たくろふのつぶやき

お鍋には熱燗をつけてくれたまへ。

2015年10月

NZ南ア



ラグビーW杯2015 準決勝第1試合
NZ 20ー18 南アフリカ


準決勝の第一試合は、NZが2点差で逃げ切り、決勝進出を決めた。
これでNZは、ワールドカップでの連勝記録を13に伸ばし、史上初の2連覇に王手をかけた。

まず何よりも、日本代表がこの南アフリカ代表に勝てた、という事実を誇るべきだろう。日本に負けたとは思えないような強いフィジカルと高いスキルで、終止NZを圧倒した。負けはしたが、南アフリカは優勝候補の呼び声に恥じない戦いを見せた。


ギリギリの攻防戦だったが、試合の勝敗を分けた要素はふたつあった。
「バックスリー」と「天候」だろう。


南アフリカは徹底的にディフェンスを強化する策に出た。NZは外に展開されたら手が付けられないので、可能な限り内側で止める。地域に関係なくBKのディフェンスラインを上げ、詰めで止める。
その策がよく見えるのが、南アのハーフバックスのキックの蹴り方だろう。自陣22Mより内側でも、タッチキックを出さない。敢えてノータッチのハイパントを上げ、一旦イーブンボールにしてから競り合うほうを選んだ。

その意図はふたつあったと思う。ひとつはディフェンスの必然性。スクラムと違って、ラインアウトはBKラインが10M下がらなくてはならない。すると敵味方のBKラインの間は20M空くことになる。この20Mの間隔によって、外展開につながるBK攻撃のサインプレーの自由度が高まる。南アフリカは、NZのラインアウトからのサインプレーを警戒して、NZボールのラインアウトを、可能な限り減らしていた。

もうひとつは、NZバックスリーのキック処理のまずさを突いたものだろう。特に、右WTBのミルナースカッダーは、ことごとくハイパントの競り合いに負けた。ミルナースカッダーは、狭い地域をすり抜けていく走力には特筆すべきものがあるが、キック処理をはじめとするディフェンスに難がある。南アSHのデュプレア、SOのポラードは、最初の数回のハイパントでミルナースカッダーのキック処理のまずさを見て、「いける」と思ったのだろう。

一方のNZは、強力な南アのディフェンスに苦しんだ。最小人数のタックルで止め、かつボールに絡んで楽に出させない。今回の試合を通して、NZはラックからの球出しが非常に遅かった。ラックというのは相手のディフェンスを巻き込んで人数を減らし、数的優位をつくるためのものだから、時間をかけたら意味がない。相手にディフェンスラインを整える時間を与えてしまう。ところが今回のNZはラックからの球出しに、かなりもたついた。これはNZの側の問題ではなく、南アのディフェンスがボールをしっかり殺し、速やかな球出しを防いでいたからだろう。

その結果、NZは攻撃のフェイズを何次重ねても、南アのディフェンス枚数を減らせない、という循環に陥った。いつものNZの攻撃とは違い、全然外側が余らない。集中力の高い南アの守備の前に、NZの攻撃はリズムを失い、反則を重ねてPGでの失点を重ねた。これらはすべて、南アの「徹底的にディフェンスを固める」という基本方針によってもたらされた連鎖だ。南アは、日本戦の敗北から、大きなものを学んだと見える。

ボールを廻しても廻しても人数が余らないNZは、敵陣であってもグラバーキックで裏を狙うしか策がなかった。苦し紛れの策に見えるが、実はこれがなかなか効果があった。南アのディフェンスは詰めなので、自陣深くでのディフェンスではWTBもラインディフェンスに上がる。すると後ろの守備がFBの1枚になるので、キックで陣地を稼ぎやすい。南アのWTBは、ラインディフェンスのために上がり、キック処理のために下がり、かなりの運動量を要求されることになった。

また、NZがBKラインでボールをワイドに展開せず、安易にキックで距離を稼いでいた理由にはもうひとつ、天候があったと思う。試合前から天気予報は雨で、試合中盤から強い雨が降ることが予想されていた。南アとの戦いはいつも消耗戦になるので、試合終盤には疲労でハンドリングの精度が落ちる。ましてやそこに雨が降ればボールが滑るのでなおさらだろう。そこでNZは試合序盤から、グラバーキックを転がしてキャッチからのトライ、という「練習」をしていたように見える。

