「金正恩氏の妹 訪韓を説得の機会に」
(2018年2月9日 朝日新聞社説)
「平昌五輪開幕 「北」の政治宣伝は許されない」
(2018年2月9日 読売新聞社説)
「平昌冬季五輪きょう開幕 国家間競争超えた祭典に」
(2018年2月9日 毎日新聞社説)
「政治色のない平和の祭典に」
(2018年2月9日 日本経済新聞社説)
「平昌五輪開幕 異形の大会に誰がしたか」
(2018年2月10日 産経新聞社説)
「平昌五輪開幕 汚れなき舞台であれ」
(2018年2月9日 東京新聞社説)


平昌五輪、始まりましたね。
日本は金メダルこそ厳しいものの、次々とメダルを獲得。自己ベストを更新する選手も多く、今後の日程でも生き生きと競技してほしいですね。


ちょっと前の記事になるが、開会式に先立って各社新聞が社説で報じている。まぁ、どの新聞も渋い論調。今回のオリンピックを「マル」と採点している新聞は皆無。
理由は大きく分けて、北朝鮮問題と、ロシアのドーピング失格問題がある。

北朝鮮の問題は、今回の会場が韓国であることを考えると、どのみち起きたであろう必然的な問題だろう。現実問題として北朝鮮は、全包囲網を敷かれている現在の制裁状況で、使えるカードが無い。だから必死で、使えるものは何でも使う。同民族の隣国でオリンピック開催などというイベントがあれば、陰に日向に首を突っ込んでくるであろうことは目に見えている。

逆に言えば、今回の北朝鮮参加騒動は、それだけ北朝鮮が追いつめられて必死になっていることの左証だろう。北朝鮮に余裕があって、経済制裁など屁のようなものであれば、毅然としてオリンピックをボイコットしているはずだ。それを「合同チーム」などという不可思議な形態であっても参加することに拘泥しているということは、オリンピックを通して国際社会に「存在」をアピールせざるを得ない状況に追い込まれている、ということだ。開会式に序列ナンバー2、金正恩の実妹の金与正 を派遣したところからも、その焦りが見て取れる。

産経新聞をはじめ、ほとんどの新聞では今回の北朝鮮のオリンピック外交を「けしからん」という論調で報じ、それを助長する韓国の文在寅大統領の方針を批判している。しかし、前述のような北朝鮮の追い込まれっぷりを見れば、オリンピックをはずれて「いままでの対北朝鮮制裁は確実に効いている」ということが見て取れる。

オリンピックでの政治的活動は禁じられている。しかし今回のオリンピックに関しては、IOCのバッハ会長、開催国大統領の文在寅の二大巨頭が、進んでオリンピックを政治利用しているのだ。けしからんことをしている輩に対して「けしからんことをするな」と叱っても、意味がない。むしろ、「こいつらはこんなにけしからんことをやった」という事実を、今後のオリンピックの歴史に未来永劫残すことのほうが必要だろう。


もうひとつの問題、ロシアのドーピングによる参加禁止については、どの新聞もあまり効果的な批判を載せていない。けしからんことに対して「けしからんですね」と言うだけの、小学生でも書けるような内容に終止している。

ロシアのオリンピック委員会は、大会が開催された現在になっても尚、正式な事実公表や再発防止策をIOCに表明していない。このままロシア側がだんまりを決め込めば、2020年の東京オリンピックにも参加禁止措置が適用される。

単純に考えれば、ロシア側は意図的に声明を発していないのではなく、「出したくても出せない状態」なのだと思う。オリンピック参加禁止という重いペナルティーを課されて、現行のオリンピック委員会の人事が大混乱に陥っている。責任者が更迭され、利権を貪っていた既得権益の亡者狩りが行われ、誰が責任者となって誰がロシアのアスリート達のリーダーになっていくのか、まったくの空白状態になっているのだろう。

僕が今回のロシア問題で何か提言をするとしたら、このような混乱に陥ったロシアの状況をどうやって収拾するか、だろう。ロシア側の現状を見ると、明らかにロシアは自国内で今回の混乱を収拾する能力がない。すると外部からロシア・オリンピック委員会を再建するための助力が必要となる。
それを行えるのはIOCしかないだろう。バッハ会長は、北朝鮮の参加でご満悦になっている場合ではない。どの新聞もそのことを指摘していないが、崩壊したロシア・オリンピック委員会の再建に何らかの責任を負う立場として、その手腕が問われている状態だと思う。


