「日韓情報協定 関係改善の契機とせよ」
(2019年11月23日 朝日新聞社説)
「GSOMIA 韓国の破棄見直しは当然だ」
(2019年11月23日 読売新聞社説)
「日韓情報協定の維持 最悪の事態は回避された」
(2019年11月23日 毎日新聞社説)
「GSOMIA延長 日米韓の協力を立て直せ」
(2019年11月23日 産経新聞社説)
「協定維持を機に日米韓体制を立て直せ」
(2019年11月23日 日本経済新聞社説)

さすがに韓国も、アメリカから見放されるのは怖かったと見える。日本に対して一方的に通告してきたGSOMIA破棄を、失効寸前1日前という直前ギリギリの場面で翻した。この騒動で日韓関係は戦後最悪のレベルに達し、両国は極度の緊張状態に置かれた。

今回の騒動を表層だけ見ると、韓国の常套手段「論点のすり替え」を積み重ねた挙句、韓国が自縄自縛に陥ったように見える。もとはといえば根本の問題は元徴用工問題だ。韓国が1965年の日韓請求権協定を無視し、国民感情を焚き付けて国内経済の停滞から目を逸らそうとしたことが、ことの発端だった。

それ以降、韓国は反日世論を煽るだけ煽り、「日本が悪い」の理屈を積み重ねるべく、論点をずらし続ける。自衛隊機へレーダーを照射し、自衛隊は韓国軍に強い不信感を抱くようになる。韓国はフッ素化合物や軍事転用可能な物資を不透明に流出させており、北朝鮮への横流しを警戒した日本は輸出規制をかけた。ところが韓国は詳細を説明するどころか、逆ギレを起こして「日本が輸出規制をかけるのであれば、GSOMIAを破棄する」と一方的に通告してきた。国内では反日感情を煽り、日本製品の不買運動を政府が主導して行なった。

どの段階でも、本質的な問題から論点をそらし続け、状況が悪化し続けていた。その根本原理はただひとつ、韓国政府が「メンツ」を守ることだけだ。日本の輸出規制は経済的な問題であり、GSOMIAの破棄は安全保障に関する問題だ。本来は別個に扱うべき全然関係ない問題をぐちゃぐちゃに混ぜ、どさくさに紛れて全部一括で解決しよう、という雑な思考回路が読み取れる。日本政府が終始一貫して「輸出規制とGSOMIAは別問題」と言い続けてきたのは、そういう韓国政府の目論みを遮断するためだ。

韓国としては、「さすがに安全保障に関するGSOMIAの破棄をチラつかせれば、日本はビビって言うことを聞いてくるだろう」という意図に見えた。表層だけ見る限り、韓国の最大のミスはこの錯誤だった、ということになるだろう。実際のところ、情報収集能力は韓国よりも日本のほうが高く、軍事衛星の数も群を抜いて多い。今回の騒動の最中にも、韓国軍は北朝鮮のミサイル発射の情報を、よりによってGSOMIAの締結内容を根拠として日本に情報提供を求めている。日本は別にGSOMIAが必要なわけではなく、GSOMIAの最大の受益者はアメリカだ。この状況を見誤ったのが韓国の最大の失敗、という見方が多い。

韓国は、ひとつの問題から目を背けるべく、次の新たな問題を火種として火を点けて回り、最後には大炎上して自爆した・・・と、まぁ、表層から見ればこういう騒動に見える。ところが実際のところは、逆だったのではないかと思う。韓国は最初からGSOMIAの破棄を目指しており、全ての騒動はそこから逆算した「筋道」だったのではないか。

文在寅はもともと、大統領選挙の際にGSOMIAの撤廃を公約に掲げている。GSOMIAは朴槿恵政権のときに締結された軍事協定で、日米韓の秘密軍事情報の保護に関するものだ。だから親族が北朝鮮出身で、北朝鮮を愛する文在寅にとっては、是が非でも撤廃させなければならないものだった。

