『アフリカにょろり旅』


大学院修士課程を終えた私は、ある時、ひょんなことから塚本教授に食ってかかった。
「研究者なんて糞だと思います。何もできないくせに口ばっかりで!」  
すると窓の外に目をやった先生は、静かな声でこう言った。
「糞だって時間が経てば肥料になるんだ。百年二百年先には役立つかもしれないじゃないか」
(そんな事じゃない! 今、この瞬間にも役立っているのかってことだ。ただの空論なんて聞きたくもない)  
キッと睨みつける私の視線を、先生は寂しそうな顔で受けとめた。  

しばらくたって、市民講座で先生の講演を聴いた。私にとっては目新しくもない「いつものウナギの話」だった。
しかし、講演の後、決して豊かとは言えない身なりをした老人と孫なのだろう、連れて来た子供が目をキラキラ輝かせ、話す声が耳に残った。

「面白かったね。ウナギはすごい所まで泳いで行くんだね。不思議だね」  

その時私は、初めて生態学研究が何も作り出さないのではなく、自分自身が作り出したものを料理出来ないだけだったことに気がついた。




「役に立つ」勉強をしたい学生諸君、すぐに大学なんてやめて働きなさい。