まぁ、今回の社説はどの新聞も凡庸だが、ひとつ東京新聞が面白いことを言っている。
韓国で行われた前回の1988年のソウルオリンピックは、「東西の融和」が売りだった。モスクワでは西側諸国がボイコット、ロサンゼルスでは報復として東側諸国がボイコット。アメリカとソ連という二大勢力が奇しくも開催国となり、オリンピックに政治的圧力を持ち込んだ。ソウルオリンピックは、そういう冷戦下の政治的応酬に終止符を打つオリンピックとして位置づけられていた。

一方、ソウルでは物騒な問題も発生した。一番の衝撃は、陸上男子100Mのベン・ジョンソンのドーピング失格だろう。また、2大会ぶりに参加した東欧諸国の女子選手がことごとくインタビューを拒否し、「政治的なしこりが残っているのか」と話題になった。現在では、当時の東欧諸国の選手はほとんどがドーピングに染まっており、女子選手は大量の男性ホルモンを投与されていたため、声を出すとその低さで薬物投与がバレてしまうから、という理由が明らかになっている。旧ソ連(現ロシア)が主導し、メダル獲得を国威発揚に利用するため、東欧諸国のドーピング汚染は各競技に広まっていた。

北朝鮮も騒いでいた。隣国・韓国がオリンピック開催という存在感を国際社会に示すことを妬み、テロ行為を繰り返して妨害した。大韓航空機爆破事件はそういう妨害行為のひとつだ。現在とは北朝鮮をとりまく環境は異なるが、韓国が国際的に認められるとそれを妨害する、という図式は変わっていない。

ソウルオリンピックの30年前と、今回の平昌オリンピックでは、起きている問題が何も変わっていない。「オリンピックの政治利用」「ドーピング」「北朝鮮問題」「ロシア問題」という、ソウルオリンピックではじめて明るみに出たオリンピックの諸問題が、平昌でもそのまま残っている。 同じ韓国開催のオリンピックで、これらの問題が発生し、それがいまだに残っているのは、なんとなく皮肉なものだ。

東京新聞の社説が面白いのは、「今回の問題は、平昌だから起きたことなのか」という視点が入っていることだ。今回のオリンピックの諸問題を、北朝鮮が絡む政治問題を根拠にして「やっぱり韓国はオリンピック開催国としてふさわしくない」と批判することは簡単だ。しかし、現在オリンピックをとりまく問題は、はたして韓国だから、平昌だから起きたことなのか。

これらの例を挙げるだけでも、現在の五輪が曲がり角にきていることは明らかだ。韓国で五輪が開催されるのは三十年前のソウル夏季大会以来。前回は冷戦下で三大会ぶりに東西両陣営が顔をそろえた緊張感の中、陸上男子百メートルで世界記録を出したベン・ジョンソン(カナダ)のドーピング発覚に世界中が揺れた。 

今回は北朝鮮が参加表明し、女子アイスホッケーでは韓国との合同チームを急きょ結成した。選手の気持ちを考えればスポーツの政治介入に反対する声が出るのは当然だが、両国が緊張緩和に向けて前進するかにも関心が集まる。 

あれから五輪は何が変わり、何を変えていかなければならないのか、東京での夏季五輪を二年後に控えた今大会で問いただしたい。
(東京新聞社説) 


各社の社説のなかで、東京新聞だけ「オリンピック全体のあり方を見直す時期なのではないか」という意見を載せている。今回の社説ではどこも言及していないが、アジアで開催されるオリンピックの問題点として、競技時間が早朝や深夜などの不自然な時間に設定されるという問題がある。アメリカやヨーロッパの放送時間に合わせるためだ。そういう事態になっているのは、オリンピックが高度に商業化し、莫大な放送権料がないとオリンピック運営が成り立たなくなっているという現状がある。

今となっては、その懸念が現実のものとなったことが分かっている。女子スノーボード・ハーフパイプでは強風・吹雪の悪天候の中でも運営委員が競技続行を強行し、多くの選手が転倒し負傷した。実績のある実力選手がことごとく失敗し、「本当に実力が反映される競技環境だったのか」という批判が起きている。