南アの攻撃は、ハイパントがよく効いていた。南アのバックスリー、ピーターセンとハバナの両WTBと、FBのルルーがよくボールを確保した。一方NZのバックスリーは、FBのベン・スミスはよく捕っていたが、いかんせんミルナースカッダーが全然取れない。試合前半では、ハイパントの応酬によって南アが効果的に陣地を稼ぎ、攻撃のリズムが良かった。

ところが、南アはそのバックスリー自身の手によって、自ら試合のリズムを失ってしまう。 戦犯は、左WTBのブライアン・ハバナだ。
ハバナは、この試合に自身のワールドカップ最多トライ記録更新がかかっていた。準決勝という舞台、相手がNZ、トライ記録、と様々な要因が重なり、漲る闘志は相当のものだっただろう。そして、その闘志を統御することに失敗した。

前半9分、NZはFLカイノがトライを奪う。その後のコンバージョンで、SOダン・カーターがキックモーションを起こす前に、なぜかハバナが飛び出してキックチャージをかけようとした。ここでは単にキックの蹴り直しになっただけだったが、意図的な試合遅延行為としてシンビンが適用されてもおかしくない場面だった。

この後も、ハバナは焦りからか闘志が空回りしたのか、幾度もオフサイドを繰り返した。必ずオフサイドラインよりも1, 2歩だけ前にポジションを取る。試合後半ではハバナは主審に睨まれ、何度もプレーの流れの中で「下がりなさい」と注意を受けている。冷静さを欠いたハバナは、試合中に修正することができなくなり、最後には、ボールをはたき落とす、故意のノックオンによってシンビンを取られた。審判にしてみれば「いい加減にしろ」という措置だっただろう。ハバナは、気合が間違った方向に出てしまった。

南アは、ハバナの無用なキックチャージ、余計なオフサイド、悪質な故意のノックオンによって、せっかくFWが奮闘して掴みかけた試合の流れを失ってしまう。一方、NZのほうがBKを効果的に交代し、途中交代したCTBソニービル・ウィリアムスが良いペネトレイトを見せ、交代WTBのバレットがとどめのトライを奪った。バックスリーによってリズムを失った南アと、バックスリーによってゲームの主導権を取り返したNZの、差が試合の最後に出てしまった。

FW戦の主導権は、試合を通してほとんど南アが握っていた。展開力のあるNZのFWに対するハードタックルは、消耗が激しい。もちろん南アはそのことも織り込み済みで、体力をフレッシュに保つために、試合後半でタイトファイブを総取っ替えする。
しかし、この交代したFWが全然機能しなかった。南アのFWの選手交代は、NZが鬼のように強くなる「最後の10分間」に備えたものだ。しかし、試合を通してずっと優勢だった南アFW陣は、最後の10分になって突然崩れだす。スクラム、モール、ラインアウト、すべてにわたってNZに逆に支配された。

ラグビーに限らず、バスケットボールやサッカーでも、途中交代した選手が5分ほどプレーしただけでスタミナ切れしてしまうことがある。端的に言うとウォーミングアップの失敗だが、この試合に関しては、試合中に急激に低下した気温が原因だったと思う。ウォーミングアップ後、試合に入るまでに時間が開いてしまい、その間に体が冷えてしまったのだろう。

試合後半の選手交代を見ると、南アは後半15分から25分までの間に、6人の選手を替えている。のこり15分を見据えての選手交代は、普通の状況であれば妥当な策だっただろう。
一方、NZのほうは、後半25分を過ぎてからようやくFWを3人替えている。そのうち2人はフロントローだ。選手の消耗度合いと天候を考え、交代選手がスタミナ切れする前に試合が終わるよう、ギリギリまで交代のタイミングを遅らせている。

つまり南アは、選手交代をするのが早すぎたのだ。試合にスムースに入れず、低温により体力を奪われ、最後の10分間にNZが怒濤の攻勢をかけた時に、体力が残っていなかった。ベンチワークまで含めて、NZが80分をトータルでうまく使う技術に秀でていただろう。


