米国大統領選 分断の政治を憂う
(2016年3月3日 朝日新聞社説)
米大統領選 危うさもはらむトランプ旋風
(2016年3月3日 読売新聞社説)
トランプ氏優勢 これでいいのか共和党
(2016年3月3日 毎日新聞社説)
世界的な影響が懸念される米政治の混迷
(2016年3月3日 日本経済新聞社説)
トランプ現象 「痛快だから」では済まぬ
(2016年3月3日 産経新聞社説)


アメリカで4年に1度のお祭り、大統領選が始まった。
今回の大統領選では、共和党の指名候補者をかけて競っているドナルド・トランプが話題となっている。

アメリカの大統領選挙はほぼ1年をかけて争われる長丁場なので、そのシステムが分かりにくい。
二大政党制をとっているアメリカでは、大統領選はほぼ共和党と民主党の一騎打ちになる。それぞれの党で、党が指名する候補者をまず決める。現在やっている「予備選」がそれにあたる。いわば党内の予選大会のようなものだ。

大統領選挙は一般市民が直接投票することはできない。一般市民が選挙によって選べるのは、大統領選抜の直接選挙権をもつ「選挙人」である。選挙人は、上院、下院の議員数と同数だけ選ばれるため、全国で538名が一般選挙によって選ばれる(議員数がないワシントンDCは特例として3名)。この538名の選挙人は、あらかじめ支持する候補者を明確にしているため、選挙人を選ぶ選挙が終わった時点で、事実上、時期大統領が決定する。

選挙人は州ごとに選抜されるため、それぞれの州で、民主党・共和党がどの候補者を擁立するかを決定しなくてはならない。それが現在行われてる、党内予選となる「予備選」で、それぞれの党がどの候補者を推すか、が州ごとに決定される。

アメリカは伝統的に、国政選挙は火曜日に行われる習慣がある。キリスト教では日曜日は安息日だし、月曜日に選挙をやると遠隔地に住む人は日曜日から移動を開始しなければならないため、火曜日に選挙が行われるのが慣例となっている。
毎年、2月下旬から3月上旬の火曜日には、各州が一斉に党内候補者を決める予備選挙を行うため、「スーパーチューズデー」と呼ばれている。候補者にとっては、スーパーチューズデーは一気に多くの州の支持を取り付けるチャンスになる。
おととい3月1日の火曜日が「スーパーチューズデー」にあたり、ジョージア、アラバマ、テネシーなど11の州で一斉に予備選挙が行われた。このスーパーチューズデーの結果で、その後、各州の動向がある程度予測できる。

スーパーチューズデーの結果、民主党ではヒラリー・クリントン候補、共和党では政治経験がない不動産業者のドナルド・トランプ候補が優勢という結果が出た。それを踏まえての各新聞社の社説。
どの新聞も、民主党のクリントンのことはどうでもいい。もっぱら話題は、共和党候補が濃厚なドナルド・トランプのほうにある。

いま行っているのは党ごとの候補者を決める予備選挙であるため、別にトランプが多くの州で支持を得たからといって、それがすぐに大統領選出につながるわけではない。現在、トランプが競っているのは民主党のクリントンではなく、同じ共和党のテッド・クルーズ上院議員とマルコ・ルビオ上院議員だ。政治経験が豊富な他候補者を抑え、なぜか政治経験皆無のトランプがスーパーチューズデーに圧勝した。

トランプが属する共和党は、一言で言うと「武力で強いアメリカを誇示することで支持率を上げる」ことを党是としている。レーガン、ブッシュ親子など、やたらに戦争屋が多い。湾岸戦争やアフガニスタン派兵など、世界中にアメリカ軍を派遣して、力でアメリカの影響力を誇示しようとする。

だから共和党が支持される時というのは、「アメリカが自信を無くしている時」と言ってよい。現在、アメリカは貿易赤字や移民による労働機会簒奪など、国内の不均衡が顕著になっている。端的に言えば、国民の生活が苦しくなっているのだ。そんな時に、過激な発言で「強いアメリカ」を誇示するトランプが支持を得るのは、いわば当然と言えば当然だろう。なんのことはない、第二次世界大戦前にナチスドイツが国民の熱狂的な支持を受けたのと同じことが、いまアメリカで起きている。

