「対立する日韓 交流の歩みも壊すのか」
(2019年8月3日 朝日新聞社説)
「輸出優遇国除外 韓国はなぜ現実に向き合わぬ」
(2019年8月3日 読売新聞社説)
「韓国を『輸出優遇』除外 負のスパイラルを案じる」
(2019年8月3日 毎日新聞社説)
「ホワイト国除外 「甘え」絶つ妥当な判断だ 韓国は不信払拭の行動起こせ」
(2019年8月3日 産経新聞社説)
「日韓は摩擦対象を広げるな」
(2019年8月3日 日本経済新聞社説)
「ホワイト国除外 「報復」の悪循環やめよ」
(2019年8月3日 東京新聞社説)


日韓の国際関係に決定的な亀裂を生じさせた今回の輸出優遇国除外措置。
日本政府の決定の是非はさておいて、ここでは単純に社説の出来・不出来だけに注目して読んでみたい。この中に、ひとつだけ「絶対に反論しなければならない社説」がある。どの社説だろうか。

それぞれの社説で、意見を出してる立場が違う。

「よいことだ」・・・産経
「よくないことだ。韓国が悪い」・・・読売
「よくないことだ。日本が悪い」・・・毎日、東京
「よくないことだ。両方悪い」・・・朝日、日経

意外なのは朝日新聞だ。ここのところ日韓関係については偏向報道を立て続けに流し、世論の批判を浴びていることを十分に意識しているのだろう。今回の日本政府の決定に関しては、ちょっと驚くほど中立な立場で書いている。「角度」の付け方が普段の朝日らしくない。

自治体や市民団体などの交流行事は中止や延期が相次ぐ。7月の半導体材料の輸出規制もあわせ、今後の運用次第では韓国経済を深刻に苦しめ、日本の産業にも影響がでかねない。きのうの決定が実施されるのは今月下旬からになる。両国関係に決定的な傷痕を残す恐れがある一連の輸出管理を、日本は考え直し、撤回すべきだ。
(朝日社説)
一方、文在寅(ムンジェイン)政権は対抗策として、安保問題で日本との協定を破棄する検討に入った。だが北朝鮮が軍事挑発を続けるなかで、双方に有益な安保協力を解消するのは賢明な判断とは言えない。文大統領は、ここまで事態がこじれた現実と自らの責任を直視しなければならない。きのう「状況悪化の責任は日本政府にある」と語ったが、それは一方的な責任転嫁である。

当面の対立緩和のために取り組むべきは徴用工問題だ。この問題で文政権は、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じる前から、繰り返し日本政府から態度表明を求められてきたが、動かなかった。文氏は、司法の判断は尊重するとしても、行政府としては過去の政権の対応を踏まえた考え方があることを、国民に丁寧に説明しなくてはならない。
(朝日社説) 


現代の国際間紛争であれば、片方だけが一方的に悪いということはあり得ない。今回の日本の措置にしても、日本だってしたくてそんなことをしたわけではない。状況をコントロールする方法として、持っている手段を公使しただけだ。その前提には、「状況がコントロールを必要とするほど乱れている」という現実がある。

朝日の主張は要するに「状況を悪くしたのは韓国。そのコントロール手段を誤ってるのが日本」という内容だ。結果としてだが、わりとバランスのとれている社説になっている。普段の朝日新聞であればもっと韓国ワッショイの記事を載せるところだろうが、朝日新聞の現状からしてそれは致命傷になりかねないと踏んだのだろう。ビビった挙句なのだろうが、結果としてわりとまともな社説になっている。

朝日と並んで「両方悪い」という主張を載せている日経社説は、珍しく出来が悪い。経済と民間交流に及ぼす影響しか考えていない。もとは政治的な背景のある問題だとしたら、「そもそもの原因は何か」という過去由来の論拠と、「それが及ぼす影響は何か」という未来志向の論拠と、両方を揃えなければ説得力がない。今回の日経は、後者だけに著しく偏っている。ことの発端がどうであろうが関係ない、影響だけが問題だ、という書き方だ。これでは影響の指摘が適切であろうとも、説得力のある解決策には結びつかない。