運営委員が競技を強行したのは、「アメリカ、ヨーロッパの放送時間中に競技をしなければならないから」という、構造的な問題だ。カネを出してくれている国々の都合がすべて、選手の都合はどうでもいい。そういうオリンピックのあり方が、今回を含めて3大会も続く。東京オリンピックでも同様の問題が起きるだろう。真夏のオリンピックで、灼熱の昼間に競技を強行するような愚を犯しかねない。

問題が発生したときには、それが「当該の個別事象のみで起きたことなのか」と「そもそも全体の問題なのか」を見極める必要がある。僕が見る限り、今回のIOCバッハ会長、韓国の文在寅大統領のオリンピック政治利用は、ともに「オリンピックが商業的に巨大化した」という影響力が背景にあると思う。問題が発生し、それを解決したいと願うのであれば、まず問題の出所を正確につかむことから始めないことには話になるまい。



メダルを穫るよりも、自己ベストを出してほしい。



「金正恩氏の妹 訪韓を説得の機会に」
(2018年2月9日 朝日新聞社説)
きょう開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪にあわせ、北朝鮮が異例の人物の訪韓を伝えた。最高指導者・金正恩(キムジョンウン)氏の妹の金与正(キムヨジョン)氏だ。指導部内での序列や肩書では計り知れない存在で、正恩氏に直言できる唯一の人物とも言われる。開幕直前での衝撃的な通知は、五輪を機に韓国との雪解けを演出し、対外イメージの改善を狙っているのだろう。代表団のほかに、芸術団や、韓国側と合同で声を上げる応援団も続々と到着している。韓国国内の民族意識を高め、韓国と日米との間に風穴を開けたい。そんな思惑も透けて見える。

その背景を踏まえつつ、南北間での高位の対話が実現することは評価したい。むしろ、不毛な緊張状態を改善する意義を悟らせ、正恩氏に直接メッセージを届ける好機ととらえたい。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、与正氏や、対外的な国家元首にあたる金永南(キムヨンナム)氏と、あす会談する予定だ。実現すれば、まずは核兵器の保有を国際社会は決して認めないことを伝えるべきだ。そのうえで、非核化を選べば政治・経済の両面で見返りの利益がもたらされる道筋があることを確認すべきだろう。そうした趣旨は、05年の6者協議での共同声明にも盛られていた。

いまや北朝鮮は核武装を自認しており、当時と状況は同じではない。だが、金政権が何よりも体制維持の保証を米国から得たい実情は変わらない。今回の南北対話を、米朝交渉の実現につなげることが肝要だ。そのためにも文政権は、日米両政府との緊密な意思疎通をしたうえで、与正氏らとの会談に臨んでもらいたい。

北朝鮮の芸術団を乗せた貨客船・万景峰(マンギョンボン)92号は、制裁の特例として入港が認められた。今後も北朝鮮は特例を重ね、制裁を骨抜きにしようとするだろう。しかしそんな北朝鮮特有の術策に、はまってはならない。きのうも平壌では軍事パレードが強行されたのは象徴的だ。五輪を舞台にした南北の人間同士の交流を歓迎するかたわら、文政権は代表団との会談を冷静な思慮をもって進め、繰り返されてきた北朝鮮の挑発的行動を長期的にやめさせるための交渉に徹してほしい。

与正氏の訪韓となれば、日本政府も、何もせずに座視するわけにはいくまい。安倍政権は、日本人拉致問題を最重要課題としながらも、何ら具体的な成果に結びついていない。歓迎行事の際などでも接触を図り、核・ミサイル問題とともに、二国間の懸案を直接訴えるべきだ。



「平昌五輪開幕 「北」の政治宣伝は許されない」
(2018年2月9日 読売新聞社説)
 ◆IOCの対応も公平性を損ねた◆
北朝鮮の脅威が深刻化する中で、平昌冬季五輪が開幕を迎えた。地域の政治情勢が色濃く反映された異質の大会となるのは間違いない。92か国・地域から約2900人の選手が参加する。アジアでの冬季五輪は、1972年札幌、98年長野に続き、3回目だ。韓国での五輪開催は、88年のソウル夏季大会以来となる。2020年東京夏季五輪、22年北京冬季五輪と、東アジアに連続して聖火が灯ともる。

