対するアンチテーゼに他ならない。

ところが今の言論界では、そのような「グローバル化」に反することは、もはやタブーと化しているのだろう。上に挙げた4つの新聞でも、なんとかその虎の尾を踏まないように、慎重に慎重に記事を書いている。ぶっちゃけていうと、「グローバル化」に反しないようにビビってる社説と断じて良い。

おおむね、社説の方向性は3つに分かれる。

1. 「ある程度の出入国制限はやむを得ないが・・・」(読売、毎日)
2. 「伝染は止めろ。でも鎖国するな」(朝日)
3. まったくの意味不明(日経)

現実路線なのは読売と毎日。まぁ、新聞としてはこのような言い方をせざるを得ないのだろう。本当に世界規模での伝染拡大を防ぐためには「完全に出入国を封鎖しろ」と言うべきところなのだが、いまのご時世、そうは言えない。だから「ある程度はやむを得ない」という、腰が砕けた言い方になる。むろんそう言ってしまったら「『ある程度』というのは、何に基づいて誰が策定するのか」という問題が次に控えているわけだが、いまの段階でその「正解」が分かる者など誰もいない。読売と毎日の社説からは、現実に基づいた施策を提案したくても出来ない、という新聞社としての葛藤が読み取れる。気の毒な感じすら漂う社説だ。

朝日新聞はまったくの矛盾。「伝染拡大は止めろ」と言っておきながら、「人と物資の自由な行き来は止めるな」と主張している。これは伝染拡大を煽る方策に他ならない。
実際のところ、朝日新聞は日本ではなく中国・韓国の利益を優先している新聞社だ。だから日本に物流を封鎖されると困る中・韓の主張を代弁している。その本音は「伝染病がどれだけ広がろうと知ったこっちゃない。中国様・韓国様の機嫌を損ねる方策は許さん」というところだろう。「鎖国」などという負のイメージがつきまとう用語で印象操作をしようとしているあたりに、朝日新聞の意図がよく表れている。

朝日新聞は主張としては唾棄すべきものだが、それでも一応、主張としての体裁は成り立っている。「日本人は勝手に死ぬだけ死ね、出入国封鎖は許さん」という内容でも、主張として何を言いたいのかはよく分かる。
ところが日経の社説は、そもそも主張になっていない。この日経社説を読んで、何をどうしろと言っているのか理解できる人がいるだろうか。

「科学的知見と社会や経済への影響を見極め、的確に対応していく政治の指導力が問われている」
今後は医療や経済、社会活動の専門家らの意見を踏まえ、対策の効果と影響を分析した総合的な判断が求められる
日本は感染者の隔離や治療の経験を踏まえ、国際的な協力態勢の確立に主導的な役割を果たしていくべきだ。


よくもまぁ、ここまで意味のない軽佻浮薄な妄言が並べられたものだ。日経の言っていることを一言で要約すると「ちゃんとしなければいけないのである」ということに過ぎない。そんなこと、誰だって分かってる。その具体的な方策を提言するのが、新聞社の仕事ではないのか。

大筋で日経が言っていることは、「今回の伝染病みたいな大きい問題は一国だけでは対処不可能なので、各国が手を取り合って協力しましょうね」ということだ。これは伝染病の伝播防止の鉄則の真逆をいく主張だ。各国で手を取り合って、協力体制を敷いて、交流をしまくった結果が、いまのヨーロッパの惨状なのだ。つまるところ日経も、現在の世界の潮流「グローバル化」という宗教に洗脳され、「狭い範囲で封鎖しろ」という主張ができなくなっている。


医療が進歩し、世界はここ百数十年、人間が大量死するレベルの伝染病を経験してこなかった。その間に「ボーダーレス」「グローバル化」なる概念が拡大し、一人歩きを始め、今やそれは絶対的な教義になりつつある。イギリスのようにそれに異を唱える国もあるが、それについては誰も触れない。高い理想を掲げ過ぎ、現実的な方策をとれなくなった例というのは、世界史上、数え上げたらきりがない。今回の騒動も、その延長線上にある、人間の過ちの繰り返しのひとつに過ぎないだろう。



もうちょっとまともなことは書けんものかね。



  「感染症と世界 「鎖国」は解にはならぬ」
(2020年3月19日 朝日新聞社説)
国境を越える感染症問題に、国々がばらばらに取り組んでも限界がある。世界的な「鎖国」の風潮を改め、結束する理性を取り戻さねばならない。