これでNZは、2大会続けて決勝進出を決めた。今回の試合は、南アのディフェンスの健闘が光り、傍目に見ると、従来のような「NZらしい強さ」が見られなかった試合に見える。しかし、この6年間にわたり世界ランキング1位を一度も譲っていないNZの本当の強さは、このような膠着状況の試合に陥った時にでも、総合力で勝ちを拾う、「ギリギリのせめぎ合い」にある。試合は2点差で決着がついたが、この2点をきっちり確保するのがNZの本当の強さなのだ。決勝戦はどのみちミスが命取りになる僅差の試合になるだろう。そういうときにこそ、精神力やベンチワークを含めた、総合力の戦いになる。決勝戦の戦いには、そういう点にも注目して見てみたい。



なんだかんだでトライもきっちり2本取ってるし

アルゼンチンーアイルランド


アルゼンチン 43ー20 アイルランド


アルゼンチンの完勝。序盤に連続トライで試合の主導権を握ると、強みのタックルと密集戦を完全に制し、アイルランドに付け入る隙を与えなかった。 今大会のアルゼンチンは、本当に強い。

大会前の展望の段階では、アイルランドが優位という予想が多かった。アイルランドはシックスネイションズを2連覇し、北半球の覇者として本大会に臨んだ。世界ランキングも過去最高の2位に上がり、優勝候補に推す声も多かった。

直接の原因は怪我人の続出だろう。予選プールの4試合で、キャプテンのLOポール・オコンネルが離脱。司令塔でスーパーブーツのSOジョニー・セクストンが足の負傷。アイルランドは決勝トーナメント前にFW、BK両方の核を失った。さらにFLピーター・オマホニーとCTBジャレッド・ペインも怪我で欠場。ハードタックルでアイルランドを鼓舞してきたFLショーン・オブライエンは、予選プール最終戦でラフプレーにより出場停止。主力がことごとく離脱する状況でこの試合を迎えた。

しかし、状況はアルゼンチンにも公平だったのだ。アルゼンチンはFWを縦に突っ込ませる強行策が生命線なので、消耗が激しい。目立った怪我人はいないものの、各プレーヤーの消耗度は他チームよりも激しいだろう。そんなチームをマネジメントするため、アルゼンチンは予選プールから意図的な戦術的交代を効果的に行っていた。FWを酷使せず、消耗しない段階で積極的に交代し、チーム全体の戦力を慎重に温存する。

そのアルゼンチンのチームマネジメントは、予選プール初戦でNZと戦うことができた幸運にもよるだろう。優勝候補のNZに善戦し、一時はリードも奪った。しかし試合巧者のNZの戦術によってFW陣を消耗させられ、試合最後の15分で差をつけられた。アルゼンチンは本気でNZに勝ちにいったため、スタメンのFWをできるだけ長くプレーさせてしまったのが、結果として敗因になった。その結果、疲労度が増し、選手交代が後手に回り、80分をトータルで戦いその隙を狙っていたNZに一蹴された。積極的な選手交代でチーム全体の戦力を保ち、南アフリカに逆転勝ちした日本とは、真逆のマネジメントだったと言える。

この敗戦の後から、アルゼンチンの戦術的交代が積極的になった。大一番であるNZが早々に終わり、余裕が出たこともあるだろう。それ以後の試合では、いたずらに選手を消耗させることなく、高いコンディションを保ったまま心身共に充実してアイルランド戦を迎えることができた。

要するに、アルゼンチンの優位は、監督の技量の差によるところが大きいだろう。スタメンと控え選手の戦力差が不利に働かないように、常にセカンドチョイス、サードチョイスを用意する。W杯のような長丁場では、スタメン15人の戦力だけで戦い抜くのは不可能だ。チーム全体の戦力を均し、誰が出ても戦術を実効できる状態に仕上げなくてはならない。それが如実に差となって現れた。

アイルランドのBK陣は、傍から見ててもSOセクストンが抜けたら一大事、というのが明らかだった。セクストンが負傷離脱した後のことを、まるで考えていない。また主力が続々と抜けたアイルランドFW陣は、戦意の低下が明らかだった。ブレイクダウンの攻防戦を失った数々の局面は、技術云々ではなく、FW陣を支えるリーダーが不在だったことが大きく響いていたように見える。

アルゼンチンは、そのことを事前の分析として掴んでいただろう。試合開始と同時にラッシュをかけ、トライを連取した。アイルランドの弱点を付き、うまい試合の入り方ができていた。
またアルゼンチンはNZ戦敗北の教訓から、戦術的選手交代によってスタミナを維持し、80分を全力で戦い切った。