ところが、正面から「GSOMIAを撤廃する」と発表してしまうと、日米の猛烈な反発を喰らう。国民だって不安がる。そこで文在寅は「日本のせいでGSOMIAを撤廃せざるを得ない」というシナリオを考えた。日本を悪者にすれば、世論は簡単に煽動できるし、アメリカに対しても面目が立つ。そのため文在寅は、多少無理をしてでも結末をGSOMIA破棄に持っていくように話を混乱させなければならなかった。その無茶が災いしたのだろう。

だから韓国は、「経済問題に、安全保障問題という関係ない問題を絡めて、自縄自縛になった」のではない。「もともと安全保障問題に話を持ち込みたくて、その口実として使えそうだったのが経済問題しか無かった」のではないか。はじめから強引にその話に持ち込みたかったのだから、論理が通っていなくて当たり前だ。

つまり韓国は、ふたつのシナリオを描いていたのだろう。

(1)「日本の輸出規制を撤廃させる」← GSOMIA撤廃をチラつかせて、日本から譲歩を引き出す
(2)「GSOMIAを撤廃する」← 日本の輸出規制を大義名分に、日本のせいにして誰も敵を作らずにGSOMIAを破棄する

韓国にとっては、というより文在寅にとっては、どっちでもよかったのだと思う。最低でもどっちかは取れる、王手飛車取りのような感じだったのではないか。騒動の最中の、文在寅の自信満々な態度からは、そういう目論みが読み取れる。

そして日本は、韓国の「表のシナリオ」と「裏のシナリオ」の、両方を見抜いていたようだ。だから日本は終始一貫して「無視」を決め込んだ。韓国としては、日本にあわてふためいて狼狽してもらわなければ困るところだったが、日本は基本方針を一切ぶれさせず、正論を押し切った。その一方で、GSOMIA破棄を憂慮したアメリカが猛烈に韓国にプレッシャーをかけてきた。

今回の騒動のポイントは、「アメリカはなぜ韓国にだけ圧力をかけ、日本側には何も要求してこなかったのか」ということにある。韓国の言い分としては「日本が輸出規制を緩めれば、GSOMIAは継続する」という理屈なので、アメリカとしては日本に対して「韓国への輸出規制を緩めろ」と圧力をかけることだって可能だった。そしてそれが韓国の狙いだっただろう。ところがアメリカ政府は日本には何も言って来ず、韓国だけに圧力をかけた。それはなぜだったのか。

端的に言うと、「安倍首相と、文在寅大統領の、外交手腕の圧倒的な差」だろう。簡単に言うと、トランプ大統領との個人的な信頼関係の構築度合いの差だ。安倍首相はトランプ大統領の就任以来、日米関係が緊張しないように細部にわたって対策を敷き続けた。

あまり報道されていないが、個人的には、安倍首相がアメリカと良好な関係を保つために採った策は「中国」だと思う。いま日本は中国と珍しいほど良好な関係にあり、年度末には習近平の国賓としての来日が予定されている。一方、アメリカと中国の関係は最悪だ。経済、軍事、政治、外交、すべての面で最悪の状況にある。だからアメリカにとって、対中国という観点から日本は絶対に味方にしておかねばならない「手駒」であり、自陣側に引き入れるためには良好な関係を保つ必要がある。

正直なところ、いまのアメリカは「韓国ごときに関わっている暇はない」のだろう。対中国が重要な局面を迎えていて、外交の全神経を中国対策に集中しなければならない。今回の騒動でアメリカが韓国にとった行動は「高官を派遣して圧力をかけ説得する」という、なんのひねりもないストレートなものだ。策を弄するだけの余裕がアメリカにはないのだろう。力で押し切る棍棒外交だ。それは逆の韓国側から見れば、対話の余地のない、とりつく島もない一方的な圧力だ。日本は「アメリカにこういう態度をとらせることに成功した」といえる。

報道だけを見ていると、現在の日本政府の、対中国の基本方針は「アメリカとの距離感をうまく作り出すために中国を踊らせる」というものに見える。安倍首相は、こういう外堀の埋め方で、あの扱いにくい元不動産屋を手なずけているのだろう。正攻法以外にも、トランプが来日した際には一緒にゴルフをし、鉄板焼に連れて行き、良好な関係を保つ努力を怠らなかった。こうした硬軟取り混ぜての外堀の埋め方が、今回の韓国との関係においてアメリカを味方に引き入れる布石になっていたと思う。