トランプが「仮想敵国」として国民の憎悪を煽っているのが、「イスラム諸国、メキシコ、日本」だ。
イスラム諸国は言うまでもなく、「アメリカのテロの脅威となっている」という理屈だ。メキシコは、流入する移民がアメリカ国民の就労機会を奪っている、という理由だ。もとはといえばメキシコ人労働者を安価な人件費で雇っているアメリカ人の雇用態度がそのような現状を招いたので、自業自得と言えば自業自得なのだが、そんな正論は誰も知ったこっちゃないのだろう。その二者に対しては、トランプは断固排他を叫んでいる。「外国人をアメリカから追い出せ」というスローガンだ。

日本を仮想敵国としているのは、主に経済の退廃の原因を押し付けるための、適当なスケープゴートが日本くらいしか見当たらないからだろう。アメリカの経済停滞は主に国内市場の閉塞と対外貿易赤字が原因だが、アメリカ、特に共和党は「自分たちのせい」とは決して認めない。必ず誰かのせいにする。それに加えて共和党は原理的に白人至上主義なので、有色人種に対して差別的な感情が根底にある。

だから「いまアメリカが苦しいのは、アジアのサルどものせいだ」ということにしたい。そう主張しているトランプがこれだけ熱狂的な支持を受けているということは、いかに多くのアメリカ人が「口には出さないが、心の奥底ではそう思っている」ということの表れだろう。

実際のところ、いまトランプが人気取りのために公言している方針のほとんどは、実際に大統領になれば己の首を絞めることだらけだろう。日米安保条約を「日本が安全のただ乗りをしている」、TPPを「日本が得するだけの不平等条約」など、本末転倒の主張を繰り返している。もともと日米安保もTPPも、アメリカのほうが日本に押し付けてきたものだ。それをアメリカ側から撤回するのであれば、日本としては「どうぞどうぞ」という態度になるだろう。
こうしたトランプの支離滅裂な主張については、共和党本部でも苦言を呈する声が上がっている。今後、大統領予備選で共和党がトランプの手綱をどのように取るのかで、現在の共和党の指導力が見積もれるだろう。


さて、そのトランプについての各社の社説。
ここではトランプの主義主張の是非ではなく、純粋に記事の書き方として意義のある書き方をしているかどうかを見てみたい。

そもそも話の大本として、「なんでこんな輩が大統領選で支持を得られるのか」を考えるのが王道だろう。もしトランプが大統領になったら、日本に対してかなり強行な政策を振りかざしてくることが予想される。それに対処するには、その背景、「なぜこんな奴が大統領に」という根っこを理解しておく必要がある。

だから現時点での社説としては、「もしトランプが大統領になったら日本はどうすればいいのか」という内容はピントがずれているだろう。まだ予備選の段階で、共和党の候補として決定したわけでもない。この段階で対トランプ対策をいろいろと提言したところで、二階から目薬の観が否めない。

そういう目で社説を読み比べてみると、めったにないことだが、一番よく書けているのは毎日新聞だろう。毎日新聞の社説は、トランプのように政治的な基盤がまったくなく、センセーショナルに人気取りを煽り、過激な発言を繰り返す候補者が出てくる背景として、最近の共和党の特質に触れている。

共和党自身の迷走も指摘できよう。トランプ氏を批判するのはいいとして、では共和党本来の姿、主張とは何なのか−−

同党は「家族の絆」を含めて米国のよき伝統と価値観を重んじてきた。だが、近年は原理主義的なキリスト教右派に加え、ブッシュ前政権をイラク戦争へ後押ししたとされるネオコン(新保守主義派)、保守系草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」などが影響力を増している。 キリスト教右派はテッド・クルーズ上院議員の支持基盤。ネオコンはマルコ・ルビオ上院議員への支持が厚いとされ、茶会を含む三つの勢力の台頭で、伝統的な共和党の価値観が揺れている。同党執行部などの主流派は候補一本化でトランプ氏に対抗することを検討したが、主流派とされるクリスティー・ニュージャージー州知事がトランプ氏支持に回り、本流の分裂を印象付けた。
(毎日社説)


こと大統領選挙のような大きな権力人事の前では、個人の資質を攻撃して「お前、何言ってるんだ」的な批判は、どんなに正論であっても意味がない。気の狂ったような過激な発言が本当に大統領として不適切であれば、国民はそいつを選ばないはずだ。しかし、ヒトラーの時もそうだが、トランプのケースでも、問題は「国民の中にそれを支持している層がある」ということのほうにある。そういう自体を憂うのであれば、トランプのような個人を批判するだけでは、問題の根本的な解決にならない。第二、第三のトランプが出てくるだけの話だ。