FWの強さばかりに焦点があたるアルゼンチンだが、この試合ではバックスリーの貢献度が高かった。FW戦で押されたアイルランドは、必然的に自陣からのキックが多くなる。いつものSOセクストンが得意とする攻撃的なキックではなく、密集戦から逃げるためのキックだ。アルゼンチンのバックスリーはそれを十分に把握しており、上がりと下がりの見極め加減が見事だった。TVの実況ではあまり写っていないが、どんなに外展開で攻撃に上がっても、フェイズを積み重ねてアイルランドが蹴ったときには、必ず深く下がってキックに備えている。怠けず勤勉に上がり下がりする運動量は相当なものだ。

守備の安定は、攻撃の躍動感に直結する。アイルランドのキック攻撃を完封したアルゼンチンBK陣は、自信をもって外展開を使った。この試合ではWTBフアン・イモフが2トライを挙げている。これでイモフは大会5トライめを挙げ、アルゼンチン記録を更新している。FW戦を中心に戦うアルゼンチンで、WTBがこれだけ活躍するのは珍しい。

試合の内容以前に、アルゼンチンは試合に至るまでのチームマネジメントに成功した。スタメンにベストメンバーを揃えられた時点で、アルゼンチンの勝ちだ。アイルランドだけでなく、ウェールズもイングランドも、同様の理由で敗退することが多い。決勝トーナメント以降の試合を勝ち抜くためには、選手ひとりひとりのフィットネス以前に、監督の技量が必要であることを示す試合だった。




バカ主審


オーストラリア 35ー34 スコットランド


スコットランドが、オーストラリア・ワラビーズを追いつめた。オーストラリアが得点しても得点しても、しぶとく食いつき得点差を離さない。後半のこり5分で、とうとうトライとコンバージョンで逆転に成功した。しかしその4分後、のこり1分の場面でオーストラリアにペナルティーを与える「疑惑の判定」でPGを決められ、再逆転を許した。オーストラリアの薄氷の勝利だった。

試合後、ワールドラグビーは最後のペナルティーについて、クレイグ・ジュベール主審の誤審を認めた。問題のペナルティーは、スコットランドのジョン・ウェルシュのノックオンオフサイドだった。味方がノックオンしたボールを、オフサイドの位置にいるプレーヤーが確保する反則だ。ノックオンは相手ボールスクラムになるが、ノックオンオフサイドはペナルティーになるため、反則の罪が重い。

ところがビデオで確認すると、スコットランドがノックオンしたボールは、オーストラリアのニック・フィップスに弾かれていた。オーストラリア側がボールに触った時点で、オフサイドは解消される。負けている状況と残り時間から考えて、オーストラリアがスクラムに持ち込む可能性は低かっただろう。アドバンテージを活かして、トライを取りにいったと思う。主審はもし笛を吹くなら、ノックオンの反則だけをとり、オーストラリアボールでのスクラムにするべきだった。

このプレイでは、主審はTMO(ビデオ映像確認)を行っていない。TMOはやたらと行ってよいものではなく、使える状況に制限がある。現行のルールでは、トライをとったかどうかの判断と、危険なプレーに対する確認にしか使えないことになっている。プレイのたびにTMOを使っては試合がしょっちゅう止まるので、そういう制限はやむを得ない面もある。

しかし、今回のように試合の趨勢を大きく分けるような場面では、例外的に主審の裁量に委ねる余地を残しておかなければならないのではないか。ルールというのは、円滑なゲーム運営と安全確保のためにある。試合のためにルールがあるのであって、ルールのために試合があるのではない。今回のように、誤審を防ぐに十分な設備がありながら、ルールがそれを使うことを妨げ、誤審によって試合結果が間違ってしまうというのは、本末転倒だ。

スコットランドは予選リーグでのチームマネジメントが成功し、ベストメンバーで準々決勝に臨んだ。体力、気力ともに十分に充実していただろう。キャプテンのSHグレイグ・レイドロー、SOフィン・ラッセルのハーフバックスは、地力で勝るオーストラリア相手によくゲームを組み立てた。リッチーとジョニーのグレイ兄弟が軸になるFW陣もよくオーストラリアの猛攻に耐え、スクラムでもラインアウトでも互角に戦った。予選プールから通して、今大会のスコットランドのベストパフォーマンスだったと思う。

