W杯、予選リーグが終了しましたね。日本代表はお疲れさまでした。
これで決勝トーナメントの組み合わせが決り、ノックアウト形式の勝ち抜き戦が始まります。
その前に、予選リーグを通して僕が印象に残ったベストイレブンを選出してみました。


監督
ホルヘ・ルイス・ピント(コスタリカ)
イングランド、イタリア、ウルグアイと同じ「死のグループ」をまさかの首位通過。1弱と思われていたコスタリカを決勝トーナメントに導いた要因は、監督のチームマネジメント以外の何者でもない。中南米予選時の選手起用にとらわれず、試合会場、試合時間、天候、疲労度によって柔軟に選手を使い分けることができる。相手チームのことをかなり詳細に研究しており、相手のタイプによってシフトを使い分けていた。誰が相手でも同じ戦術しか持たない日本代表とは対照的。


GK
ギジェルモ オチョア(メキシコ)
メキシコの予選突破は、第2戦のブラジルとのスコアレスドローでほぼ確定したと思う。地元の圧倒的声援を受けて猛攻をかけるブラジルの攻撃を、スーパーセーブですべてはね返し完封した。DFへのコーチングも的確で、安定したディフェンスを指揮していた。鬼気迫る指示はメキシコDF陣を鼓舞し、メキシコの決勝トーナメント進出へ大きく貢献した。


DF (センターバック)
ダニエル バン ブイテン(ベルギー)
ベルギーはひそかにプレッシャーがかかった大会だったと思う。イングランド、ポルトガル、オランダなどの強豪国がシード落ちする中、グループHのシード国に選ばれた。曲者ロシア、一発がある韓国などと同居し、予選落ちしたときを考えるとプレッシャーは相当なものだっただろう。その予選リーグを失点1で乗り切り、堂々のグループ1位通過。その結果の背景には強固なディフェンス力があった。ベルギーは他のシード国に比べると、攻め込まれて守備に忙殺される展開がわりと多かったが、バン・ブイテンを中心とするDFラインで守り切った。攻め込まれても焦らず、的確なリーダーシップで集中力を切らさなかった。バイエルン・ミュンヘンのCBを8年にわたり務め、大舞台での経験が豊富。近年若手が多数台頭してきたベルギーにあって欧州予選では控えに廻ることが多かったが、W杯のような大舞台では、このようなベテランの経験が必要ということだろう。日本代表にも、このようなリーダーシップがとれるDFが必要だったとつくづく思う。


DF (右サイドバック)
クリスティアン・ガンボア(コスタリカ)
右サイドバックは、快進撃をみせたコスタリカのガンボアを選んでみた。とにかく集中力が高く、攻守の切り替えが早い。運動量も多く、ライン際の上下動を厭うことなく繰り返した。ガンボアのオーバーラップによって相手国の左サイドバックは下がらざるを得ず、効果的なサイドチェンジを封じられて右よりの攻撃をせざるを得なくなっていた。攻撃参加だけでなく、5バックという極端な守備的陣形にもフィットし、バランスよく守備にも貢献していた。


DF (左サイドバック)
マルコス・ロホ(アルゼンチン)
左サイドバックは今回あまり特筆する人材が見当たらなかったが、その中でもアルゼンチンのロホが一番安定していたと思う。今回の予選リーグは、高温多湿という厳しい気候条件で行なわれたため、故障、疲労、反則など、「プレーの外側」の要因でリズムを崩すチームが多かった。その中でもアルゼンチンが予選リーグで好スタートを切れたのは、ロホに代表されるような安定感のあるプレーを行なえる選手が多かったからだろう。「いつも通りのプレーをすれば勝てる」というチームはたくさんあるが、そのプレーを「W杯本番で本当にできる」チームが勝ち抜ける、ということだと思う。


MF(守備的MF)
ホセ バスケス(メキシコ)
守備的MFは、圧倒的な運動量でメキシコの決勝トーナメント進出に貢献したバスケス。マンマークに徹し、潰し役を淡々とこなすボランチは、近年の展開サッカーではあまり流行らないスタイルだが、ブラジルのような強豪国を相手にするときには必要な人材だっただろう。メキシコは中米予選でまさかの4位滑り込みで本大会出場を決め、メンバーと戦術の転換を余儀なくされた。予選大会には出場していないバスケスの代表入りはメキシコ国内でちょっとしたサプライズだったが、監督の期待に見事に応えた。潰し役の宿命としてイエローカードをもらうことが多く、決勝トーナメント1回戦は累積警告で出場停止。バスケス抜きでオランダと戦わなければならなくなってしまった。ロッペンを止める人材を欠いたメキシコがどう戦うか見ものだ。