毎日新聞が指摘しているのは、要するに共和党がトランプを押さえつけるだけの力が無くなっている、ということだ。指導部の求心力低下なのか、内部分裂なのか、詳しい事情はよく分からないが、ニュージャージー州の知事が一転してトランプ支持に廻ったのは、共和党の内部崩壊の一端とする見方は正しいだろう。

党内に押さえつける抑止力がなく、白人至上主義に基づく人種差別観のような「国民の本音」をすくい取り、理性を失って熱狂した国民を煽動する。いまアメリカの共和党で起きていることは、ヒトラーが政権を奪取した頃のナチスドイツと、何も変わらない。おおむね、外国からの醒めた目で「なんでこんな奴が支持されるんだ」という時は、いつでもどこでも似たようなことが起きているものだ。

朝日新聞は、絶対に書いてはいけない書き方をしている。

米国の民意はどこへ向かうのか。「トランプ現象」はもはやブームではない。保守層の中で確かな流れになりつつある。 実業家のドナルド・トランプ氏が2大政党のひとつ、共和党の大統領候補指名に向けて着実に歩を進めている。 50州のうち、11州でおとといあった予備選や党員集会でも、ライバルとの差を広げた。この勢いが続けば、党の候補の座を獲得し、11月の大統領選挙に臨むことになるかもしれない。

多くの国の人びとが不安の目を注いでいる。トランプ氏は、米国と世界を覆う難題への冷静な取りくみではなく、むしろ、米国内外の社会の分断をあおる言動を重ねてきたからだ。 やり玉に挙げるのは、メキシコ人であり、イスラム教徒であり、中国や日本でもある。民族や宗教などに標的を定めて攻撃し、テロの心配や雇用難などで怒る有権者の歓心を買う。 そんな扇動的な訴え方が、自由主義の旗手を自負する大国のリーダーとしてふさわしくないのは明らかだ。


「お前が言うな」の一言に尽きる。いままで様々な捏造記事で国民を煽動し、国に害を与え続けてきた朝日新聞がしれっと言ってよいことではない。

また、「多くの国の人びとが不安の目を注いでいる」という書き方は、何の根拠もない。朝日新聞は実際に世界各国で意見調査をしたわけではないだろう。「多くの国の人びと」と言うのであれば、何カ国の、何人くらいの人がそう言っているのか、客観的な根拠を出さなくてはならない。そんな根拠は一切無いだろう。

「不安の目を注いでいる」というのは、一般市民の意見のふりをした、朝日新聞の主観に過ぎない。これは朝日新聞が世論を誘導するときの常套手段で、ものの書き方としては下の下と断じて良い。朝日新聞は、「みんなこう言っている」と他人の意見として捏造するのではなく、正直に「我々は不安の目を注いでいる」と書かなくてはならない。 トランプの煽動的な言動を批判する朝日新聞が、読者を煽動してどうしようというのだろう。

書き方の他にも、内容の面でも朝日新聞は的を外している。朝日新聞の社説は、要するにトランプの言動の内容を非難しているに過ぎない。前述した通り、本当の問題点は「そういう非難に値する言動が、アメリカ国民の支持を得ている」ということのほうだ。国民がそういう言動を支持している限り、もしトランプが出馬を取り消しても、同じような方策をとる候補者が出てくるだけの話だ。ものの表層しか見ていない、薄っぺらい内容といってよい。

トランプ個人ではなく、背景にある構造的な要因を指摘する点については、毎日以外では産経がきちんとクリアしている。

政治経験のないトランプ氏の人気は、既成の政治への不満の反映であり、大衆の本音をずばり口にするポピュリズムにある。オバマ政権が招いた「弱い米国」への批判や、同政権下で広がった保守とリベラルの両極化などが背景にあろう。富裕層に対する不公平感など、米国民にやり場のない不満があることも無視できない。共和党内には、主流派の候補が絞り込まれればトランプ氏に勝ち目はないとの楽観的な見通しがあったが、有権者の不満を読み切れていなかった。 「トランプ現象」が米国の政治、社会の課題を示しているのだとすれば、対立候補はその問題点を指摘し、自ら克服する手法や政策を明確に提示して、巻き返しを図る必要がある。
(産経社説)


