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街の本屋さんや文房具屋さんに手帳が出回ってくる季節になりましたね。


この時期になると、いろんなところで来年の手帳を売り出す頃になりまして、年末に向かう感が満載です。
年の瀬の風物詩というのはいろいろありますが、個人的にはその中に「手帳売り場」というのを付け加えたい気分であります。

僕は文房具好きなので、暇さえあれば手帳売り場をふらついています。新作や定番などいろんな手帳を手に取って、その使い心地を確かめるのであります。
たまに目を引く手帳があったら、一期一会の精神ですぐに買います。

あ、ちなみに僕は手帳は使いません
僕が使っているのはシステム手帳なので、その年が終わったら使い捨て、というわけではありません。中のリフィルを取り替えつつ、もう20年くらい使っています。学生時代、はじめて手帳を買った時に、「どうせ買うならしっかりした一生モノを買おう」と思って、アルバイトしてお金ためて買いました。


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fILOFAXのPocket Hamilton。もう売ってない。


ですから、僕が街中のお店で来年度の手帳を買うのは、観賞用です。
使うのではなく、来年の手帳のレイアウトや構成や手触りや質感などを確かめつつ夜に一杯やるのが僕の使い方です。
真の文房具好きというのはかくありたいものです。

なんというんですかね、初めて手帳を持ったときのことを思い出すんですよね。
僕がはじめて手帳なるものを持ったのは高校生の頃だったと思いますが、自分の予定を実際に書き込んでいくと、なんかとても大人になった感があったんですよね。
なんとなく予定の「つもり」を考えるのではなく、実際に紙に書いてみると、実際にそれを実行するための影響力に違いがある、というのを実感したのもその頃です。
だからなんですかね、手帳そのものを愉楽の対象とするというよりも、手帳を使ってその頃のことを思い出しているだけかもしれません。

まぁ、さすがに商品数が多いだけあって、高橋書店の手帳にはまぁまぁ見られるものがあります。「手帳は高橋」でおなじみの実用手帳ですね。
高橋書店の優れているところは、サラリーマン、学生、主婦、その他の職業別のモデルや、中高年、青少年の年齢別、それぞれの性別のモデルを特化して作り込み、訴求先を絞っていることですね。昨今のように商品数が多くなると、「なんとなく手帳です」というのは売れません。それぞれの使用者に、それぞれの使い方ができるように、細かく工夫してそれぞれのモデルを作り込んでいるところが凄いです。

それに比べて、V6の岡田准一の広告でお馴染みのNOLTYは、はるかに訴求先を絞っています。あれは明確にサラリーマンだけを対象としている手帳で、効率性と実用性だけを追求しています。レイアウト、フォント、色配置なども昭和臭が全開です。手に取った感じ、明確に「おっさん手帳」です。
もとからしてが、最近はNOLTYなんてオシャレに展開していますが、僕にとってはあれはいまだに能率手帳です。企業ごとに社員手帳として配ってた頃のレイアウトが基調になっているものです。ですから、NOLTYは厳しいビジネス社会を生き抜くサラリーマンにとっての「武士の刀」とでも言うべきものであって、ワタクシのようにフワフワ生きている輩がむやみに手を出すべきものではありますまい。


で、僕にとっての観賞用の手帳の条件ですが。
マニアだけありまして、僕の好みの手帳にはいろいろ条件があります。

1. 見開き一週間(横書き)式
2. かつ冒頭には見開き一ヶ月(ブロック式)付き
3. 余計な罫線がなく、白紙レイアウト
4. 裏写りしない紙質
5. 180度、平らに開く製本
6. フォントがゴチック体以外
7. カバー材質の柔らかさと手触り


これらの条件を満たさない限り、夜に一杯やるお伴としては失格であります。


で、ないんですよね。この条件を満たす手帳って。
(4)で裏写りしないというのは、僕は主に手帳を万年筆で書くからです。だいたいの手帳というのは、機能性と軽さを追求し、かつボールペンやシャープペンで記入することを想定しているので、紙質が薄いものが多いです。万年筆で書いたら2, 3ページくらい染み抜いていまうのもあります。

手帳というのは立ち書きできるようにコンパクトなものが多いですが、僕にとっては夜の観賞用ですので、机の上でじっくりと使うものです。だから(5)のように机上で使うことを前提にしている製本のほうがよろしい。

ほとんどの手帳は、条件(3)で全滅になります。僕は紙に引いてある罫線が嫌いなので、僕が使うノート類はすべて白紙です。
しかし、どうしてなんですかね、市販の手帳はことごとく余計な罫線が引いてあるんですよ。まぁまぁマシなので方眼です。純白の白さを誇る手帳というものが少な過ぎる。まったくけしからん。

邪推ですが、手帳メーカーは他社製品との差別化をはかるために、「いろいろと工夫していますよ」という仕掛けをやたらと盛り込みたがるのだと思います。それが売れるかどうかではなく、そうしないと企画会議を通らないのでしょう。ただの罫線に見えても、手帳の罫線というのは商品によって幅や太さや色がすべて微妙に違います。
そんな中、「一切罫線を引かない」という商品は、「積極的に顧客を穫りに行こうとしていない」と見られて忌避されているんだと思います。


で、手帳売り場にはあれだけ手帳が並んでいながら、買うに値するピッタリの手帳がなかなかないわけですが、とうとう見つけました。すべての条件を満たす手帳の中の手帳を。


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枻出版社「ESダイアリー(見開き1週間式)」


素晴らしい。



ぱっと見て圧倒的に優れているのは、紙質です。他社製品とは明らかに紙質が違う。実際に試してみると、万年筆でもまったく裏写りしません。
製本も接着製法ではなく、丁寧に糸かがり製本ですので、机の上で180度きれいに開きます。手帳を開くときにストレスがありません。
使用フォントも「カッパープレート」という、のほほんとした書体を使っています。予定を迫ってくる圧迫感と脅迫感がなく、かつトラディショナルに引き締まっているという、非常に絶妙な感じです。
巻末付録も多すぎず少なすぎず、その年に必要な情報をコンパクトに必要かつ十分なだけ掲載しています。かなり利用者のことを考えて作られており、只者ではない完成度です。

なによりも、(3)の「罫線がない」という条件を満たしているのが素晴らしい。作る側の事情で作るのではなく、使う側のことを考えてくれている感が非常にありがたいです。

製造元の枻出版社は、もともと文房具系の雑誌を発行するなど、文房具に造詣の深い会社です。この時期には手帳の特集雑誌なども作っています。それだけに、市販の手帳の特徴と弱点をよく分かっているのでしょう。それをうまく自社製品に反映させて、「手帳とはかくあるべき」というものを見事に作りあげています。

ESダイアリーは、見開き一週間以外にも、レフト式、バーチカル式、見開き1ヶ月ノート、ウィークリーノート、1日1ページ式など、いろんなレイアウトを展開しています。サイズもいろいろな大きさを展開しており、用途によって使い分けできます。
当分、このシリーズを上回る手帳はないかどうか探す感じで、手帳売り場をうろつくことになりそうです。



使う用と鑑賞用に2冊買おうか迷い中。