普段の朝日の論調をそのまま踏襲したのが毎日新聞だ。完全に「韓国が正しい。日本が間違っている」の一本槍。いくら左派系とはいえ、ここまで他国寄りの社説を載せる新聞は世界的にも珍しいだろう。

毎日新聞がどのような主張を載せようが勝手なのだが、その論拠がいただけない。毎日新聞の論拠は、「政治的な対立を、経済的な手段で報復するのは筋違いだ」ということだ。もともと今回の日本の優遇国除外措置は、日本政府の発表によると、政治的対立は関係ない。単に「優遇国として課されるルールを韓国が守っていないから」ということになっている。日本が眉を顰めたのは、兵器に転用可能な輸出品目の管理と報告を韓国がずさんに行なっていることだ。端的に言えば、北朝鮮への兵器用素材の密輸を疑っている。

だから毎日新聞の主張の妥当性は、「今回の日本の措置は、本当に政治問題に由来した報復なのか」というのを明らかにできるかどうかに懸かっている。経済の問題に対して経済で対処したのなら、何の問題もないはずだ。

それに関する毎日新聞の論拠が、お粗末極まりない。

韓国は1965年の日韓請求権協定に基づき解決済みとしてきた。だが昨年の韓国最高裁判決を受け、今年6月に日本に示した案は日本企業に資金拠出を求める内容だった。請求権協定に基づき、日本が要請した仲裁委員任命にも応じていない。日本政府は国際法違反とみている。

日本政府は元徴用工問題への事実上の対抗措置として輸出規制に踏み切った。世耕経産相は、韓国の対応について、信頼関係が著しく損なわれたと説明していた。

だからといって無関係な貿易の手続きを持ち出すのは筋が通らない。日本政府は否定するが、国際的には貿易の政治利用と受け止められた
(毎日社説)


「貿易の政治利用と受け止め」たのは、一体誰なのか。
「国際的には」とは、どこで誰が言ったことを指すのか。


一番肝心な論拠を、受身で書いて動作主をごまかして書いている。最も恥ずべき書き方だ。「みんなそう言ってますよ」「そう言われてるんですよ」などという書き方に、説得力など微塵も無い。学校の生徒が、作文や小論文で絶対に書いてはいけない書き方だ。子供でさえ改めさせられる外道な書き方を、こともあろうに全国紙の社説が臆面もなく書いている。もはや「恥を知れ」レベルの社説だ。

「恥を知れ」レベルの出来の悪さでいえば、東京新聞も負けてはいない。毎日新聞は、一応、論拠らしいものを出す体裁を整えるふりをしつつ、肝心なところをごまかして書いていた。一方、東京新聞はその体裁を整えようとすらしていない。

日韓間では、影響が広がっている。心配なのは地方自治体や若者による草の根の交流事業が、相次いで中止されていることだ。韓国では日本製品の不買運動が拡大。飲料や衣料だけでなく、日本車も対象になっている。日本への観光客も激減しており、両国をつなぐ航空便が次々に停止や縮小に追い込まれている。

問題の発端は、昨年十月、韓国最高裁が出した元徴用工をめぐる判決だ。しかし、ここまで関係が悪化している現実を、日本政府は認識しているのだろうか。混乱の拡大を懸念し、韓国だけではなく米国も見送るよう求めていたのにもかかわらず、除外を強行した責任は重い。


「しかし」の意味がまったく分からない。
並べてみると、

「韓国で日本に対して良くないことが次々と起きている」
 ↓
「発端は韓国最高裁が出した元徴用工をめぐる判決」
 ↓
「日本の責任。日本が悪い。」



なぜ。



韓国側の問題を延々と指摘したあとに、何の脈絡もない「しかし」という接続詞一発で、日本の責任追及にあっさり舵を切る。根拠も、文章の体裁も、論理の整合性も、一切無い。すべて軽やかに無視している。こうなると、もはや社説ではない。なりふり構わず読者を誘導するための煽動記事以外の何者でもない。東京新聞なら、そのくらいは平気でするだろう。

こうして見てみると、「日本が悪い」系の新聞は、内容云々以前に、社説としての出来が悪い。説得力が皆無だ。これは新聞業界全体にとって由々しき事態だと思う。産経新聞のような好戦的な主張に対する反論として機能しないからだ。