◆軍事パレードは威嚇だ
韓国の文在寅大統領が北朝鮮に対する融和策のカードとして五輪参加を求めた。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が応じたことで、一気に政治色が強まった。核・ミサイル開発を進める北朝鮮は、国際社会から制裁を受けている。五輪を南北融和ムードに染めて、日米韓3か国の連携を切り崩し、制裁網に風穴を開けようとの計算が透けて見える。スポーツ競技は、政治と一線を画すべきである。その基本原則が、ねじ曲げられている。

看過できないのは、北朝鮮が軍事パレードを強行し、大陸間弾道ミサイルまで誇示したことだ。米国などへの威嚇を続けるとの意思表示ではないか。それにもかかわらず、文大統領が「平昌の平和の水流を強固に定着させる」と意気込むのには違和感を禁じ得ない。開会式で、北朝鮮選手は韓国選手と共に、朝鮮半島旗を掲げて合同行進する。アイスホッケー女子には、五輪史上初めて、南北合同チームが出場する。

 ◆「特例」が多すぎる
北朝鮮の応援団や芸術団も送り込まれた。こうした「微笑攻勢」に幻惑されてはなるまい。韓国側は南北政府間協議で妥協を重ねてきた。北朝鮮芸術団を乗せた貨客船「万景峰92号」の韓国入港を例外措置として認めたことは、特に問題である。韓国の独自制裁に抵触する。南北のスキー選手が北朝鮮で合同練習を行った際には、韓国のチャーター機を運航させ、米政府に制裁適用の除外を求めた。

こうした譲歩は、野放図に拡大しかねない。北朝鮮に誤ったシグナルを送ることになる。南北対話に前のめりな文氏の姿勢に対し、国内外で批判的な声が目立つのもうなずける。米国のペンス副大統領は、「北朝鮮の政治宣伝が五輪をハイジャックすることは許さない」と強調した。もっともな指摘だ。開会式には、ペンス氏や安倍首相らが出席し、五輪外交が展開される。北朝鮮への圧力を維持し、核・ミサイル問題を平和的に解決する糸口を探る機会としたい。

北朝鮮は、序列2位の金永南最高人民会議常任委員長を団長とする代表団を派遣する。金正恩氏の妹の金与正氏も同行する。文氏は、北朝鮮側と会談する場合には、核・ミサイル開発の放棄を強く求めねばならない。

「例外措置」で北朝鮮に対応したのは、韓国政府だけではない。国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢も疑問である。IOCが認めた北朝鮮の選手は22人だ。アイスホッケー女子だけでなく、スケート、スキーの計3競技10種目に出場する。このうち、フィギュアスケート・ペアの2人は、自力で出場枠を獲得していたものの、登録期限内に参加を表明していなかった。IOCのバッハ会長は「朝鮮半島の明るい未来を開く扉となることを期待する」と、特例で22人の参加を認めた意義を強調する。

無論、五輪の門戸は広く開かれており、北朝鮮選手の出場を排除すべきではない。ただし、予選を勝ち抜くなど、正当な手順を踏むことが前提となる。北朝鮮選手の特別扱いにより、IOCはスポーツ競技の根幹である公平性を蔑ないがしろにした、と批判されても仕方がない。政治的宣伝の排除をうたった五輪憲章との整合性も問われるのではないか。

 ◆日本選手の活躍に期待
組織的なドーピング違反に問われたロシアに対し、IOCは国としての平昌五輪出場を禁じた。一方で、一定の条件を満たせば、個人参加を認める道を残した。結果として、IOCは169人のロシア選手の出場を承認した。ロシアのダメージは限定的だった。スポーツ大国のロシアと全面的に敵対する事態は避けたいというIOCの思惑がうかがえる。124人の日本選手は「複数の金を含む9個以上のメダル獲得」を目指す。競技に集中し、全力を尽くしてもらいたい。



「平昌冬季五輪きょう開幕 国家間競争超えた祭典に」
(2018年2月9日 毎日新聞社説)
第23回冬季オリンピック大会が韓国・平昌できょう開幕する。92の国・地域から2900人を超す選手が参加する。いずれも過去最多だ。大会直前になって、核開発をめぐり国際的な批判を浴びる北朝鮮が参加を表明した。このため政治色の濃い大会となった。30年前のソウル五輪で北朝鮮は大韓航空機爆破事件まで起こして妨害を図った。今度は自国の参加を駆け引きの材料に使ったといえる。