一方、韓国のアメリカに対する姿勢は最悪だった。のっけから「GSOMIA破棄は、アメリカも了解している」と大嘘をついてしまった。この公式発表に仰天したアメリカは瞬時にそれを否定して、激しく非難している。GSIMOA失効直前の数週間でアメリカ政府が怒濤のごとく政府高官を韓国に派遣し、方針の翻意を迫った事実だけを見ても「アメリカも了解している」という韓国の発表が嘘以外の何者でもないことは明白だろう。アメリカ政府はもはや韓国を全く信頼しておらず、「日韓関係は知らん。そっちが勝手に解決しろ。これは韓米関係の問題だ」と構図を局所化して迫った。

アメリカのこの出方によって、韓国の目論みとしての両方のシナリオが消えた。「アメリカが仲裁して日本から譲歩を引き出す」も「日本を悪者にしてGSOMIAを破棄する」も、両方とも行き詰まってしまった。韓国の敗因はただひとつ、アメリカの操縦に失敗したことだろう。今回の騒動を通して、韓国の対日方針は「日本に何かを直接言う」だけで、絡め手が絶望的に下手だ。一方の日本は、中国という背後を固め、アメリカを味方に引き入れ、気付いた時には韓国が孤立しているように、長い時間をかけて外堀を埋めた。

結果として韓国はふたつの目論みの両方に失敗している。これを外交戦争と見なすなら、日本の圧勝だろう。結果云々ではなく、過程を見るだけでも相当な差がついた。8月のGSOMIA破棄通告から11月までの4ヶ月間、韓国政府にかかったストレスは甚大なものだろう。対して日本は事態を静観し、黙って見ていただけだ。どちらの政府がより疲弊したのかは明らかだろう。

韓国政府としては「危機を乗り切った」「両国が融和ムードのなれば」「これを機に日本の経済措置の緩和を」などと楽観ムードのようだが、今回の一件は韓国が勝手にGSOMIA破棄というカードを切って、勝手に危機に陥り、勝手に前言撤回しただけだ。7月から何も事態は変わっていない。元徴用工の問題と、韓国が軍事転用可能物品を横流ししている疑惑の問題については、日本は依然として韓国の対応を迫る状態に戻っただけだ。韓国は自分で火を点けて自分で消し、融和ムードに浸っている場合ではなかろう。本当の勝負はこれからだ。

韓国はGSOMIA継続を発表してもなお、「いつでも破棄できるとの認識でいる」などと強がっている。これは、最低でも、裏のシナリオ「誰からも非難されずにGSOMIAを破棄する」の方針だけでも残したい、という最後のあがきだろう。実際のところ、いまの状況で韓国がGSOMIAの破棄を一方的に通告してきたら、アメリカが激怒する。もし文在寅が本当にGSOMIAの破棄を一方的に通告してきたら、その時は韓国が西側の同盟から外れ、中国・北朝鮮・ロシアの側に回るときだろう。韓国国内で頻繁に発表されていた世論調査では、大多数の国民が「GSOMIA破棄に賛成」だった。ということは韓国国民も、西側同盟からの離脱し、中国の傘下に堕ちることを希望しているのだろう。

結局のところ、韓国は今もなお「中国の植民地」ということなのだと思う。数千年をかけて熟成された被支配民としてのメンタリティーは、いまもなお韓国国民の中に脈々と生きている。「過去の過ちを謝罪せよ」などと日本には頻繁に言ってくるが、何世紀にもわたって蹂躙されてきた中国にはそんなことは一言も言わない。なぜなら韓国にとって中国は今もなお「宗主国様」だからだ。北朝鮮を愛して止まない大統領と、ふたたび中国の植民地に戻ることを希望している韓国国民は、相性がとてもよく支持率も高いようだ。念願の朝鮮半島の統一も、そう遠いことではないかもしれない。文在寅は「北朝鮮主導での半島統一」を指向している。韓国国民には、ぜひとも刈り上げ黒電話の支配のもと、経済が破綻し貧困と飢餓に満ちた、北朝鮮式の生活を楽しんでいただきたい。 