MF(レジスタ)
トニ・クロース(ドイツ)
ドイツ期待の若手レジスタ。90年代後半にドイツ代表で活躍したディートマー・ハマンを彷彿とさせる安定感。今回大会ではイタリアのピルロ、イングランドのジェラードなど「大物レジスタ」がたくさんいるが、それぞれ高齢化に伴い戦力低下が否めない。ピルロは行動エリアが狭く役割が特化しており、ジェラードも運動量が落ち視野が狭くなった。「心臓部」のレジスタが不調に終わった各国が予選落ちする中、クロースは安定してドイツ攻撃陣に質の高い縦パスを供給し続けた。若いだけに運動量も豊富で、攻撃・守備両面にわたって上下動を繰り返した。エジル、シュバインシュタイガー、ケディラなど正確なキック力を誇るドイツMFの中にあってプレースキックも任されており、空中戦が得意なドイツの武器になっている。


MF(攻撃的MF)
トーマス・ミューラー(ドイツ)
前回大会得点王。前回のゴールデンブーツ受賞は、5得点でビジャ、スナイデル、フォルランと並びながらアシスト数の多さが決め手となった。つまり得点力だけでなく、味方を活かすチャンスメイクにも長けている。今回の予選リーグでも自身4ゴールを量産しながら、味方へのパスや展開もこなし、ドイツの攻撃に効果的なアクセントをつけていた。また運動量も豊富で守備面での貢献も高く、高い位置からのプレッシャーでポルトガルDFを脅かし、ペペの暴力退場を引き出している。今回のドイツはFWを置かないゼロトップの布陣を敷いているが、ミューラーに代表される攻撃力の高いMFの人材の豊富さが、それを可能にしているのだろう。また戦術理解度が高く、組む相手を選ばない調整力の高さも併せ持ち、誰と一緒にプレーしても質の高い連携を保つことができる。監督にとってはかなり重宝する人材だろう。


MF(攻撃的MF)
アリエン ロッベン(オランダ)
前回大会の決勝で苦杯を嘗めたスペインを初戦であっさり葬り去り、その後も予選リーグ10得点というオランダの圧倒的な攻撃力の起点となる快速ウィング。とにかく速い。ボールをもらった瞬間にトップスピードに上げることができ、DF2人程度では止められない。間違いなく前回大会よりも能力値がアップしているだろう。ロッペンの右サイドからのカットインに対応するため、相手国の左サイドバックは引いて守ることを余儀なくされ、サイドからの攻撃参加を封じられた。「攻撃は最大の防御」をみごとに体現している。


MF(トップ下)
リオネル メッシ(アルゼンチン)
4年連続パロンドール受賞者は、前回大会では不完全燃焼のまま大会を去った。もともとあまりW杯との相性が良くなく、得点数も少ない。それが今回大会に入って人が変わったように従来の能力を発揮している。DFを一瞬で抜き去るテクニックもさることながら、キャプテンに任命された今回大会では、今までに比べて「集中力」が大幅に上がっている。予選リーグで奪った4得点は、試合開始直後や終了直前などの「魔の時間帯」が多い。相手DFの集中力や体力が落ちた時間帯でも、攻撃のための集中を切らさない。精神的に強くなったメッシがアルゼンチンをどこまで導くか、楽しみになってきた。


FW(セカンドトップ)
ネイマール(ブラジル)
個人としては今回大会で最もプレッシャーがかかる状態で開幕を迎えたプレーヤーだろう。地元開催で優勝しか許されない状況で、ブラジル伝統の10番を背負って大会に臨んだ。その開幕戦で2ゴールという見事な滑り出し。予選リーグ3試合で4得点と結果を出し、プレッシャーを見事にはね除けた。プレーの質としてはメッシ、ロッペンに比べるとやや劣り、雑なところもあるが、完成された彼らと比べてネイマールにはまだまだ伸びしろがたくさん残っている。W杯で優勝するためには、試合を重ねるごとにチームが成長し強くなっていく必要があるが、ブラジルがこれからまだまだ強くなっていく可能性を感じさせてくれる。


FW(センターフォワード)
カリム ベンゼマ(フランス)
1大会ごとに予選落ちと決勝進出を繰り返す極端なフランス代表にあって、今回のフランスは「強いほうのフランス」。そのエースとして予選リーグ3得点。見事に役割を果たした。今回のベンゼマの特筆すべき点は、内紛騒ぎが多いフランス代表で、チーム内の和を乱さないようフォア・ザ・チームに徹した規律性にある。フランス代表のエースストライカーは廻りとの連携など知ったこっちゃない暴れん坊タイプのFWが多いが、ベンゼマはいままでのフランス代表にはないタイプの献身的なFW。このポジションとしては、初戦でスペインの集中力をぶち切るダイビングゴールを決めたオランダのファン・ペルシーも捨て難いが、チームにフィットしている度合いと、「これからももっと見てみたい」という期待感を考慮して、ベンゼマを選んでみた。



1回戦はウルグアイ・コロンビアの南米対決、オランダ・メキシコ戦が見ものかな