ラグビーW杯2015 準決勝第1試合
NZ 20ー18 南アフリカ
準決勝の第一試合は、NZが2点差で逃げ切り、決勝進出を決めた。
これでNZは、ワールドカップでの連勝記録を13に伸ばし、史上初の2連覇に王手をかけた。
まず何よりも、日本代表がこの南アフリカ代表に勝てた、という事実を誇るべきだろう。日本に負けたとは思えないような強いフィジカルと高いスキルで、終止NZを圧倒した。負けはしたが、南アフリカは優勝候補の呼び声に恥じない戦いを見せた。
ギリギリの攻防戦だったが、試合の勝敗を分けた要素はふたつあった。
「バックスリー」と「天候」だろう。
南アフリカは徹底的にディフェンスを強化する策に出た。NZは外に展開されたら手が付けられないので、可能な限り内側で止める。地域に関係なくBKのディフェンスラインを上げ、詰めで止める。
その策がよく見えるのが、南アのハーフバックスのキックの蹴り方だろう。自陣22Mより内側でも、タッチキックを出さない。敢えてノータッチのハイパントを上げ、一旦イーブンボールにしてから競り合うほうを選んだ。
その意図はふたつあったと思う。ひとつはディフェンスの必然性。スクラムと違って、ラインアウトはBKラインが10M下がらなくてはならない。すると敵味方のBKラインの間は20M空くことになる。この20Mの間隔によって、外展開につながるBK攻撃のサインプレーの自由度が高まる。南アフリカは、NZのラインアウトからのサインプレーを警戒して、NZボールのラインアウトを、可能な限り減らしていた。
もうひとつは、NZバックスリーのキック処理のまずさを突いたものだろう。特に、右WTBのミルナースカッダーは、ことごとくハイパントの競り合いに負けた。ミルナースカッダーは、狭い地域をすり抜けていく走力には特筆すべきものがあるが、キック処理をはじめとするディフェンスに難がある。南アSHのデュプレア、SOのポラードは、最初の数回のハイパントでミルナースカッダーのキック処理のまずさを見て、「いける」と思ったのだろう。
一方のNZは、強力な南アのディフェンスに苦しんだ。最小人数のタックルで止め、かつボールに絡んで楽に出させない。今回の試合を通して、NZはラックからの球出しが非常に遅かった。ラックというのは相手のディフェンスを巻き込んで人数を減らし、数的優位をつくるためのものだから、時間をかけたら意味がない。相手にディフェンスラインを整える時間を与えてしまう。ところが今回のNZはラックからの球出しに、かなりもたついた。これはNZの側の問題ではなく、南アのディフェンスがボールをしっかり殺し、速やかな球出しを防いでいたからだろう。
その結果、NZは攻撃のフェイズを何次重ねても、南アのディフェンス枚数を減らせない、という循環に陥った。いつものNZの攻撃とは違い、全然外側が余らない。集中力の高い南アの守備の前に、NZの攻撃はリズムを失い、反則を重ねてPGでの失点を重ねた。これらはすべて、南アの「徹底的にディフェンスを固める」という基本方針によってもたらされた連鎖だ。南アは、日本戦の敗北から、大きなものを学んだと見える。
ボールを廻しても廻しても人数が余らないNZは、敵陣であってもグラバーキックで裏を狙うしか策がなかった。苦し紛れの策に見えるが、実はこれがなかなか効果があった。南アのディフェンスは詰めなので、自陣深くでのディフェンスではWTBもラインディフェンスに上がる。すると後ろの守備がFBの1枚になるので、キックで陣地を稼ぎやすい。南アのWTBは、ラインディフェンスのために上がり、キック処理のために下がり、かなりの運動量を要求されることになった。
また、NZがBKラインでボールをワイドに展開せず、安易にキックで距離を稼いでいた理由にはもうひとつ、天候があったと思う。試合前から天気予報は雨で、試合中盤から強い雨が降ることが予想されていた。南アとの戦いはいつも消耗戦になるので、試合終盤には疲労でハンドリングの精度が落ちる。ましてやそこに雨が降ればボールが滑るのでなおさらだろう。そこでNZは試合序盤から、グラバーキックを転がしてキャッチからのトライ、という「練習」をしていたように見える。
南アの攻撃は、ハイパントがよく効いていた。南アのバックスリー、ピーターセンとハバナの両WTBと、FBのルルーがよくボールを確保した。一方NZのバックスリーは、FBのベン・スミスはよく捕っていたが、いかんせんミルナースカッダーが全然取れない。試合前半では、ハイパントの応酬によって南アが効果的に陣地を稼ぎ、攻撃のリズムが良かった。