欧州連合(EU)が域外からの渡航制限を決めた。先に欧州に門戸を閉ざした米国に続く措置だ。国際政治と経済の大動脈である欧米間の人の流れが止まる異例の事態となった。主要7カ国(G7)は緊急声明を出したばかりだった。「適切な国境管理を含む協調」をうたったが、実際には十分な事前の調整を欠いた渡航制限が広がっている。

米国と中国は中傷合戦に陥っている。トランプ大統領らが「中国ウイルス」と呼んで非難し、一方の中国側は米軍の陰謀説まで主張している。冷静なリーダーシップをとれる国や指導者がいない今の国際社会の病を映しており、憂慮は深まるばかりだ。だが、ここは地球規模で人間の安全確保が求められる局面だ。少なくともG7で確認した「必要な公衆衛生上の措置の連携」を、言葉で終わらせてはならない。

これまでも指摘されてきたのは、感染症と闘ううえでの国際的枠組みの貧弱さである。司令塔とされる世界保健機関(WHO)は、予算規模が米国の疾病対策センター(CDC)にも及ばない。小松志朗・山梨大准教授によると、加盟国は組織内での政治的な影響力を争い、感染症対策は後回しにされてきた、という。中国のような強権体制の国の現地情報を集め、有効な対策を広めるには、しばしば国家主権との摩擦が避けられない。国際政治に左右されずに、機動的に動けるような態勢強化や財政支援は待ったなしの課題だ。

多国籍の数千人を運ぶクルーズ船の感染は、日本と国際社会にとって想定外の事態をもたらした。船籍、運航会社、乗客、寄港先のそれぞれの国の責任と対処はどうあるべきか、ルールづくりのために日本は詳細を各国と共有すべきだろう。渡航制限については、国内対策を整える時間を稼ぐうえで、やむをえない面はある。だが、WHOはその効果は限定的だとし、社会や経済の血流を止める弊害を考える必要性を訴えてきた。判断の際には専門家の助言を仰ぐ慎重さが欠かせない。

どの国でも国民は動揺しているが、政治の役割は、情報の開示と説明を尽くし、医療対策と経済施策で国際的な連帯を示して不安を和らげることだ。とりわけ、米欧日と中国の責任は重い。十分な説明もない制限措置で国同士の分断を深めるようでは、世界の長期的な安定は損なわれるだろう。



  「G7首脳会議 感染拡大の阻止へ指導力示せ 」
(2020年3月18日 読売新聞社説)
拡大する感染症を克服するため、国際協調体制を築くことが重要だ。先進7か国(G7)の首脳は、新型コロナウイルスに関してテレビ会議を行った。世界的な衛生上の危機と位置付けて、緊密な協力を確認する声明を発表した。 感染はまず中国で広がり、年明け以降、韓国や日本などに飛び火した。今月に入って、欧州や米国でも患者が増えたことで、ようやくG7として対応に乗り出した。後手に回った感は否めない。世界的な蔓延を防ぐため、切迫感を持って対処すべきである。

当面重要なのは、欧州での感染拡大のスピードを下げ、重症化を防ぐ手立てを整えることだ。イタリアの感染状況は深刻で、死者は2000人を超えた。医療スタッフの感染も相次いだ。イタリア政府は、医師や看護師を適切に配置し、集中治療の設備の増強を急がなければならない。水際対策も重要だ。オーストリアなどがイタリアからの入国を制限したのに続き、ドイツも、フランスなどとの国境を原則として封鎖する措置をとった。欧州連合(EU)は、国境審査を撤廃するシェンゲン協定により自由往来を促進してきた。国境管理を徹底し、防疫体制を強化するのは、やむを得まい。無用な混乱を生まないよう、相手国の理解を得ながら措置を講じることが肝要だ。EUが調整役を担うべきである。

G7の声明は、治療法の研究やワクチンの開発・製造に共同で取り組む方針を盛り込んだ。世界保健機関(WHO)と連携し、途上国を含めて、各国がウイルス対策を強化することが大切だ。感染の実態を解明し、治療法を確立するには、多数の症例を蓄積している中国の貢献が不可欠だ。世界の研究者や医師に十分な情報を開示することが求められる。

ウイルスの発生源について、中国政府は「中国とは限らない」などと主張する。中国外務省の副報道局長が米国による陰謀説を唱え、米政府は抗議した。共通の敵が目の前にいるのに、大国が批判し合う姿は見苦しい。責任の重さを自覚し、感染症対策に注力してもらいたい。G7の首脳は、世界経済が失速するリスクに備えるため、あらゆる政策手段を用いることで一致した。各国政府は、景気動向などを見極めて、機動的に金融・財政政策を発動する必要があろう。持久戦を念頭に置いた息の長い取り組みが欠かせない。