北朝鮮の参加を歓迎する韓国・文在寅(ムンジェイン)政権は、アイスホッケー女子の南北合同チーム結成など融和姿勢をアピールしている。だが、北朝鮮は開幕前日に軍事パレードを行うなど平和への意思は感じられない。北朝鮮の狙いは結局、文政権に南北融和への期待を抱かせ、日米との距離を広げることだろう。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は北朝鮮の参加について「平和的な対話の扉を開いた」と強調する。ただ、露骨な駆け引きが横行すれば平和の実現に貢献する「五輪精神」が色あせてしまう。IOCや韓国政府には、五輪が北朝鮮を利する足場に使われぬよう開会中も十分な配慮を求めたい。

スポーツの公正・公平さへの信頼が揺らぐ中での大会でもある。組織的なドーピングがあったと認定されたロシアは国家としての参加が禁じられた。ドーピングが理由の選手団除外は五輪史上初めてだ。8年前のバンクーバー五輪で、当時のロゲIOC会長は選手に「責任のない栄光はない。ドーピングと不正を拒もう」と訴えた。スポーツの価値を根幹から損ねるドーピングを封じ込めなければならない。

巨大イベントと化した五輪は、メダルの数によって国の強さが誇示され、国威が発揚される場となった。しかし、五輪憲章では大会を「選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と位置づける。

南太平洋のトンガからは初のスキー代表が出場する。1年前に始めたばかりで、国外遠征費はインターネットで募った。メダル争いだけが感動を呼ぶものではない。冬季五輪は「技と美の競演」だ。過去最多の102種目で、その表現にふさわしい大会となることを期待したい。



「政治色のない平和の祭典に」
(2018年2月9日 日本経済新聞社説)
韓国・平昌冬季五輪がきょう開幕する。平和なスポーツの祭典のつつがない運営と、極限に挑む世界のトップアスリートたちの活躍に期待したい。韓国では1988年のソウル夏季五輪以来、30年ぶりの五輪開催となる。冬季五輪では史上最多となる92カ国・地域から3千人近い選手が出場するという。

朝鮮半島は北朝鮮による核・ミサイルの挑発で緊張状態にあり、当初は懸念の声も出ていた。ところが北朝鮮は年初になって突如、五輪に選手団を派遣すると表明。韓国も歓迎し、南北間で参加準備がとんとん拍子で進んだ。それだけではない。開会式の南北の合同入場行進、アイスホッケー女子の南北合同チーム結成などが決まり、韓国は北朝鮮による芸術団や応援団の派遣も認めた。

もちろん、北朝鮮選手団の参加は歓迎すべきだし、南北の融和が安全で平和な五輪運営に寄与する面は否定できないだろう。だが、北朝鮮が五輪を使って国際的な孤立や制裁圧力をかわそうとしているとの疑念は拭えない。南北スキー選手の合同練習に伴う韓国チャーター機の北朝鮮入り、芸術団を乗せた北朝鮮貨客船の韓国入港など、一連の制裁に抵触しかねない事例も相次いでいる。

北朝鮮は五輪直前の8日、朝鮮人民軍創建70年を記念する大規模な軍事パレードを強行した。核・ミサイル開発で譲歩する意思がないのは明らかだ。韓国の文在寅政権は南北融和に躍起だが、制裁圧力を強める国際社会の足並みを乱すべきではない。ましてや五輪の政治利用は厳に慎むべきだ。

一方、平昌五輪にはドーピング問題で国家選手団の参加が禁じられたロシアの選手たちが個人参加する。「ロシア出身の五輪選手」とし、金メダルを獲得しても国旗の掲揚や国歌の演奏はない。ロシアへの厳しい措置は、クリーンで公正な五輪をめざすうえで当然だろう。ロシアからの選手もドーピング根絶に向け、真摯な態度で競技に臨んでもらいたい。



「平昌五輪開幕 異形の大会に誰がしたか」
(2018年2月10日 産経新聞社説)
平昌冬季五輪が開幕した。だが本来、わくわくと胸躍るはずの日に接する現地発のニュースは、スポーツと縁遠いものばかりが目立つ。異形の大会としたのは誰か。