さてどうやって面子を保つのかな。
「日韓情報協定 関係改善の契機とせよ」
(2019年11月23日 朝日新聞社説)
日韓の安全に資する協定が、かろうじて救われた。ひとまず安堵(あんど)できても、問題の根本は手つかずだ。理不尽な事態を繰り返さないための健全な関係回復に本腰を入れるべきだ。

 きょう失効を免れたのは、GSOMIA(ジーソミア)と呼ばれる政府間の取り決めである。両国が軍事情報を共有するための協定で、文在寅(ムンジェイン)政権は寸前のところで破棄を撤回すると発表した。日米韓は、この協定を主要な回路の一つにして、安全保障の情報をやりとりしている。破棄となれば、共同歩調に悪影響が出ることが懸念されていた。北朝鮮の不穏な動きが続くなかで、日韓関係がここまでこじれたのは不毛というほかない。今回の失効回避を機に、両政府は国民の実利を損ねる負の連鎖を止めなければならない。  

韓国側が8月に協定の破棄通告をしたのは、日本による輸出規制強化への対抗策だった。きのうの発表でも、今後いつでも破棄できると強調し、日本側に相応の対応を求めた。だが、いくら韓国内の対日世論が硬化したからといって、安全にかかわる問題を取引材料にすること自体に無理がある。北朝鮮に加え、中国やロシアも日韓関係の悪化に乗じて軍事的な挑発行動に出ている。内外の現実を慎重に考慮すれば破棄の選択肢はなかっただろう。  

一方、日本政府にも関係改善への重い責任がある。7月に唐突に打ち出した韓国向け輸出の規制強化は、昨年来の徴用工問題をめぐる事実上の報復にほかならない。韓国では、製造業で不安が広がっただけでなく、日本による「強圧」に対する世論の反感を増幅させた。韓国からの訪日客の激減は日本の観光地を悩ませているほか、さまざまな市民交流も滞っている。文政権が誤った対抗措置のエスカレートを踏みとどまった以上、日本政府も理性的な思考に立ち返るべきである。輸出規制をめぐる協議を真摯に進めて、強化措置を撤回すべきだ。  

いまの両国間に横たわる問題の本質は、日本企業に賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決への対応である。今回図らずも芽生えた両政府間の危機管理の対話を発展させて、徴用工問題を打開する枠組みづくりを急がねばならない。文氏も安倍首相も、相手との妥協を政治的な損失ととらえる考え方から脱すべきだ。たとえ不人気であっても、国民の未来を見すえた外交の価値を説くのが政治家の務めである。両国関係の土台である1965年の日韓請求権協定を守り、両国関係全般を本来の軌道に戻す一歩を踏み出してほしい。



「GSOMIA 韓国の破棄見直しは当然だ」
(2019年11月23日 読売新聞社説)
日米韓3か国の防衛協力が傷つく事態はひとまず回避されたが、日韓間の懸案解決はこれからである。対話を重ね、信頼関係を回復することができるか。楽観は禁物だ。  

日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、韓国は「8月の破棄通告の効力を停止する」と発表した。このままでは、23日に失効するところだった。2016年に締結されたGSOMIAは、日韓両国が相互に機密情報を提供する枠組みだ。北朝鮮の脅威に対し、日米韓が連携を強めていることを象徴している。安倍首相は「北朝鮮への対応に日米韓の連携は重要だ。韓国もそうした戦略的観点から判断したのだろう」と述べた。失効した場合、東アジアでの米軍の影響力低下を目指す北朝鮮と中国を利することになる。韓国の文在寅政権は、その重大性を認識すべきである。  

米国の韓国に対する強い圧力が功を奏したのは間違いない。エスパー国防長官ら要人が相次いで訪韓し、協定延長の必要性を説いた。米上院は、「破棄は米国の安全保障に害を及ぼす」と警告し、再考を促す決議を採択した。日米両国は引き続き、韓国が東アジアの厳しい安全保障環境を踏まえて適切な対応をとるよう、促していかねばならない。  