「G7首脳がコロナ協議 個別対策と協調の両立を」
(2020年3月18日 毎日新聞社説)
日米欧など主要7カ国(G7)の首脳が新型コロナウイルスの感染拡大の収束に向け、テレビ電話会議の形式で協議した。共同声明は「地球規模の健康危機で、世界経済に重大なリスクをもたらしている」とし、「金融・財政政策を総動員する」ことを確認した。中国で感染が広がった昨年末以降、G7が対応を話し合ったのは初めてだ。先進医療技術を持ち、世界経済をけん引する主要国として治療薬の開発を主導し、長期的な景気悪化を回避する役割と責任がある。世界中にパニックを起こさないために国際協調の重要性をメッセージとして発した意義は大きい。

それでも、ニューヨーク株式市場は大幅に反落し、金融市場の動揺を抑えることはできなかった。共同声明だけでは収束の見通しがたたないことへの懸念が要因だろう。まずは、日米欧が各国事情に応じた感染対策を重点的に実施する必要がある。その際、禁物なのは、自国第一主義に走るあまり、国際協調を乱してしまうことだ。人の往来が活発な日米欧は特定国からの入国禁止や国境の一部封鎖などを実施している。やむを得ない措置だが、これが排外主義につながらないよう留意する必要がある。トランプ米大統領が欧州からの入国禁止を決めた際、事前調整がなかったと欧州は反発した。協調を進めるには十分な意思疎通が不可欠だ。

トランプ氏がワクチン開発に取り組むドイツ企業に資金を提供する見返りに、優先的に入手できるよう求めていたと独メディアが報じた。米側は否定したが、ドイツは「独占は許されない」と反発している。米国では11月の大統領選をにらんで政治的な思惑が先行しがちだ。初動対応に遅れたトランプ政権は国内対策ばかりに目を向け、欧州を悪者にしている。これではG7としての総力を発揮できない。

国境を越えるグローバル化で、富だけでなく、リスクも瞬く間に世界に広がる。新型コロナの感染拡大はそれを実証した。危機の封じ込めには、自国第一主義を自制し、国際協調を強化することが欠かせない。中国を含めて連携の幅を広げ、定期的な協議を継続していくことが重要だ。



「世界的感染拡大で問われる政治の指導力」
(2020年3月14日 日本経済新聞社説)
米国が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国家非常事態を宣言した。日本では緊急事態宣言の発令を可能とする改正特別措置法が14日に施行され、各国が危機対応のレベルを引き上げている。科学的知見と社会や経済への影響を見極め、的確に対応していく政治の指導力が問われている。

トランプ米大統領は13日の記者会見で国家非常事態を宣言し、最大500億ドル(約5兆4千億円)の連邦政府の資金を活用した検査や治療の態勢強化を発表した。安倍晋三首相は特措法の施行を受けて14日夕に記者会見し「現時点で緊急事態を宣言する状況ではない」との認識を示した。同時に「世界経済のさらなる落ち込みも懸念される。動向を注意深く見極めながら、今後も機動的に必要かつ十分な経済財政政策を間髪を入れずに講じる」と強調した。首相は新型ウイルスへの対応をめぐり、2月下旬に「大規模イベントの中止や延期」「全国の小中学校と高校、特別支援学校の臨時休校」を要請した。政治の決断は重要だが、唐突な自粛要請は国民や関係者に混乱も招いた。

今後は医療や経済、社会活動の専門家らの意見を踏まえ、対策の効果と影響を分析した総合的な判断が求められる。重要な要請や指示に関しては、首相や閣僚が先頭に立ってその狙いを丁寧に説明していく責任がある。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は13日の記者会見で「今や欧州がパンデミック(世界的な大流行)の震源地となった」と語った。欧米にも感染が急速に広がったことで金融や原油市場が揺さぶられ、世界同時不況の恐れが強まっている。

首相は13日、トランプ氏やフランスのマクロン大統領と電話協議した。主要7カ国(G7)首脳による緊急のテレビ電話協議を16日に実施する見通しだ。日本は感染者の隔離や治療の経験を踏まえ、国際的な協力態勢の確立に主導的な役割を果たしていくべきだ。

20世紀の前半には疫病の流行や世界的な不況が社会の荒廃と各国の自国中心的な行動を招き、国際的な摩擦が戦争につながった痛恨の歴史がある。経済のグローバル化によって、危機の封じ込めのために各国が独自に打ち出せる対策の効果には限界がある。国際社会が早い段階から情報の共有と緊密な連携の基盤を築いておく意味は大きい。