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ラグビーワールドカップ 準々決勝第4試合
日本 3-26 南アフリカ


完敗だった。日本のいいところが一切出せず、南アフリカにノートライに抑えられた。さすが南アフリカという他はない。

試合全体として、「相手の作戦におつきあいし過ぎた」という印象がある。南アフリカは、明らかにFWの密集戦が多くなることを想定していた。8人登録できるリザーブメンバーのうち、6人がFW。BKの控えが2人しかいない。明確に、外勝負ではなく、縦突破のFW戦になることを想定している布陣だった。

日本のハーフバックス陣も十分にそれを分かっており、キックを絡めて相手FWを背走させ、体力を消耗させるゲームメイクをしていた。前半に限って言えばそれはうまくいっていたと思う。それが後半になって、途端にゲームの主導権を南アフリカに握られた。そのポイントとなったのはディフェンスだ。

明らかに南アフリカは、日本のオフロードパスの傾向を分析していた。タックルに行くとき、ボールを持っているプレーヤーに守備を集中させすぎず、その周りのサポートプレーヤーを必ずチェックしていた。日本代表はオフロードパスを出しても、あらかじめマークしていたタックラーにすぐにチェックされ、思うようにパス回しができなかった。

この南アフリカのディフェンスの仕方は、ふたつの意味で日本を制約した。ひとつは「オフロードパスからの繋ぎ攻撃を封じること」、ふたつめは「敵を内側で止めさせ、外まで回させない」ということだ。そのため南アフリカはこの試合を通して、ラインディフェンスは極端に詰めのディフェンスを押し通した。
オフロードパスと並んで、南アフリカが警戒してたのは、日本の両WTB、松島と福岡のスピードだろう。出足の速い詰めのディフェンスでスペースを消し、サポートプレーヤーをマークすることで展開を許さず、内側で止めて外まで回させない。これを南アフリカは80分やり切った。

このディフェンスの仕方は、前提として「ひとりが確実にひとりを止める」ということが必須条件だ。最初のタックラーがかわされてしまったら、サポートプレーヤーをマークしている味方ディフェンスとの間にギャップができてしまう。このディフェンスをやり切った南アフリカは、守備力とタックルにおいて盤石の自信を以て臨んでいたことが分かる。

この試合を通しての総タックル数は、日本が91、南アフリカが140。約1.6倍の開きがある。つないで回して相手を守勢に釘付けにして消耗させる作戦は、前半は成功していた。前半終了間際には南アフリカのFW陣は疲労がたまり、足が止まっていた。おまけにPRムタワリラがシンビンで10分間の退場になってしまう。この数的有利の時間帯に日本がトライを取りきれなかったのが、勝敗を分けたポイントだっただろう。あそこで日本がトライを取っていれば、また違った展開になっていたと思う。しかし結局、日本は南アフリカのゲームプランの枠の中から出ることができず、両WTBを自由に走らせる機会を最後まで得られなかった。

結局、南アフリカは前半終了間際の危険な時間帯をなんとか乗り切った。後半になると、豊富な交代要員でFWをどんどん入れ替え、逆に消耗度で優位に立つようになる。
その象徴が後半26分のSHデクラークのトライだ。モールを組まれ、20〜30mに渡って延々とドライブされた。守備陣形が壊滅した隙をつかれ、サイド攻撃からトライを取られた。

後半になると「モール」「ラインアウト」「ターンオーバー」で日本はチャンスを潰し続ける。特にラインアウトはひどかった。試合全体を通して、南アフリカのラインアウトの成功率は100%、一方の日本は61.5%。5本のラインアウトを相手に取られている。また敵陣深くまで攻め込んでから、ターンオーバーで簡単にボールを奪われた。この試合を通じて、合計10回のターンオーバーを南アフリカに許している。こういう局面でのミスが、流れを失うことにつながった。

日本の攻撃が無力だったかというと、そんなことはない。攻撃のスタッツを見てみると、日本の攻撃は想定通りに行なえていたところもあった。
ボールキャリーは、南アの88回に対して日本は120回。ディフェンス突破は南ア14回に対して日本は20回。パスは南ア100回に対して日本は186回。攻撃に関しては、日本は練習したことを実行していた。

南アの出来が良かったかというと、決してそんなことはない。特にハンドリングエラーが多すぎた。トライを狙える重要なチャンスで何度もボールを落とし、流れを失うことがあった。ところが日本はそれにつけ込むことができず、最初のゲームプランに固執し過ぎていた傾向があった。予想よりも厳しい南アの守備と、予想よりもハンドリングが緩いことを活かして、グラバーキックで陣地を稼ぐなどの工夫があってもよかったと思う。


予選プールと、決勝トーナメントでは、また違う次元の戦いがある、ということなのだろう。日本以外にも、例えばアイルランドなどは毎度優勝候補に挙げられながら、実はベスト8の壁を破ったことが一度もない。今回の大会で日本代表は、いままで立ったことのなかったステージに立った。見たことのない景色を見た。こういうことを地道に積み重ねて行くより他に、強くなる方法はない。

今大会、日本代表はよく戦った。どうすれば勝てるのか、よく考えてそれを実行した。その結果、過去最高の成績を収めた。結果の良いところは自信につなげ、悪かったところは改善の課題とする。そのサイクルを高速で回せるチームが強くなる。

アジアで初、伝統国以外の国で初めてとなるラグビー・ワールドカップがここまで盛り上がっているのは、間違いなく日本代表の躍進にその理由の一端がある。日本代表は開催国として立派な成績を収めた。大会全体の成功にも寄与したという点でも、代表チームの功績は大きいだろう。



おつかれさまでした。また次を目指して頑張ろう。