一方のオーストラリアの側は、ごっつぁん誤審によって紙一重で勝利をつかんだものの、試合内容は決して褒められるものではなかった。特に、時間配分によって流れを失うゲームの組み立てが良くない。オーストラリアは終止優勢に試合を進め、62%の時間を敵陣でプレイした。最後の10分を勝負所とみて一気に攻勢をかけたスコットランドに押され、最後の10分に限っては7割の時間を自陣内に押し込まれている。ボール確保率も3割ほどに過ぎず、ほぼスコットランドにボールを支配された。のこり5分でのスコットランドのトライは、偶然でもまぐれでもなく、スコットランドがその時間に溜めた力を一気に出すタイムマネジメントの賜物だった。ゲームの組み立て方としては、スコットランドのハーフバックスに軍配が上がっていただろう。

この誤審によって、仮に今大会でオーストラリアが優勝したとしても、「あの誤審によって、本来負けるべき試合を勝ち上がった」という評価が必ずついてまわる。クレイグ・ジュベール主審の誤審は、スコットランドだけでなく、オーストラリアにも害を与えるものだ。誤審というものは、そういうものなのだ。勝者にも敗者にも等しく被害をもたらす。しかも、不可避な誤審ではなく、防ごうと思えば防げるものを、ルールによって自縄自縛となった誤審であるため、主審本人だけでなくワールドラグビー側にも原因がある。

テストマッチならいざ知らず、ワールドカップの、しかも決勝トーナメントの大事な局面で、このような無様な結果となった。スコットランドはFWで押し切る気合のこもった試合を見せてくれた。今大会絶好調のアルゼンチンとの真剣勝負を見てみたかった気がする。



せっかくの熱戦に水を差された気分。

ラグビーW杯は決勝トーナメントに進み、ノックアウトステージの一発勝負になった。その緒戦2試合。
ともに、チームのキーマンとなるSOの交代が勝負の流れを大きく分ける試合となった。



南ア ウェールズ


南アフリカ 23ー19 ウェールズ


混戦に次ぐ混戦、相手を凌ぎ合い、リードを奪い合うシーソーゲーム。とても見応えのある試合だった。ウェールズは、勝てた試合だったと思うが、もう一歩のところで南アの豊富な試合経験の前に屈した。怪我人が続出しながら一切弱音を吐かず、イングランドを破った時の固いディフェンスで南アの怒濤の攻撃を防いだ気力が報われなかった。

決勝トーナメントくらいの段階になると、一発抜けてトライという展開はほぼ望めない。だから自陣で反則をしたときのPGが命取りになる。この試合も、序盤は反則からのPGの応酬だった。
両キッカーの技量はほぼ互角。南アSOのハンドレ・ポラード、ウェールズSOのダン・ビガーは、ともに今大会屈指のキッカー。正確無比なキックで、緊張感のある試合を演出した。

どちらかというとキックはウェールズのダン・ビガーのほうに分があったと思うが、与えたペナルティーはウェールズのほうが多かった。ブレイクダウンの反応と人数が、どうしても南アのほうが若干高い。幾度もターンオーバーを奪い、ウェールズは攻めても攻めてもボールを取り返される。

FW戦はもともとウェールズの弱点で、イングランドに勝ったときもスクラムやブレイクダウンはことごとくイングランドに押されていた。ウェールズの強みは機動力とスピードのあるBKなので、最初から後ろを走らせてワイドに外展開をして南アFW陣を走らせるゲームプランのほうが適切だったと思う。

しかしウェールズは戦術を変更することなく、中盤の地域でも縦突破でFW戦を仕掛ける南アに、真っ正面からぶつかった。なんとなく、敵の戦術におつきあいしてしまった印象だ。試合終盤、疲労して足がつっている選手は、むしろ南アのほうが多かった。ウェールズは自分たちの強みを出せることなく、敗れ去った印象がある。

試合の趨勢を大きく変えたのは、戦術的選手交代だったと思う。FW戦で徐々に押されたウェールズは、なんとキーマンのSOダン・ビガーを下げてしまう。別に疲労度が高かったわけでも故障したわけでもない。ただ単に「なんとなく押されてきたので攻撃のリズムを変えたい」程度の意図だったのではないか。この交代にはビガーも納得がいかなかったらしく、チームスタッフに声高に詰め寄るシーンが写されていた。

