銀行員をやっている昔の友人から面白い話を聞いた。


金融関係者の間で、俗に「0.7法則」といわれている簡単な利子計算の方法があるのだそうだ。「利子率と年数を掛けて0.7になるとき、ちょうど借金が2倍になる」というものだ。
たとえば、利子率10パーセント(0.1)で7年お金を借りると、掛けた値がちょうど0.7となって借金が倍になる。
利子率が2パーセント(0.02)だと、35年借りるとちょうど0.7になって借金が倍になる。

どうしてこの公式が成り立つのか。
利子率をx, 年数をmとすると、N万円の借金は、

N × (1+x)m

となる。
この公式を展開すると、次のように近似する。

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利子率xと年数mをかけたmxが0.7ということは、これを近似値に代入してみると、

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となり、だいたい2倍の値となる。


この計算は、いったい何をしているのか。
借金をした場合、一年ごとに利子がかかるとすると、2年目の利子には、1年目に加えられた利子が上乗せされた分にも利子がかかる。つまり、利子は年々大きくなっていく。
年利を細かく分割して、短い期間ごとに掛けていくと、結局利子はどのように増えていくのか。

年利xパーセントに対して計算してみると、半年x/2だけ利子が掛かる場合、1/3ごとにx/3だけ利子がかかる場合、と次々に計算していくと、結果はこうなる。

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この式を一般的に書くと、次のようなきれいな多項式に収斂する。

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この数を「ネイピア数」という。
各数の階乗の逆数を、次々に足していった数のことだ。
18世紀最高の数学者と謳われる、レオンハルト・オイラーが発見した。

オイラーは、直感的に理解しにくい「無理数」という数にまつわる面白いことをたくさん発見している。このネイピア数に注目した数学者は当時もたくさんいたが、これにeという記号を与えて定義し、 無理数であることを示したのはオイラーだ。その値はおよそ2.71828。これは自然対数の底としても使われている。

このネイピア数は、決して数学の世界だけで通じる魔法の数というわけではなく、数理科学にまつわるあらゆる分野で最重要事項の数として利用されている。物理現象、生物現象、社会現象、統計学,あらゆるところにこのネイピア数を利用した公式が顔を出す。借金の利率計算にも使われているくらいだから、その威力は推して知るべしだろう。


それを教えてくれた友達は、まぁ、僕の友人であるくらいだから、あまり品のよくない遊びを好む奴だ。一流銀行に勤めている身分で、いい歳をして、しょっちゅう女の子と合コンをしている。
その合コンのときの「成功確率」には、面白い一般性があるのだそうだ。
何をもって合コンの「成功」というのは、敢えて聞かなかった。

条件として、男女それぞれが談合をして、自分が目を付けた相手が重複しないようにする。友人の言うには、この談合をきっちり行うのが大事なのだそうだ。
合コンの間におしゃべりをしたり感触を確かめたりして、相手を決める。
そのとき、1組もカップルが成立しない確率はどのくらいだろうか。

この問題を分かりやすく言い換えると、次のような告白タイムになる。
まず、女性が一列に横並びする。そこへ、男どもが目を付けた女性の前にそれぞれ立つ。
しかるのち、自分の前に立った男が目当ての男でなかった場合、女性のほうが目当ての男性の前に移動する。
そのとき、女性が全員移動する確率はどのくらいになるか。

これを学校の確率統計の問題に翻訳すると、次のような問題になる。
1からnまで番号がふってあるn個の箱に、やはり1からnまで番号を振ってあるn個のボールを、ひとつづつ入れる。
すべての箱に、自分の箱の番号と異なる番号のボールが入る確率は、どれくらいになるか。
原理的には同じ問題だ。どうせ同じ問題だったら、合コンの場合のほうが気合を入れて計算できる。

話を簡単にするために、男女4人ずつの合コンの場合を想定する。
すると、女の子Aに男Aが思惑通りにつく可能性は、当然1/4になる。他の男女ペアの場合も同様だから、単純に考えれば、1/4の可能性が4通り、あわせて1となる。

ところが、この計算では男A女Aがくっつく事象P(A)と、男B女Bがくっつく可能性P(B)を、重複して数えている。このような重複部分(A&B, A&C, A&D, B&C, B&D, C&D, A&B&C, A&B&D, A&C&D, B&C&D, A&B&C&D)をそれぞれ引かなくてはならない。
すると、求める「全滅する確率」は、

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となる。
これを一般化すると、

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と表せる。
驚くことに、なんとこれはネイピア数の逆数になっている。
ネイピア数の逆数は訳0.367...となる。逆に考えると、合コンで少なくとも男1人が望みの女の子をお持ち帰りできる確率は、約65パーセントになる。かなりの確率だろう。
我々男子諸君にとっては大いに発奮材料となる数字ではないか。


住宅ローンの借金の増え方と、合コンの成功確率という、一見何の関係もなさそうな現象に、同じ公式が働いているのが面白い。
友人はこれを示して、「合コンで女の子をお持ち帰りできる可能性と、結婚するハメになって住宅ローンを組むときの借金は、表裏一体の関係なんだ」などと、わけの分からないことを言っていた。どうせ調子にのって女の子に手をだしまくり、結婚を迫られる危機を感じたことがあるのだろう。自業自得だ。

おそらく、このネイピア数を発見したオイラーは、世の中のしくみをデザインした神の意志を感じたと思う。世の中は一体どのように作られているのか。その創造主の意思を知る努力として、哲学と近代科学は進展してきた。雑多な現象に共通点をみつけそれを一般形で記述する営みは、科学の基本となる方策だ。それがこうも美しく収束する様は、驚嘆に値する。


ちなみに件の友人は、気に入った女の子の教養レベルが高いと、ふたりだけでしっとりとしたバーに連れ出したときにこの話をすることがあるそうだ。
女の子が尊敬のまなざしで「 それ、誰が発見したんですか?」と訊くと、


「うん、おいらが発見した」



そのうち、何らかの形で天罰が下ると思う。



オイラーに謝れ