産経新聞だけが、今回の日本政府の措置を全面的に支持している。極右系の新聞だけあって、開戦も辞さないような攻撃的な社説だ。しかも挙げている論拠には、出自不明の伝聞やら「〜と言われている」的なごまかしは一切なく、淡々と事実を積み上げて論証している。この主張に反論するのは、少なくとも毎日新聞や東京新聞では無理だろう。 書き方の妥当性と説得力が段違いだ。

産経新聞は、論拠の筋は通っている。しかし、それが「妥当な提言」になっているかというと、大いに疑問だ。ぶっちゃけ、隣の国なのだから、関係が悪くなって良いはずは無いのだ。新聞社説の提言としては、「韓国なんてぶっ潰せ、やっつけろ」ではなく、「どうすれば事態が収束するか」という、平和的な着地点の模索であるべきだろう。

最近の韓国の、国としてのあり方に苦虫を噛み潰す思いの日本人は多いかもしれない。しかし、国際間の問題で「胸がスカッとするような方策」は、破滅の道であることが多いのだ。戦前の日本の国際連盟脱退もそうだったし、日ソ中立条約の破棄もそうだった。産経新聞の社説からは、そのような道を日本が再び辿ろうとしている危険な気配を感じる。

だから他紙としては、産経新聞のこのような好戦的な社説に歯止めをかけるべく、冷静な視点で収拾案を提言しなくてはならない。産経新聞のような社説に熱狂して同意し、「韓国憎し」の感情を増幅しても、廻り廻って損をするのは日本なのだ。ちょうど今、外交的にも内政的にも窮地に経たされた文在寅大統領がひたすら「日本憎し」のプロパガンダを炸裂させているが、日本もそれと同等の立場に堕ちてしまう。その愚を犯す危険は避けなければならないだろう。

日本は歴史教育によって、なぜ戦前の日本が世論によって戦争を回避できなかったのかを、すでに学んでいる。「他国を潰そう」という憎しみのエネルギーが諸刃の剣であることは、日本は世界のどの国よりも学んでいるはずだ。産経新聞の主張は正当で論拠に弛みがなく、正しい。正しいからこそ、産経の主張に正面から反論し、代替案としての収拾策を提言できなければならない。それこそが、国際紛争を事前に回避する歴史教育の目的だろう。それができなくては、日本国民は、韓国や中国を「『歴史認識』を一方的な齟齬によって犯す国」として批判する資格はない。



八方塞がりの韓国には、今ああいう態度以外に方策は無い。



「対立する日韓 交流の歩みも壊すのか」
(2019年8月3日 朝日新聞社説)
日本と韓国が国交を開いてから半世紀あまり。その歩みの中で両国関係は今、最も厳しく、危うい領域に入りつつある。密接に絡み合う産業の足を引っ張り、市民の交流までが寸断される危機をどう克服するか。双方の政治指導者は報復ではなく、修復の策を急ぐべきだ。

安倍政権はきのう、輸出手続きを簡略化できるリストから韓国を外すことを閣議決定した。安全保障上、貿易相手としての扱いを格下げするという。閣議後の会見で世耕弘成経済産業相は「日韓関係に影響を与える意図はなく、何かへの対抗措置でもない」と述べた。

だが世耕氏を含む政権関係者は7月に輸出規制を発表した際、徴用工問題に言及していた。一連の動きは国際的にも日本による報復と目されている。政府の釈明がどうあれ、日韓関係への打撃は避けられない。

自治体や市民団体などの交流行事は中止や延期が相次ぐ。7月の半導体材料の輸出規制もあわせ、今後の運用次第では韓国経済を深刻に苦しめ、日本の産業にも影響がでかねない。きのうの決定が実施されるのは今月下旬からになる。両国関係に決定的な傷痕を残す恐れがある一連の輸出管理を、日本は考え直し、撤回すべきだ。