もともとウェールズがイングランドに勝利した予選リーグの試合は、ダン・ビガーの精密なPGでもぎ取ったものだ。しかしPGだけではなく、キックと展開をうまく絡めて味方BK陣を指揮し、局地戦だけでなく大局的に陣地を稼ぐ戦術のほうに、ビガーの能力は発揮されていたと思う。そのビガーを下げてしまったことで、ウェールズの攻撃はとたんに流動性を失う。

百戦錬磨の南アは、さすがにその間隙を見逃さなかった。ビガーの交代のわずか1分後、南アはとうとうウェールズの固いディフェンスをこじ開けることに成功する。密集戦から南アのキャプテンSHフーリー・デュプレアがラインぎりぎりに飛び込み、逆転トライを奪う。このトライで精神的にも得点的にもダメージを受けたウェールズは、ずるずると後退を続け、試合の流れを変えられないままノーサイドとなった。

ビガーの交代時は後半34分。のこり6分の場面だ。ウェールズは19-18で、わずか1点のリードだった。南アの経験と実力から考えれば、このわずか1点を守りきって勝てると考えるのは甘いだろう。しかしウェールズ首脳陣は、この1点を守りきることを優先し、ディフェンスの密度を考えてビガーを下げたように見える。その守りの姿勢がチームに伝播し、さらに悪いことに南アにも伝わり、一気に逆転された。最後のトライを取られた時に、オフィシャルの国際放送では沈痛した表情で首を振るビガーの表情を抜いて放送していた。誰にだって、このトライにつながる理由は明白だっただろう。

逆に南アは、追いつめられた段階で、ウェールズのわずかな動揺を見逃さず、きっちりトライを取り切った。あの場面でトライを取ったデュプレアの冷静さは、見事と言うほかはない。勝負勘というか、ここ一番の力の出し方というか、「経験」という広い言葉で覆うには見事すぎる集中力だった。

それはひとつには、勝利を確信した場面で油断し、最後の最後で逆転トライを取られて負けた日本戦での敗北が教訓となっていたこともあるだろう。もともと地力で勝る南アが、敗北によって謙虚さと緻密さを取り戻し、この大一番での勝負に活かした。ウェールズが4強以上に進出するためには、こういう「あと一歩」の底力が必要となるだろう。




NZ フランス


ニュージーランド 62ー13 フランス


準々決勝第2試合。戦前の予想とは異なり、思いがけない大差がついた。決勝トーナメントでの62点は過去最多。49点差という大差も最多記録だ。

フランスはいつもワールドカップでNZと対戦するときには、まったく別のようなチームになって圧倒する。2007年大会では今回と同じ準々決勝でNZと対戦し、破っている。前回大会でも決勝で対戦し、8-7とわずか1点差まで追いつめた。2007年の対戦ではSOフレデリク・ミシャラクが正確なDGを連発し、3点差ずつじわじわと追い上げての逆転勝利だった。今回もミシャラクはスタメンに名を連ねており、NZにとっては「不吉なSO」として警戒の対象となっていた。

前半12分に、早くも試合が動く。そのミシャラクが、キックの際に太腿を痛めて途中交代するというアクシデントに見舞われた。あまつさえ、そのキックがNZにチャージされ、トライを奪われた。この「NZキラー」のゲームメーカーが退くことによって、フランスはゲームプランの変更を余儀なくされた。

得点のリードとキーマンの負傷交代というふたつのダメージによって、フランスの守備に動揺が広がる。毎回、NZと対戦するときには鬼のようなタックルでNZのFW陣を封じていたフランスのキャプテンFLデュソトワールの、タックルが全然決まらない。NZのアタックを受ける際、FLやCTBにギャップを半分ずらされ、一人を止めるのに二人を要し、外側を余らせてしまう、というパターンでトライを連取された。

一方のNZは、予選プールで俊足BK陣を「封印」し、敢えてFW勝負で縦突破を図っていたゲームプランを一変させた。最初からBKの外展開で、ワイドにボールを散らす、従来のNZの試合運びをようやく使ってきた。おそらく、決勝トーナメント1回戦で苦手のフランスと対峙することを想定し、研究されないように隠していたのだと思う。