トランプ個人を批判するよりも、よほど建設的な提言だろう。問題の根っこを、より深く考察していると言える。

共和党の指導力低下は日経も触れているが、日経の社説はあくまでも「日本はどうするべきか」という論に終止しており、予備選挙のタイミングで出すべき記事とは若干のずれがある。実際にトランプが大統領に選出された際には、日本は経済・外交・軍事などさまざまな面で対応策を講じる必要があろうが、今の時点ではまずその前段階として、トランプがこれだけ騒がれている背景について抑えておくのが筋だろう。その考察を疎かにしては、具体的な策を講じる必要性が生じた時に適切な措置が取れなくなる。


ウィンストン・チャーチルは「いままでで最悪の政治家は?」と問われて、「さよう、最悪の政治家を決めるのは難しい。これぞ最悪という奴がいても、必ず後にそれよりも悪い奴が出てくる」と答えている。
基本的に、指導力に欠け、政治を勘違いしている輩が大統領になって困るのは、アメリカであって日本ではない。もし間違った人間を大統領に選ぶのであれば、それはその国の惨禍に過ぎない。
過去の共和党政権は、国内の支持率を挙げるための対外軍事政策を強行するたびに、国際社会の強い批判に晒された。その轍をまた踏むのであれば、アメリカのレベルはその程度ということだろう。



アメリカ国民はよっぽどストレスが溜まってるのだろうな。



米国大統領選 分断の政治を憂う
(2016年3月3日 朝日新聞社説)
米国の民意はどこへ向かうのか。「トランプ現象」はもはやブームではない。保守層の中で確かな流れになりつつある。 実業家のドナルド・トランプ氏が2大政党のひとつ、共和党の大統領候補指名に向けて着実に歩を進めている。 50州のうち、11州でおとといあった予備選や党員集会でも、ライバルとの差を広げた。この勢いが続けば、党の候補の座を獲得し、11月の大統領選挙に臨むことになるかもしれない。

多くの国の人びとが不安の目を注いでいる。トランプ氏は、米国と世界を覆う難題への冷静な取りくみではなく、むしろ、米国内外の社会の分断をあおる言動を重ねてきたからだ。 やり玉に挙げるのは、メキシコ人であり、イスラム教徒であり、中国や日本でもある。民族や宗教などに標的を定めて攻撃し、テロの心配や雇用難などで怒る有権者の歓心を買う。

そんな扇動的な訴え方が、自由主義の旗手を自負する大国のリーダーとしてふさわしくないのは明らかだ。 トランプ氏は、人種や性問題での差別意識の疑いも漂わせてきた。白人至上主義を唱える団体の元幹部からの支持も、明確に拒む姿勢を見せていない。 もし人種的な意識が潜んでいるならば、危うい時代錯誤だ。米国の人口構成は着実に旧来の「白人」の比率が減り、中南米系やアジア系が増えている。 流入する移民とともに世界の頭脳と活力を吸収する成長力こそ米国の強みであり、実際、米国経済を引っぱる情報技術や金融界での移民の貢献は甚大だ。 多様性を否定するような言動は移民の国としての自己否定であり、トランプ氏が言う「米国の復活」にもつながるまい。

米国民の心情に、政治への強い鬱屈(うっくつ)があるのはわかる。新たな政治を求めて誰かを選ぶというより、旧来の政治を壊すために極端な主張に支持を寄せる現象は近年、他の民主主義国でもめだっている。 経済でもテロ問題でも、一国の有権者には見えにくい地球規模の情勢が、暮らしを左右する時代である。政治家たちが問題のありかを国外に求め、自国優先を唱えれば心地よく響く。それは各国共通の事情だろう。

だが現実には、移民を排し、外国を責め、国を閉じることで問題は何も解決しない。米国にいま必要なのは、多様な国民を統合し、国際社会と手を携えてグローバルな課題に向き合える有能な指導者を選ぶことだ。 秋の選挙に向けて賢明な選択を下すよう米国民に期待する。



米大統領選 危うさもはらむトランプ旋風
(2016年3月3日 読売新聞社説)
米大統領選で、民主党と共和党の指名候補を争うスーパーチューズデーの投票が行われた。 10を超える州の予備選と党員集会が集中する序盤戦最大のヤマ場だ。共和党は不動産王のドナルド・トランプ氏、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官がそれぞれ多くの州で勝利し、指名獲得に前進した。 トランプ氏は勝利宣言で、「民主党員や無党派層がこちら側に来ている」と述べ、支持層が拡大したことを誇示した。

