アルゼンチンーアイルランド


アルゼンチン 43ー20 アイルランド


アルゼンチンの完勝。序盤に連続トライで試合の主導権を握ると、強みのタックルと密集戦を完全に制し、アイルランドに付け入る隙を与えなかった。 今大会のアルゼンチンは、本当に強い。

大会前の展望の段階では、アイルランドが優位という予想が多かった。アイルランドはシックスネイションズを2連覇し、北半球の覇者として本大会に臨んだ。世界ランキングも過去最高の2位に上がり、優勝候補に推す声も多かった。

直接の原因は怪我人の続出だろう。予選プールの4試合で、キャプテンのLOポール・オコンネルが離脱。司令塔でスーパーブーツのSOジョニー・セクストンが足の負傷。アイルランドは決勝トーナメント前にFW、BK両方の核を失った。さらにFLピーター・オマホニーとCTBジャレッド・ペインも怪我で欠場。ハードタックルでアイルランドを鼓舞してきたFLショーン・オブライエンは、予選プール最終戦でラフプレーにより出場停止。主力がことごとく離脱する状況でこの試合を迎えた。

しかし、状況はアルゼンチンにも公平だったのだ。アルゼンチンはFWを縦に突っ込ませる強行策が生命線なので、消耗が激しい。目立った怪我人はいないものの、各プレーヤーの消耗度は他チームよりも激しいだろう。そんなチームをマネジメントするため、アルゼンチンは予選プールから意図的な戦術的交代を効果的に行っていた。FWを酷使せず、消耗しない段階で積極的に交代し、チーム全体の戦力を慎重に温存する。

そのアルゼンチンのチームマネジメントは、予選プール初戦でNZと戦うことができた幸運にもよるだろう。優勝候補のNZに善戦し、一時はリードも奪った。しかし試合巧者のNZの戦術によってFW陣を消耗させられ、試合最後の15分で差をつけられた。アルゼンチンは本気でNZに勝ちにいったため、スタメンのFWをできるだけ長くプレーさせてしまったのが、結果として敗因になった。その結果、疲労度が増し、選手交代が後手に回り、80分をトータルで戦いその隙を狙っていたNZに一蹴された。積極的な選手交代でチーム全体の戦力を保ち、南アフリカに逆転勝ちした日本とは、真逆のマネジメントだったと言える。

この敗戦の後から、アルゼンチンの戦術的交代が積極的になった。大一番であるNZが早々に終わり、余裕が出たこともあるだろう。それ以後の試合では、いたずらに選手を消耗させることなく、高いコンディションを保ったまま心身共に充実してアイルランド戦を迎えることができた。

要するに、アルゼンチンの優位は、監督の技量の差によるところが大きいだろう。スタメンと控え選手の戦力差が不利に働かないように、常にセカンドチョイス、サードチョイスを用意する。W杯のような長丁場では、スタメン15人の戦力だけで戦い抜くのは不可能だ。チーム全体の戦力を均し、誰が出ても戦術を実効できる状態に仕上げなくてはならない。それが如実に差となって現れた。

アイルランドのBK陣は、傍から見ててもSOセクストンが抜けたら一大事、というのが明らかだった。セクストンが負傷離脱した後のことを、まるで考えていない。また主力が続々と抜けたアイルランドFW陣は、戦意の低下が明らかだった。ブレイクダウンの攻防戦を失った数々の局面は、技術云々ではなく、FW陣を支えるリーダーが不在だったことが大きく響いていたように見える。

アルゼンチンは、そのことを事前の分析として掴んでいただろう。試合開始と同時にラッシュをかけ、トライを連取した。アイルランドの弱点を付き、うまい試合の入り方ができていた。
またアルゼンチンはNZ戦敗北の教訓から、戦術的選手交代によってスタミナを維持し、80分を全力で戦い切った。

FWの強さばかりに焦点があたるアルゼンチンだが、この試合ではバックスリーの貢献度が高かった。FW戦で押されたアイルランドは、必然的に自陣からのキックが多くなる。いつものSOセクストンが得意とする攻撃的なキックではなく、密集戦から逃げるためのキックだ。アルゼンチンのバックスリーはそれを十分に把握しており、上がりと下がりの見極め加減が見事だった。TVの実況ではあまり写っていないが、どんなに外展開で攻撃に上がっても、フェイズを積み重ねてアイルランドが蹴ったときには、必ず深く下がってキックに備えている。怠けず勤勉に上がり下がりする運動量は相当なものだ。

守備の安定は、攻撃の躍動感に直結する。アイルランドのキック攻撃を完封したアルゼンチンBK陣は、自信をもって外展開を使った。この試合ではWTBフアン・イモフが2トライを挙げている。これでイモフは大会5トライめを挙げ、アルゼンチン記録を更新している。FW戦を中心に戦うアルゼンチンで、WTBがこれだけ活躍するのは珍しい。