ところが、南アはそのバックスリー自身の手によって、自ら試合のリズムを失ってしまう。 戦犯は、左WTBのブライアン・ハバナだ。
ハバナは、この試合に自身のワールドカップ最多トライ記録更新がかかっていた。準決勝という舞台、相手がNZ、トライ記録、と様々な要因が重なり、漲る闘志は相当のものだっただろう。そして、その闘志を統御することに失敗した。
前半9分、NZはFLカイノがトライを奪う。その後のコンバージョンで、SOダン・カーターがキックモーションを起こす前に、なぜかハバナが飛び出してキックチャージをかけようとした。ここでは単にキックの蹴り直しになっただけだったが、意図的な試合遅延行為としてシンビンが適用されてもおかしくない場面だった。
この後も、ハバナは焦りからか闘志が空回りしたのか、幾度もオフサイドを繰り返した。必ずオフサイドラインよりも1, 2歩だけ前にポジションを取る。試合後半ではハバナは主審に睨まれ、何度もプレーの流れの中で「下がりなさい」と注意を受けている。冷静さを欠いたハバナは、試合中に修正することができなくなり、最後には、ボールをはたき落とす、故意のノックオンによってシンビンを取られた。審判にしてみれば「いい加減にしろ」という措置だっただろう。ハバナは、気合が間違った方向に出てしまった。
南アは、ハバナの無用なキックチャージ、余計なオフサイド、悪質な故意のノックオンによって、せっかくFWが奮闘して掴みかけた試合の流れを失ってしまう。一方、NZのほうがBKを効果的に交代し、途中交代したCTBソニービル・ウィリアムスが良いペネトレイトを見せ、交代WTBのバレットがとどめのトライを奪った。バックスリーによってリズムを失った南アと、バックスリーによってゲームの主導権を取り返したNZの、差が試合の最後に出てしまった。
FW戦の主導権は、試合を通してほとんど南アが握っていた。展開力のあるNZのFWに対するハードタックルは、消耗が激しい。もちろん南アはそのことも織り込み済みで、体力をフレッシュに保つために、試合後半でタイトファイブを総取っ替えする。
しかし、この交代したFWが全然機能しなかった。南アのFWの選手交代は、NZが鬼のように強くなる「最後の10分間」に備えたものだ。しかし、試合を通してずっと優勢だった南アFW陣は、最後の10分になって突然崩れだす。スクラム、モール、ラインアウト、すべてにわたってNZに逆に支配された。
ラグビーに限らず、バスケットボールやサッカーでも、途中交代した選手が5分ほどプレーしただけでスタミナ切れしてしまうことがある。端的に言うとウォーミングアップの失敗だが、この試合に関しては、試合中に急激に低下した気温が原因だったと思う。ウォーミングアップ後、試合に入るまでに時間が開いてしまい、その間に体が冷えてしまったのだろう。
試合後半の選手交代を見ると、南アは後半15分から25分までの間に、6人の選手を替えている。のこり15分を見据えての選手交代は、普通の状況であれば妥当な策だっただろう。
一方、NZのほうは、後半25分を過ぎてからようやくFWを3人替えている。そのうち2人はフロントローだ。選手の消耗度合いと天候を考え、交代選手がスタミナ切れする前に試合が終わるよう、ギリギリまで交代のタイミングを遅らせている。
つまり南アは、選手交代をするのが早すぎたのだ。試合にスムースに入れず、低温により体力を奪われ、最後の10分間にNZが怒濤の攻勢をかけた時に、体力が残っていなかった。ベンチワークまで含めて、NZが80分をトータルでうまく使う技術に秀でていただろう。
これでNZは、2大会続けて決勝進出を決めた。今回の試合は、南アのディフェンスの健闘が光り、傍目に見ると、従来のような「NZらしい強さ」が見られなかった試合に見える。しかし、この6年間にわたり世界ランキング1位を一度も譲っていないNZの本当の強さは、このような膠着状況の試合に陥った時にでも、総合力で勝ちを拾う、「ギリギリのせめぎ合い」にある。試合は2点差で決着がついたが、この2点をきっちり確保するのがNZの本当の強さなのだ。決勝戦はどのみちミスが命取りになる僅差の試合になるだろう。そういうときにこそ、精神力やベンチワークを含めた、総合力の戦いになる。決勝戦の戦いには、そういう点にも注目して見てみたい。
なんだかんだでトライもきっちり2本取ってるし