政治経験のないアウトサイダーの旋風は、とどまるところを知らない。党派対立に明け暮れ、物事が決まらない「ワシントン政治」への有権者の怒りが背景にある。米国に根強い「反知性主義」の表れとも言えるだろう。 「移民の流入を阻止するため、メキシコ国境に壁を築く」「イスラム教徒の入国禁止」「すべての不法移民の強制送還」――。トランプ氏の過激な主張は、既存の政治家には口にできまい。 移民に職を奪われたと憤り、イスラム教を敵視する人々には、既成政治に染まらない斬新な発言として、心に響くのではないか。

トランプ氏に閉塞状況の打破を託す思いは、共和党の幅広い支持者に浸透しつつある。「11月の本選で勝てる可能性が最も大きい候補」との見方も広がってきた。 懸念されるのは、討論会などで政策論争が深まらず、トランプ氏の主張の妥当性や実現性がほとんど検証されていないことだ。 「日本や中国、メキシコを貿易で打倒する」「偉大な米国を取り戻す」といった単純なスローガンの繰り返しは、危うい大衆扇動そのものではないか。 共和党の主流派には、トランプ氏の指名獲得に否定的な声も出ている。だが、それが「既存支配層の介入」と反発を呼び、トランプ支持がむしろ拡大しかねないところに事態の深刻さがある。

クリントン氏は勝利集会で「壁を築くのではない。取り払うのだ」「米国を再び一つにしよう」と語った。トランプ氏との対決を早くも意識しているのだろう。 ファーストレディーや上院議員などの経験と実績がクリントン氏の強みであり、弱みだ。「支配層」に不満を持つ人々がどう評価するかが、選挙戦のカギとなる。

トランプ、クリントン両氏が、環太平洋経済連携協定(TPP)への反対を明言しているのは心配だ。アジア太平洋地域の貿易活性化を目指す協定が、大統領の交代で反故ほごにされてはならない。



トランプ氏優勢 これでいいのか共和党
(2016年3月3日 毎日新聞社説)
天下分け目の「スーパーチューズデー」でも実業家のドナルド・トランプ氏は快進撃を続けた。米国の共和党が11州で実施した大統領選の候補者選び(予備選・党員集会)で、同氏は7州で勝利し、同党の大統領候補へ大きく前進した。トランプ氏の暴言や型破りの言動は共和党主流派のひんしゅくを買い、2月下旬にはワシントン・ポスト紙が「トランプ降ろし」を呼びかける異例の社説を掲げた。それでも同氏が勝ったのは、多くの人々が既成の政治や権威に失望し、経験のないアウトサイダーによる変革を待望しているからだろう。

共和党自身の迷走も指摘できよう。トランプ氏を批判するのはいいとして、では共和党本来の姿、主張とは何なのか−−。 同党は「家族の絆」を含めて米国のよき伝統と価値観を重んじてきた。だが、近年は原理主義的なキリスト教右派に加え、ブッシュ前政権をイラク戦争へ後押ししたとされるネオコン(新保守主義派)、保守系草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」などが影響力を増している。 キリスト教右派はテッド・クルーズ上院議員の支持基盤。ネオコンはマルコ・ルビオ上院議員への支持が厚いとされ、茶会を含む三つの勢力の台頭で、伝統的な共和党の価値観が揺れている。同党執行部などの主流派は候補一本化でトランプ氏に対抗することを検討したが、主流派とされるクリスティー・ニュージャージー州知事がトランプ氏支持に回り、本流の分裂を印象付けた。

だが、メキシコとの国境に壁を作って移民を締め出し、イスラム教徒の入国も禁じるといったトランプ氏の主張は、欧州で強まる排外主義と相まって世界を息苦しくしている。「大きくて伝統のある党」(GOP=グランド・オールド・パーティー)を名乗る共和党はそれでいいのか。米国の保守政治にとって重大な分かれ道である。 今回はクルーズ氏が地元テキサス州などで勝ち、ルビオ氏も初勝利を挙げた。15日以降は1位の得票者が代議員を総取りする選挙も複数の州で行われる。トランプ氏優勢とはいえ、決着がつくのはまだ先だ。

一方、民主党は11州と米領サモアで選挙を行い、ヒラリー・クリントン前国務長官が圧勝した。バーニー・サンダース上院議員も健闘したが、クリントン氏が候補になるのは時間の問題になってきた。米国初の女性大統領が誕生する可能性も含めて、歴史に残る選挙戦である。トランプ氏は暴言や下品なパフォーマンスなどを慎むべきだ。選挙戦では米国の英知を感じさせる主張と論戦を聞きたい。