まず、政治宣伝の場として大会を揺さぶり続ける北朝鮮である。開会式に米国や国連安保理が制裁対象とする金正恩・朝鮮労働党委員長の妹、金与正(ヨジョン)氏や崔輝(チェフィ)・国家体育指導委員長を送り込み、芸術団や応援団の女性が注目を集める。前日には平壌市内で大規模な軍事パレードを行った。米本土を狙う複数の大陸間弾道ミサイル「火星14」「火星15」が広場を移動する様は、国際社会への明白な威嚇である。

拳銃を突きつけながら握手を求めるがごとき北朝鮮の傍若無人に、諾々と譲歩を続けているのが韓国政府である。日米との離間の計にはまり、核・ミサイル・拉致問題に何ら解決への道が示されぬまま北朝鮮に宣伝の場を与え、どこが「平和の祭典」か。

競技のルールまで変えて特例で北朝鮮を受け入れた国際オリンピック委員会(IOC)の責任も大きい。大会直前の合同チームの結成で出場機会を奪われる韓国女子アイスホッケーの代表選手こそ、その被害者である。

4年前のソチ五輪では、大会直後にロシアがウクライナ南部のクリミアに侵攻した。その大会で国家ぐるみのドーピングを行ったロシアは平昌五輪・パラリンピックに自国選手団を送ることができない。ロシアが国の関与を認めない限り、2年後の東京五輪でも同様の措置が続く。

ナチスの宣伝の場と化したベルリン大会、ボイコットの応酬となったモスクワ、ロサンゼルス両大会など、五輪には政治に翻弄され続けた歴史がある。それでも五輪は純粋なスポーツの国際競技大会であり、主役は選手であるという理想を捨ててはならない。なんとかその実現を、東京でみたい。

平昌五輪の政治的混乱は目に余るが、参加選手らに責任はない。日本の選手団には、スピードスケート、フィギュアスケート、スキージャンプ、複合、スノーボードなどに活躍が楽しみな選手が数多い。日本選手のみならず、競技に力を尽くす勝者にも、敗者にも、存分に拍手を送りたい。



「平昌五輪開幕 汚れなき舞台であれ」
(2018年2月9日 東京新聞社説)
平昌冬季五輪が九日に開幕する。膨れあがる経費、環境破壊、ドーピング問題、政治介入などで曲がり角にきたとされる五輪で、スポーツの原点に立ち戻る大会となってほしい。白銀の世界で躍動する選手たちを美しい映像とフランシス・レイの音楽で包みこんだ仏映画「白い恋人たち」は、一九六八年のグルノーブル冬季五輪を記録したものだった。日本でもヒットし、七二年札幌大会の成功につながった。

しかし近年の冬季五輪は、当時とは様相が異なる。八四年ロサンゼルス夏季大会から商業化の道に進んだ五輪は協賛スポンサーなどが絡んで巨額のスポーツマネーが動き、勝利至上主義が横行。それとともにドーピングに手を染める選手が増大した。

二〇一四年ソチ冬季大会では、ロシアが組織ぐるみでドーピング不正を行っていたことが発覚。背景には五輪を国威発揚の手段とするプーチン大統領の意向があったとされ、国際オリンピック委員会(IOC)はロシアが平昌大会に国として参加することを禁止し、潔白を証明できた選手に限って国旗や国歌を使わない個人資格での参加を認めた。  

開催地に関しては氷点下二〇度に達する平昌の屋外スタジアムで開会式を行うことに選手からも非難の声が上がり、二千人以上のボランティアが待遇の悪さを理由に離脱した。今後の開催地をめぐっても、財政や環境破壊への懸念などから立候補を断念する都市が相次ぎ、IOCは頭を痛めている。

これらの例を挙げるだけでも、現在の五輪が曲がり角にきていることは明らかだ。韓国で五輪が開催されるのは三十年前のソウル夏季大会以来。前回は冷戦下で三大会ぶりに東西両陣営が顔をそろえた緊張感の中、陸上男子百メートルで世界記録を出したベン・ジョンソン(カナダ)のドーピング発覚に世界中が揺れた。

今回は北朝鮮が参加表明し、女子アイスホッケーでは韓国との合同チームを急きょ結成した。選手の気持ちを考えればスポーツの政治介入に反対する声が出るのは当然だが、両国が緊張緩和に向けて前進するかにも関心が集まる。

あれから五輪は何が変わり、何を変えていかなければならないのか、東京での夏季五輪を二年後に控えた今大会で問いただしたい。願うのは汚れなき舞台で「白い恋人たち」が美しく輝く姿である。