一方、文在寅(ムンジェイン)政権は対抗策として、安保問題で日本との協定を破棄する検討に入った。だが北朝鮮が軍事挑発を続けるなかで、双方に有益な安保協力を解消するのは賢明な判断とは言えない。文大統領は、ここまで事態がこじれた現実と自らの責任を直視しなければならない。きのう「状況悪化の責任は日本政府にある」と語ったが、それは一方的な責任転嫁である。

当面の対立緩和のために取り組むべきは徴用工問題だ。この問題で文政権は、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じる前から、繰り返し日本政府から態度表明を求められてきたが、動かなかった。文氏は、司法の判断は尊重するとしても、行政府としては過去の政権の対応を踏まえた考え方があることを、国民に丁寧に説明しなくてはならない。日本政府は、水面下のルートも駆使して韓国側との外交的な話し合いを急ぐべきだ。韓国政府が自国民に静かに語れる環境づくりに、日本側も協力するのが望ましいだろう。

米国による仲裁は不発に終わった。そもそも同盟管理に消極的なトランプ政権が、どこまで本気か疑わしい。今後の日韓は米国頼みではなく、自立的に問題を解決できる関係を築くほかなく、その意味で今まさに双方の政治の力量が試されている。


「輸出優遇国除外 韓国はなぜ現実に向き合わぬ」
(2019年8月3日 読売新聞社説)
韓国の感情的な振る舞いは目に余る。日本は事実関係に基づいて粛々と対応すべきだ。日本政府は、輸出手続き簡略化の優遇を受けられる対象国から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。28日に施行される。

菅官房長官は記者会見で「韓国の輸出管理制度や運用に不十分な点があることなどを踏まえた見直しだ」と述べた。当局者同士の意思疎通が十分なされず、信頼関係も崩れている。韓国への特別扱いをやめるのは仕方あるまい。炭素繊維や工作機械など軍事転用の恐れがある品目について手続きを厳格化し、輸出先や使途を詳細にチェックする。他のアジア諸国向けと同じ扱いに改める。日本はすでに、半導体製造に必要なフッ化水素など3品目の輸出手続きを厳しくした。不適切な事案が見つかったためだ。優遇国除外はそれに続く措置になる。

韓国側は、7月の事務レベルでのやり取りで「撤回を要請した」などと、事実に反する説明をしている。この点も見過ごせない。世耕経済産業相は「信頼感を持って対話をできない状態になっている。韓国には発表の訂正をはじめ、誠意ある対応を期待したい」と注文を付けた。当然だろう。

優遇国からの除外は輸出制限とは違う。輸出企業の事務負担は増えるが、審査をパスすれば、輸出は許可される。こうした安全保障上の措置は、自由貿易を原則とする世界貿易機関(WTO)のルールでも認められている。バンコクで日韓の外相会談が開かれ、議論は平行線に終わった。対立を憂慮するポンペオ米国務長官は仲介を模索している。

問題は、現実を直視しない文在寅政権の姿勢だ。韓国は対日輸出の管理を強める対抗策を発表した。文大統領は閣議で「責任は全面的に日本にある」と述べた。日本を非難するだけでは事態は改善しない。韓国が優遇国への再指定を望むのであれば、自国の輸出管理の適正化が先決である。韓国側が、北朝鮮の核・ミサイル情報を共有する「日韓軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)の破棄の可能性まで示唆しているのは、筋違いと言うほかない。

韓国はWTOへの提訴も視野に入れている。今後も国際社会で宣伝戦を繰り広げる可能性が高い。日本は自らの正当性を丁寧に発信していく必要がある。無論、冷静に協議できる環境が整った場合には、日本も真摯に対応しなければならない。


「韓国を『輸出優遇』除外 負のスパイラルを案じる」
(2019年8月3日 毎日新聞社説)
政府は、安全保障上の輸出管理で手続きを優遇する対象国「グループA(ホワイト国)」から、韓国を除外すると閣議決定した。除外は初めてで、極めて異例の対応だ。半導体材料など3品目の輸出を先月規制したのに続く第2弾だが、今回は日韓関係を歴史的岐路に立たせるものだ。過去の摩擦とは次元の異なる対立になりかねない。