韓国は協定破棄の通告を、日本による対韓輸出管理の厳格化への対抗策と位置づけていた。そもそも、貿易問題を安全保障にからめたことに無理があった。韓国政府は、日本の措置が世界貿易機関(WTO)ルールに違反するとして、WTOに提訴する手続きに入っていたが、今回、手続きを中断すると日本側に通告した。日本は、輸出管理に関する韓国との政策対話に応じる。軍事転用の可能性のある物資の管理に問題があるとして、日本は輸出手続きを簡略化する優遇対象国から韓国を除外している。韓国の対応を見極める必要がある。  

日韓関係の好転は、韓国人元徴用工を巡る対立が解消されない限り、期待できない。韓国最高裁が日本企業に元徴用工への賠償支払いを命じた判決は、1965年の日韓請求権・経済協力協定に違反する。にもかかわらず、文在寅政権は実効性のある善後策をとっていない。日本企業の資産は差し押さえられており、現金化されれば実害が及ぼう。韓国政府は、日本側が受け入れ可能な解決案を早急に提示しなければならない。



「日韓情報協定の維持 最悪の事態は回避された」
(2019年11月23日 毎日新聞社説)
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効という最悪の事態は、土壇場で回避された。両国の貿易に関する協議を行うことでも合意した。協定が破棄された場合は日米韓3カ国に不協和音が広がり、地域の不安定化を招くことが懸念されていた。日韓の安保協力の枠組みがひとまず維持されたことに安堵する。  

韓国政府は協定終了の通告を停止するとともに、輸出規制に関する協議が行われている限り、世界貿易機関(WTO)への提訴も停止すると発表した。協議により輸出規制が撤回されれば、正式に協定を延長するという理屈である。日韓の間でどこまで折り合いがついたのかは定かでない。それでも合意に至ったのは、両国とも米国にらみの側面が大きい。  

韓国は今年8月に協定の破棄を日本に通告したものの、日本が韓国への輸出規制を見直すなら再考するという立場に転じた。同盟国の米国が、北朝鮮や中国を利するとして破棄に強く反対したためだ。最近、北朝鮮は日韓両国を射程に入れる短・中距離弾道ミサイルの発射を重ねている。日米韓のミサイル防衛システムをかいくぐる新兵器も開発している模様だ。  

米朝協議の行方は不透明感を増している。一方的に期限を年内と区切った北朝鮮は、米韓合同軍事演習の延期を決めた米国に中止を求めるなど要求水準を上げている。日米韓が連携を強めて対応すべき局面である。感情的な対立により、地域の緊張を高めてはならない。  

日本側も、輸出規制によって韓国が予想以上に反発したうえ、米国から憂慮を伝えられて対立の出口が見えない状況だった。ただし、訪日韓国人客が激減するなど民間交流は細り、双方の世論は悪化し続けている。ただちに関係が改善するとの見方は早計だろう。関係悪化の根源である元徴用工問題をめぐり、解決に向けたさまざまなアイデアが韓国側から出ている。双方とも、日本企業の資産売却だけは防がなければならないという認識で一致している。今回の合意を機に、少しずつ信頼回復に向けた歩みを進めていく必要がある。



「GSOMIA延長 日米韓の協力を立て直せ」
(2019年11月23日 産経新聞社説)
韓国政府が22日、日本政府に対して、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)終了の通告を停止すると伝えた。23日午前0時失効の危機は回避され、1年間の自動延長となった。また、日本政府が安全保障上の懸念から実施した対韓輸出管理の厳格化についても、韓国は世界貿易機関(WTO)への提訴の手続きを停止し、日韓両政府が政策対話を行うことになった。安倍晋三首相は22日、「北朝鮮への対応のために日韓、日米韓の連携、協力は極めて重要だ。韓国も戦略的観点から判断したのだろう」と述べ、韓国政府の方針変更に一定の評価をした。  