今回のNZのバックスリーは、ジュリアン・サヴェア(35)、ネへ・ミルナースカッダー(2)、ベン・スミス(41)など、W杯本番までのキャップ数が比較的少ない。それだけ、事前に相手に研究できる余地がないということだ。2007年のフランスの勝利は、緻密な事前研究によってNZの攻撃パターンを分析していたのが要因だが、それと同じことが今回はできなかった。NZのBK陣にいいように走られ、WTBのミルナースカッダーに1本、サヴェアに至ってはハットトリックのトライを取られている。終わってみればNZは合計9トライ。普通であれば、決勝トーナメントで、しかもフランス相手に取れる数字ではない。

NZの攻撃陣で見事だったのは、両LOだ。ブロディー・レタリックは、フランスSOミシャラクのハイパントをチャージしてそのままトライをとり、試合序盤で早くも試合の流れを大きく引き寄せた。またサミュエル・ホワイトロックは密集戦でフランスのボールによく絡み、幾度もターンオーバーを演出した。両LOはラインアウトでも空中戦を制し、フランスにまったく付け入る隙を与えなかった。守って良し、走って良し、突っ込んで良し、飛んでよし、強力なNZのFW陣にあって、このふたりの存在感は物凄いものがあった。

今回の試合で非常に特徴的なのは、PGによる得点が極めて少ないことだ。決勝トーナメントではなかなかトライは取れないため、勝敗は実質上、PGで決まるのが普通だ。しかしこの試合では前後半を通じて、NZは1本、フランスは2本しかPGを決めていない。

これはひとつには、後半にはすでに大差がついたため、3点をちまちま稼いでも意味がないので、フランス側がほとんどのペナルティーでラインアウトを選択していたことも理由である。しかし、試合前半でもほとんどPGの機会がなかった。

それはすなわち、NZもフランスも、自陣での反則が非常に少なかったことを意味する。特にNZは、フランスが自陣で反則を犯しても、アドバンテージを活かして切れ目無くプレーを続けた。フランスは疲労が増し、たとえ味方の反則であってもプレーが一旦切れることを望んでいたように見える。しかしNZはそんなフランスの疲弊を見透かしたように容赦なく連続攻撃で責め立て、9つのトライを量産した。

試合終了時、フランスは自陣深くのマイボールスクラムからインゴールにボールを確保した場面で、自らボールを蹴り出して試合を終わらせた。そのシーンだけを見ても、フランスがもはや「早く試合を終わらせたい」という精神状態だったことが分かる。

結局、試合序盤でSOのミシャラクが負傷交代したことで、フランス側は流れを完全に失った。その動揺を回収できないまま戦況を悪化させ、悪夢のような大差になった。前回大会の決勝では、NZのほうがSOダン・カーターを失い、同じような状況に陥っている。SOがもたらす試合展開の流れが、非常に重要であることを示す試合だったと思う。


これで準決勝の第一試合は、南アフリカ対NZに決まった。ここ4年間の戦績は、NZが6勝1敗と大きく引き離している。今大会のコンディションを見ても、NZのほうに分があるだろう。南アフリカは、日本戦やウェールズ戦のように、反則からリズムを失う流れがどうしても足枷になる。しかし、ウェールズ戦の最後に見られたように、日本戦での敗北を活かして粘り強く最後まで戦う姿勢は、いままでの南アフリカにはなかったファクターだろう。1点を争う好ゲームになることが期待できる。



久々にオールブラックスらしさ全開の試合だった。

「これはどことどこの試合なの?」

ん?アイルランド対フランスだよ。

「録画したの?」

うん。予選プールの中でも注目の試合だよ。

「どっちが強いの?」

うーん、今回の大会ではアイルランドだろうな。強いよ。実際にこの試合はアイルランドが勝った。

「あら、でもフランス結構押してるわね」

うん、もともとディフェンスが強いからね。フランスの試合はロースコアが多いよ。

「あー、また。フランスわりとやるじゃないの」

そりゃ、前回大会では決勝まで進んで準優勝だからね。

「この試合、このままいけば、もしかしたらフランス勝てるんじゃないの?

・・・は?

「だから、フランス勝てるかもよ」

だから、実際にはアイルランドが勝ったんだってば

「でも分からないじゃないの。このままの勢いでいけば、もしかしたらってこともあるかもしれないでしょ



ないです。

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