理由の一つは、規制対象となりうる品目を大幅に広げたことだ。新たに含まれる品目に工作機械がある。代表的なのは、韓国の主力製品の半導体を作る装置だ。材料の規制と二重の打撃になりかねない。半導体に次ぐ産業の自動車も、材料の炭素繊維やリチウムイオン電池が対象になりうる。通信機器や電子部品なども含まれ、幅広い業界に悪影響が広がる恐れがある。

「歴史的岐路の日韓関係」
これは日韓関係に組み込まれてきた「政経分離」を揺るがす。日韓は互いに主要な貿易相手国だ。従来は歴史認識などで政治的関係が悪くなっても、企業の密接な結び付きが一段の悪化を防いできた。韓国にとって高成長を遂げた経済は自信の源泉だ。除外はそこを突くだけに反発も強い。既に日本製品の不買運動などが広がっており、反日感情をさらに刺激する恐れがある。

二つ目は東アジアの安全保障環境を不安定にしかねないことだ。輸出優遇対象国からの除外は、安全保障上信頼できず、友好国でないと位置付けたに等しいだろう。韓国の康京和(カンギョンファ)外相は、今月下旬が更新期限の日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する可能性に言及した。日韓の連携が支障を来せば、北朝鮮などを利する。北朝鮮が短距離弾道ミサイルを相次いで発射したのは日韓の対立と無縁ではないだろう。中国軍機と共同飛行したロシア軍機が島根県・竹島の領空を侵犯したのも、日韓対立に乗じた揺さぶりとの見方がある。

深刻なのは、日韓両政府が世論を意識してか、互いを批判する負のスパイラルに陥っていることだ。米国が「仲介」に乗り出そうとしたが、日米韓の外相会談を待たず、日本は除外を決めてしまった。世耕弘成経済産業相は決定後、除外に関する意見公募の結果を公表した。異例の4万件が集まり、95%が賛成だったと紹介し、この結果も踏まえ除外を決めたと明らかにした。

除外決定後、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は「盗っ人たけだけしい」と口を極めて日本を非難した。以前には安倍晋三首相も韓国を「国と国の約束が守れない」などとなじった。世論を冷静に見極めて、政策を決めるのが政府の役割だ。ナショナリズムをあおるような手法は危険だ。ここまでこじれたのは、韓国人元徴用工への賠償問題を巡り、日韓双方の対応に問題があったからだ。

「共通利益の再確認必要」
韓国は1965年の日韓請求権協定に基づき解決済みとしてきた。だが昨年の韓国最高裁判決を受け、今年6月に日本に示した案は日本企業に資金拠出を求める内容だった。請求権協定に基づき、日本が要請した仲裁委員任命にも応じていない。日本政府は国際法違反とみている。

日本政府は元徴用工問題への事実上の対抗措置として輸出規制に踏み切った。世耕経産相は、韓国の対応について、信頼関係が著しく損なわれたと説明していた。だからといって無関係な貿易の手続きを持ち出すのは筋が通らない。日本政府は否定するが、国際的には貿易の政治利用と受け止められた。

必要なのは、日韓両政府が大局的観点から歩み寄ることである。日韓が国交を正常化した65年は米ソ冷戦時だった。歴史認識などで溝を抱えながら、同じ西側陣営に属することが求心力となった。冷戦が終結し、東アジアの構造も変わった。韓国は、台頭する中国との関係を深めた。領土を巡るナショナリズムも高まった。

だが、東アジアの秩序維持に果たす日韓の役割の重要性は変わっていない。北朝鮮の非核化には日韓の緊密な連携が必要だ。協力を通じて東アジアの安定を図ることが日韓共通の利益にもなるはずだ。歴史認識などの摩擦は簡単には解決しない。大事なのは、摩擦が起きても、経済や民間交流に響かないよう政府が危機管理を行うことだ。

出口の見えない応酬を繰り返していては外交は成り立たない。日韓の首脳は誠実に向き合うべきだ。


「ホワイト国除外 「甘え」絶つ妥当な判断だ 韓国は不信払拭の行動起こせ」
(2019年8月3日 産経新聞社説)
≪韓国は不信払拭の行動起こせ≫
政府が、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国を外す政令改正を閣議決定した。妥当な判断である。韓国の反発に揺るがず、国家の意志を貫いたものとして支持したい。