文在寅政権が、GSOMIA破棄という愚かな選択を寸前で取りやめたことは妥当である。だが、文政権による破棄の動きが、日米韓3カ国の安全保障協力関係や米韓同盟を大きく傷つけたのは確かだ。北朝鮮は非核化に応じず、弾道ミサイルの発射を続けている。中国は傍若無人な海洋進出をやめていない。ロシアは極東で軍事活動を活発化させている。日米韓による実効的な安保協力と米韓同盟の立て直しが急務である。この立て直しには文大統領自身が、自国や北東アジア地域の安全保障の確保よりも感情的な反日に走ってきたという誤った姿勢を深く反省し、日本や米国との真の協調路線に転じる必要がある。  

文政権は日本が対韓輸出管理厳格化を撤回しなければGSOMIAを破棄するとしていた。鄭義溶韓国国家安保室長は「米韓同盟とは関係ない」と語っていた。だが、GSOMIAは米国を扇の要とする日米、米韓両同盟の抑止力を高めるものだ。日韓に軍事情報共有の仕組みがなければ、北東アジア地域の有事への米軍の即応態勢にも支障が出る。だから米国政府は「北朝鮮や中露両国を喜ばせるだけだ」と、文政権に翻意を強く求めていたのである。  

対韓輸出管理の厳格化は、輸出品の兵器転用を防ぐ措置で、その是非を韓国と協議する類いの話ではない。韓国が不満であれば、自国の体制の不備をどう改めるか政策対話で具体的に示せばよい。茂木敏充外相が指摘したように、日韓間に横たわる最大の問題は「徴用工」判決による韓国側の国際法違反であり、文政権はその解決も急がねばならない。



「協定維持を機に日米韓体制を立て直せ」
(2019年11月23日 日本経済新聞社説)
日本と韓国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効がひとまず回避された。日本による輸出管理の厳格化措置の撤回を求めて協定の破棄を表明していた韓国政府が方針を修正した。大局的見地に立った判断を歓迎する。

韓国政府は「いつでも失効可能との前提で終了通告の効力を停止する」と発表した。韓国は世界貿易機関(WTO)への提訴手続きも中断する。両政府が輸出管理をめぐる実務者会合を開くことも決まった。両国間の懸案のうち安全保障協力と貿易問題で条件付きながら折り合ったのは前進だ。

協定は軍事上の機密情報を提供し合う際に第三国への漏洩を防ぐ取り決めだ。困難を乗り越えて2016年に締結後、約30件の秘密情報を交換した。日米韓で軍事情報を迅速に共有しやすくなるため3カ国が連携して抑止力を高める象徴的な存在になっている。

失効すれば、東アジアの安保上の影響は避けられず、米国が韓国への説得を重ねてきた。韓国は文在寅政権を支持する革新層を中心に協定破棄の賛成が多い。今回の決定には北朝鮮の反発も予想されるだけに、冷静な決断を下したと評価できる。

決定は条件付きで楽観は禁物だ。昨年末の韓国軍艦による自衛隊機へのレーダー照射以降、自衛隊には韓国軍に不信感が残る。来春に総選挙を控える韓国も強硬論が渦巻く。双方が信頼関係を取り戻せなければ、せっかくの仕組みも絵に描いた餅となる。

足元の安保環境は不安定さを増している。米国との非核化交渉が滞る北朝鮮は強硬路線への回帰をちらつかせる。探知や迎撃が難しい新型兵器の開発を活発化している。それらの射程に入る日韓はレーダーでの監視や迎撃能力をともに高める必要がある。

日韓関係の悪化は幅広い分野に及んでおり、今回を修復の糸口にすべきだ。最大の懸案である元徴用工問題で韓国が打開案を示すのが望ましい。輸出体制の問題では韓国が改善に向けた意欲を示しているという。不備を是正し、日本側の疑念を払拭してほしい。

政府も韓国と協力する姿勢を示すべきだ。米国が日米韓の枠組みにこだわるのは、中国やロシアの脅威にも有効だとみているからだ。日本は北朝鮮の核・ミサイル問題のほか、拉致問題も抱える。隣国の韓国をつなぎ留め、日米韓体制を立て直すときである。