世界的な影響が懸念される米政治の混迷
(2016年3月3日 日本経済新聞社説)
米政治が混迷を深めている。人種差別的な発言を繰り返す実業家ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補選びで先頭に立ち、内政のみならず、外交関係でも摩擦を生んでいるからだ。国際政治における米国の覇権を前提としてきた日本はこの事態にどう向き合えばよいだろうか。 米大統領選の序盤のヤマ場であるスーパーチューズデーで、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官、共和党はトランプ氏が過半数の州で勝利を収め、党指名候補の座へ大きく前進した。

共和党は混乱している。トランプ氏の極端なもの言いは右傾化する同党においても許容しがたいとの声が高まっている。ポール・ライアン下院議長はトランプ氏が人種差別団体の指導者の支持表明を受け入れるかのような受け答えをしたことを強く批判した。

民主党は民主社会主義者を名乗るバーニー・サンダース上院議員が11州のうち4州で勝利した。クリントン氏が優勢だが、盤石ではない。「トランプ大統領」が誕生する可能性が出てきたことで、米世論は賛否真っ二つである。日米関係は二大政党のいずれが政権を握ろうとも変わらないとされてきた。だが、米政治が大揺れになれば、米国民が抱く格差の拡大などへの不満のはけ口に日本がされるおそれがある。トランプ氏は日本が米本土の防衛義務を負わない日米安全保障体制を「ただ乗り」と攻撃する。クリントン氏は日本を中国とともに外国為替相場の不正操作国と非難した。いずれが勝利した場合でもいま以上に日米同盟への貢献を求められよう。

こうした動きにまともにぶつかるのは得策ではない。日本は今国会に提出される環太平洋経済連携協定(TPP)関連法案を早期に処理し、自由貿易の推進の旗振り役を務めるべきである。トランプ氏が米国民の人気を集める理由のひとつが移民排斥をあおる発言にある。シリア難民が流入する欧州も移民問題に苦慮しており、各地域で競うように移民への反感が高まれば、欧米や中東の安定は失われかねない。世界に与える影響は重大である。米大統領選の見どころは表舞台のお祭り騒ぎではない。なぜトランプ現象が起きているのか。その背景をよく理解し、ポピュリズムの潮流に世界をのみ込ませないための手立てを考えたい。



トランプ現象 「痛快だから」では済まぬ
(2016年3月3日 産経新聞社説)
歯切れがよいといっても、その主張は過激、排他的で、暴言、失言を連発する。大方は早々に自滅すると予想したのだろうが、その勢いは止まらない。

米大統領選に向けた共和党の候補指名争いで、不動産王、ドナルド・トランプ氏が大差をつけて先頭を走っている。序盤戦最大の山場、「スーパーチューズデー」で、さらに優位に立った。唯一の超大国、米国の指導者を決めるレースである。世界の将来に大きな影響を与えるだけに不安を覚えないわけにはいかない。

トランプ氏は「貿易で日本、中国、メキシコを打ち負かす」と連呼する。有無を言わせず通商紛争を仕掛けるかのような、内向きで独善的な物言いだ。テロ事件に関連したイスラム教徒入国拒否の発言に至っては、極めて不適切だ。その言動をみる限り、アジア・太平洋地域の安定の要である日米同盟の意義を理解しているとは思えない。この人物では、日本の安全保障に悪影響を及ぼすとの懸念も持たれよう。ヘイデン元米中央情報局(CIA)長官は、トランプ氏が最高司令官である大統領に就任しても「米軍は命令に従わないこともありうる」とまで指摘した。

政治経験のないトランプ氏の人気は、既成の政治への不満の反映であり、大衆の本音をずばり口にするポピュリズムにある。オバマ政権が招いた「弱い米国」への批判や、同政権下で広がった保守とリベラルの両極化などが背景にあろう。富裕層に対する不公平感など、米国民にやり場のない不満があることも無視できない。共和党内には、主流派の候補が絞り込まれればトランプ氏に勝ち目はないとの楽観的な見通しがあったが、有権者の不満を読み切れていなかった。 「トランプ現象」が米国の政治、社会の課題を示しているのだとすれば、対立候補はその問題点を指摘し、自ら克服する手法や政策を明確に提示して、巻き返しを図る必要がある。

民主党ではヒラリー・クリントン前国務長官がリードを固めた。共和、民主両党の予備選は続く。各候補とも世界の次期指導者にふさわしい品格と英知を競い合ってほしい。