韓国には、日本から輸出された、軍事転用の恐れがある物資の管理体制に不備がある。その改善に向けた信頼ある行動も期待できない。そのような国の特別扱いをやめるのは当然である。こうした当たり前のことすら遠慮してきたのが従来の対韓外交だった。それをいいことに文在寅政権は反日的行動を重ねてきた。だが、もはや韓国の日本に対する甘えは許されない。そこを明確にした点でも、今回の決定は大きな意味を持つ。

≪仲介受ける話ではない≫
厳しい関係が長期化する懸念はもちろんあろう。輸出手続きの厳格化により、韓国企業のみならず日本側に影響が及ぶことも想定しておかなければならない。そうであっても、未来志向の健全な日韓関係を築くための重要な布石だと認識すべきである。韓国は、日本を翻意させるため米国の仲介に期待している。だが、輸出管理をどう運用するかは、主権国家として日本が自ら判断すべき問題である。

措置の是非を韓国と協議する必要もなければ、米国の仲介を受ける話でもない。日本は粛々と必要な対応をとればよい。ホワイト国からの除外は、先に決定した半導体材料の輸出管理厳格化に続く第2弾だ。ホワイト国であれば、軍事転用が可能な品目の輸出手続きを簡略化できる優遇措置を受けられる。

韓国は日本側の一連の措置を、もっぱら「徴用工」訴訟をめぐる対抗措置ととらえ、世界貿易機関(WTO)ルールに反すると批判している。だが、こうした指摘は的外れである。安全保障上の輸出管理は、大量破壊兵器などの拡散を防ぐ措置であり、これを適正に運用することは、国際社会に果たすべき日本の責務だ。自由貿易に反するどころか、これを悪用させないためにも欠かせない。

禁輸などの数量制限をかけるわけでもなく、優遇措置を外すだけだ。韓国が日本の輸出品を適正に扱っているなら、日本からの部材供給が止まることはない。ホワイト国は欧米中心の27カ国だが、アジアでは2004年に認めた韓国のみだった。日本企業と密接なつながりのある台湾や東南アジア諸国もホワイト国ではない。韓国はこれと同じ扱いに戻るにすぎない。

かねて日本は韓国に、兵器転用可能な品目の管理体制などが不十分だと懸念を伝えていた。それでもホワイト国にしてきたのは韓国が適切に対処すると期待していたからだ。ところが最近の韓国はそのための協議にさえ応じなかった。信頼を裏切る行為である。

≪反日あおれば解決遠い≫

しかも、国交の基盤である日韓請求権協定に反しても一向に改めようとせず、慰安婦問題の日韓合意も一方的に破った。海外で日本を貶(おとし)める悪口を広め、自衛隊機には火器管制レーダーを照射した。これでもかというほど反日行為を重ねながら、特別扱いだけは続けよというのは虫がよすぎる。韓国は、日本側の根深い不信感を直視しなければならない。その上で輸出管理体制の不備を改めるのはもちろん、国と国との約束を守り、信頼に足る国として振る舞う必要がある。それとは正反対の反応をとる文政権には失望せざるを得ない。

文大統領は「状況を悪化させた責任は日本政府にある」「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく大声を上げる状況は座視しない」などと、異様なほど強い言葉で日本を非難した。日本製品の不買運動などが広がる情勢を捉え、国内向けに強硬姿勢を演出する思惑もあろうが、もっと冷静になってはどうか。

韓国政府は日本への対抗策ばかりが頭にあるようだ。康京和韓国外相は河野太郎外相との会談で、今月末に更新期限を迎える日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の解消をちらつかせた。WTOへの提訴も準備している。米国などを舞台に、日本を非難する情報戦も強めるに違いない。それが日本の対韓不信をさらに高め、両国関係の正常化を遠のかせることに気づくべきだ。


「日韓は摩擦対象を広げるな」
(2019年8月3日 日本経済新聞社説)
政府が輸出管理を簡略化する優遇対象国のリストから韓国を除外する政令改正を閣議決定した。韓国が安全保障上の懸念を払拭する必要があるのは言うまでもないが、政府も過度な貿易制限は厳に戒めてほしい。自由貿易の原則を徹底するよう重ねて求める。