試合の内容以前に、アルゼンチンは試合に至るまでのチームマネジメントに成功した。スタメンにベストメンバーを揃えられた時点で、アルゼンチンの勝ちだ。アイルランドだけでなく、ウェールズもイングランドも、同様の理由で敗退することが多い。決勝トーナメント以降の試合を勝ち抜くためには、選手ひとりひとりのフィットネス以前に、監督の技量が必要であることを示す試合だった。




バカ主審


オーストラリア 35ー34 スコットランド


スコットランドが、オーストラリア・ワラビーズを追いつめた。オーストラリアが得点しても得点しても、しぶとく食いつき得点差を離さない。後半のこり5分で、とうとうトライとコンバージョンで逆転に成功した。しかしその4分後、のこり1分の場面でオーストラリアにペナルティーを与える「疑惑の判定」でPGを決められ、再逆転を許した。オーストラリアの薄氷の勝利だった。

試合後、ワールドラグビーは最後のペナルティーについて、クレイグ・ジュベール主審の誤審を認めた。問題のペナルティーは、スコットランドのジョン・ウェルシュのノックオンオフサイドだった。味方がノックオンしたボールを、オフサイドの位置にいるプレーヤーが確保する反則だ。ノックオンは相手ボールスクラムになるが、ノックオンオフサイドはペナルティーになるため、反則の罪が重い。

ところがビデオで確認すると、スコットランドがノックオンしたボールは、オーストラリアのニック・フィップスに弾かれていた。オーストラリア側がボールに触った時点で、オフサイドは解消される。負けている状況と残り時間から考えて、オーストラリアがスクラムに持ち込む可能性は低かっただろう。アドバンテージを活かして、トライを取りにいったと思う。主審はもし笛を吹くなら、ノックオンの反則だけをとり、オーストラリアボールでのスクラムにするべきだった。

このプレイでは、主審はTMO(ビデオ映像確認)を行っていない。TMOはやたらと行ってよいものではなく、使える状況に制限がある。現行のルールでは、トライをとったかどうかの判断と、危険なプレーに対する確認にしか使えないことになっている。プレイのたびにTMOを使っては試合がしょっちゅう止まるので、そういう制限はやむを得ない面もある。

しかし、今回のように試合の趨勢を大きく分けるような場面では、例外的に主審の裁量に委ねる余地を残しておかなければならないのではないか。ルールというのは、円滑なゲーム運営と安全確保のためにある。試合のためにルールがあるのであって、ルールのために試合があるのではない。今回のように、誤審を防ぐに十分な設備がありながら、ルールがそれを使うことを妨げ、誤審によって試合結果が間違ってしまうというのは、本末転倒だ。

スコットランドは予選リーグでのチームマネジメントが成功し、ベストメンバーで準々決勝に臨んだ。体力、気力ともに十分に充実していただろう。キャプテンのSHグレイグ・レイドロー、SOフィン・ラッセルのハーフバックスは、地力で勝るオーストラリア相手によくゲームを組み立てた。リッチーとジョニーのグレイ兄弟が軸になるFW陣もよくオーストラリアの猛攻に耐え、スクラムでもラインアウトでも互角に戦った。予選プールから通して、今大会のスコットランドのベストパフォーマンスだったと思う。

一方のオーストラリアの側は、ごっつぁん誤審によって紙一重で勝利をつかんだものの、試合内容は決して褒められるものではなかった。特に、時間配分によって流れを失うゲームの組み立てが良くない。オーストラリアは終止優勢に試合を進め、62%の時間を敵陣でプレイした。最後の10分を勝負所とみて一気に攻勢をかけたスコットランドに押され、最後の10分に限っては7割の時間を自陣内に押し込まれている。ボール確保率も3割ほどに過ぎず、ほぼスコットランドにボールを支配された。のこり5分でのスコットランドのトライは、偶然でもまぐれでもなく、スコットランドがその時間に溜めた力を一気に出すタイムマネジメントの賜物だった。ゲームの組み立て方としては、スコットランドのハーフバックスに軍配が上がっていただろう。

この誤審によって、仮に今大会でオーストラリアが優勝したとしても、「あの誤審によって、本来負けるべき試合を勝ち上がった」という評価が必ずついてまわる。クレイグ・ジュベール主審の誤審は、スコットランドだけでなく、オーストラリアにも害を与えるものだ。誤審というものは、そういうものなのだ。勝者にも敗者にも等しく被害をもたらす。しかも、不可避な誤審ではなく、防ごうと思えば防げるものを、ルールによって自縄自縛となった誤審であるため、主審本人だけでなくワールドラグビー側にも原因がある。

テストマッチならいざ知らず、ワールドカップの、しかも決勝トーナメントの大事な局面で、このような無様な結果となった。スコットランドはFWで押し切る気合のこもった試合を見せてくれた。今大会絶好調のアルゼンチンとの真剣勝負を見てみたかった気がする。



せっかくの熱戦に水を差された気分。