samoa


ラグビーワールドカップ プールA
日本 38-19 サモア


日本が予選プール3連勝。初の決勝トーナメント進出に大きく前進した。
結果だけ見れば楽勝に見えるが、苦しい試合だった。日本のゲームプランをなかなか実践できず、もどかしい時間帯が続いた。

何よりもサモアの修正能力が見事だった。サモアは「フィジカルが強い」とよく言われているが、実はプレイの精度が低いのが弱点だ。特に前大会からアンバインドタックルとハイタックルで反則をとられ、自滅することが多かった。今大会でもこれまで2試合で合計4枚のイエローカードをもらい、スコットランド戦ではレッドカードで退場者まで出している。

しかし日本戦では、その弱点を極力回避しようと策を練ってきた。サモアの防御に反則が多いのは、組織的なディフェンスよりも1対1の局地的なマッチアップに頼りがちな傾向があるからだ。敵の攻撃を前で止められず、後ろから追いかける形になることが多いので、いきおい首にタックルしてしまう。

その弱点を克服するため、サモアはディフェンスの仕方を変えてきた。具体的には、ラックを捨てるのが非常に早い。勝ち目のないラックをすぐに捨て、サイドディフェンスとラインディフェンスに人数をかける。これまでのロシア戦、スコットランド戦に比べると、日本戦のサモアの密集戦は非常に消耗度が軽い。それによって後追いのディフェンスを減らし、日本の縦攻撃を正面から受ける時間帯が長く続いた。

日本にとっては、そのサモアの守備は想定外だっただろう。FWで縦攻撃を続ければ、サモアの防御に人を巻き込める。そこで人数を減らして、BKの外展開を狙う、日本としてはそういう作戦だったはずだ。
しかし、攻めても攻めてもサモアの守備人数が減らない。相手が疲れない。試合後半になって疲労が激しかったのは、むしろ日本代表のほうだった。これは日本にとって、しつこい縦攻撃で相手ディフェンスの体力を削り続けた、ロシア戦とアイルランド戦とは逆の状況だ。


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日本が警戒しなくてはいけないことは、もうひとつあった。サモアFBのティム・ナナイ・ウィリアムズだ。
フィジカル系の選手が多いサモアにあって、ひとり突出してラグビーIQが高い。試合前の会見で日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチも、最も警戒するべき選手として挙げていた。キック処理に秀で、ディフェンスの指揮力が高く、エキストラマンとして攻撃参加する頻度も高い。今大会参加選手の中でもトップレベルのFBだ。

試合前半のうちに縦攻撃に活路を見いだせなくなった日本は、キック攻撃に切り替える。SO田村はハイパントを多用し、ボールを一旦イーブンにするリスクを犯しても陣地を進める戦術をとった。
しかし、このハイパントが全く機能しなかった。サモアのバックスリー陣は、ティム・ナナイ・ウィリアムズの指揮のもと、日本のハイパント攻撃によるコンテストボールをことごとく確保した。

大会開始後からずっと言われていることだが、今大会の戦術的傾向は、ハイパントだ。湿度が高く気温が高い日本での開催なので、体力のマネジメントにはキックが不可欠だ。全体の傾向として、セットプレーやサインプレー以外の「アンストラクチャー(秩序が乱れた状態)」からの試合運びがトライに結びつく傾向が多く、ハイパントはアンストラクチャーをつくりだす最も直接的な方法だ。

日本はハイパント攻撃をことごとくティム・ナナイ・ウィリアムズにキャッチされ、みすみす相手にボールを渡してしまう展開が続いた。しかしSO田村は、効果がなくても執拗にハイパントを蹴り続けた。これが試合後半になってボディーブローのように効いてくる。
サモアは、試合前半だけでティム・ナナイ・ウィリアムズを交代し下げてしまったのだ。後半になると、サモアのゲームプランが少しずつ狂ってくる。なぜサモアはティム・ナナイ・ウィリアムズを下げざるを得なかったのか。

やはりサモアの根源的な弱点が露呈された、ということだろう。前半24分に、サモアFLのイオアネが危険なプレーでシンビンを受けた。FWの枚数が削られたことで、サモアは全線のディフェンスにBKから1枚出さざるを得なくなり、後方の守備が手薄になった。
日本代表は、明らかにこのタイミングを狙っていたように見える。FW、BK両方の意思が統一されたかのように、ハイパント攻撃を一変させて縦攻撃に切り替えた。4分後、日本は最初のトライを取ることに成功する。

前半25分過ぎになっても日本のハーフバックス陣は、縦攻撃とハイパント攻撃を陣地によって使い分け、サモアのバックスリーにプレッシャーをかけ続けた。その結果、サモアFBティム・ナナイ・ウィリアムズが消耗してしまい、前半だけで途中交代せざるを得なくなった。
SO田村が執拗にハイパント攻撃を繰り返した理由は、競ってマイボールを確保するためではあるまい。後半になってサモアの体力が落ちてきたときにWTBで外勝負ができるように、サモアの守備の砦であるティム・ナナイ・ウィリアムズを削ることが目的だったのだろう。

その日本のゲームプランは、最後の最後で結実する。後半35分に左WTB福岡、試合終了直前の後半40分には右WTB松島が、それぞれ立て続けにトライを挙げた。これで日本は4トライを奪い、ボーナスポイント1点を獲得した。
試合としてはあれだけFW同士の密集戦が続きながら、4トライのうち2つは両端のWTBが取ったことになる。日本代表は80分をトータルに使い、「FWとバックスリーを地味に削り続けて、最後の最後で外勝負」という戦術がチーム全員に浸透していた。外側のWTBの決定力の高さを最大限に活かすために、80分かけて布石を敷いていた感じの試合だった。

結局のところ、サモアと日本の勝敗を分けたのは「戦術理解度」だろう。日本のほうが、極地的な部分だけでなく、80分トータルで試合を運ぶための意思統一ができていた。前回大会でも日本とサモアは予選プールで対戦し、そのときは日本が26-5で圧勝している。サモアはその時から4年間で進化してきたが、日本が積み重ねてきた進化のほうが勝っていた。そういう類いの勝利だったように見える。

これで日本は3勝を挙げ、プールAの首位に立った。最終戦のスコットランド戦に負けても、4トライ以上か7点差以内のボーナスポイントさえ得られれば決勝トーナメントに進める。しかし、今回の最終戦に関しては、そういう話ではあるまい。相手はあのスコットランドなのだ。前回大会で日本が唯一の負けを喫し、しかも10-45という惨敗だった。南アフリカ戦から中3日というハンデはあったにせよ、「奇跡の勝利」から気持ちを切り替えられず、世界の壁の高さを痛感した試合だった。今回の試合では、世界ランキングは日本が8位、スコットランドが9位。日本のほうが上ということになっているが、実際のところスコットランドはまだまだ日本にとって格上だ。「決勝トーナメントに進むため」だけでなく、前回大会の借りを返すため、日本代表の予選プール最終戦は気合を入れて臨んでほしい。



サモアの防御からは学ぶべきことが多かった。