半導体材料の韓国向け輸出管理の厳格化に続く第2弾だ。優遇対象国から外れると、軍事転用の恐れがあるとされた品目の輸出は経済産業省の個別審査が必要で、輸出が滞るケースもあり得る。韓国の文在寅大統領は「相応の措置を断固としてとる」と述べた。

韓国内には日韓の軍事情報包括保護協定の破棄論もあるが、摩擦の対象を防衛協力に広げるのはよくない。1週間余りで3回目の飛翔(ひしょう)体2発を発射した北朝鮮に関する軍事情報を迅速に共有できる同協定は、不透明な東アジア情勢で威力を発揮する。

草の根の交流まで揺さぶられている。韓国人訪日客は減少し、日本便の運休が航空大手に波及した。一般市民は落ち着いていても、政府間対立が長引けば影響は避けられない。これまで一時的や限定的にとどまっていた反日運動を勢いづかせるのは得策ではない。

「こういう時だからこそ国民交流は重要だ」(河野太郎外相)との認識はもっともだ。一方で、双方の政治家らの言動が相手国の世論を刺激している。感情的な応酬は自制しなければならない。安保協力や民間交流を後押しすることは政治の役割である。

元徴用工判決と自衛隊機へのレーダー照射によって企業間と防衛当局間のパイプが傷ついた。旅行や自治体交流など両国の往来まで支障を来せば、日韓対立は歯止めがかからなくなる。

対立の発端となった徴用工問題でまずは韓国政府が解決のための新提案を示す必要がある。日本企業を相手取った訴訟が韓国で続いており、放置すればするほど悪化する。米国が仲介に乗りだしたが、日韓両政府は自ら対話で解決すべきだ。


「ホワイト国除外 「報復」の悪循環やめよ」
(2019年8月3日 東京新聞社説)
日韓関係が危機的だ。日本政府が、輸出管理上の優遇を適用する国から韓国を除外、韓国が反発しているからだ。「報復」の悪循環はどちらの利益にもならない。感情を抑え、対話を始めるべきだ。

韓国を「ホワイト国」から除外した決定は、半導体材料の輸出管理強化に続く第二弾となる。日本政府は、いずれも元徴用工問題とは無関係で、安全保障上の見直しだと説明しているが、タイミングからして、この問題への対抗措置なのは明白だ。

日韓間では、影響が広がっている。心配なのは地方自治体や若者による草の根の交流事業が、相次いで中止されていることだ。韓国では日本製品の不買運動が拡大。飲料や衣料だけでなく、日本車も対象になっている。日本への観光客も激減しており、両国をつなぐ航空便が次々に停止や縮小に追い込まれている。

問題の発端は、昨年十月、韓国最高裁が出した元徴用工をめぐる判決だ。しかし、ここまで関係が悪化している現実を、日本政府は認識しているのだろうか。混乱の拡大を懸念し、韓国だけではなく米国も見送るよう求めていたのにもかかわらず、除外を強行した責任は重い。

二日には北朝鮮が飛翔(ひしょう)体を発射した。先月から三回目だ。日韓は安保上の協力を密にしなければならない。ところが安倍政権は韓国側に対し、高圧的な姿勢で元徴用工問題の解決を迫っている。

かつて安倍政権は、拉致問題解決のためとして北朝鮮に同様の圧力をかけたものの、成果は上がらなかった。その経験も生かしたい。隣国との軋轢(あつれき)は、来年の東京五輪にも悪影響を与えかねない。

一方、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく大声を上げている」などと激しい言葉で反発した。愛国心を煽(あお)るような発言は、事態をさらに悪化させるだけだ。韓国では、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を求める声もあるが、これ以上問題を拡大するのは賢明ではない。みかねた米国が、対立の一時棚上げの仲裁案を提示したという。もう日韓両国による事態収拾は無理だろう。仲裁を受け入れ、歩み寄るべきだ。

日韓は、過去を乗り越える努力を続け、両国で年間約一千万人が往来する関係を築いた。今のような対立が長引けば、国民の心に大きな傷を残す。関係回復も難しくなるに違いない。