推理小説を読みます。


僕は推理小説が好きで、日本にいたときからよく海外の小説の翻訳を読んでいました。
クラシックなやつが好きですね。
まぁ、基本はシャーロック・ホームズですが、あの時代周辺の推理小説は現代的な観点からも評価できる秀作が多いと思います。

推理小説のなかには時代が経つと屑になってしまう小説がありますが、そういう小説は、トリックに技術的な小細工を使っています。「アリバイ工作のため蓄音機に人の話し声を吹き込んでおいてそれを他人に聞かせる」など、現在ではまったく通用しません。たとえばディクスン.カーの一連の密室殺人ものの中には、そういう小技だけで無理矢理一本の作品を書き上げてしまったような駄作がたまに紛れ込んでいます。

推理小説とひとくちに言っても様々なテイストがありますが、僕はあまりに推理小説をバズル化したような作品があまり好きではないようです。なんというか、推理ものとはいっても小説である以上、ある程度の文学性を保ってほしいと思うのです。謎解きを中心とはしていながらも、そこに何かしら世の中の真理、人生の一側面を鋭く描いてほしい気がします。単に謎のために人を殺しているような小説は、なんか俗っぽく見えます。こういう条件をクリアしている秀作は、G.K.チェスタートンのブラウン神父譚など、そう多くはありません。

僕があまりエラリー・クィーンが好きではないのは、そのへんに理由があるのかもしれません。エラリー・クィーンの中で謎解きが最も手応えがあるのは『オランダ靴の謎』あたりだと思います。秀作であることは確かなんでしょうし、確かに面白いんですが、なんか謎々が過ぎて人や場面がうまく描けていないような気がします。『Yの悲劇』くらいのレベルの作品をコンスタントに書ければ凄いと思うのですが、あの作品は例外と言うべきですかね。「推理作家である以上、あのくらいの作品を生涯に一本でも書ければ本望」くらいの本なのかもしれません。

逆の理由で、アガサ・クリスティーもあまり好きではありません。クリスティーの作品は、一言でいうと「インパクト先行型」だと思います。謎解きとしては話の細部が雑すぎます。最も典型的なのが『そして誰もいなくなった』でしょう。設定は面白いし、途中のスリリングな展開も満点です。しかし最後の謎解きで「なんじゃあそりゃあ」という、なんか拍子抜けした感じが残ります。クリスティーは、途中で盛り上げるだけ盛り上げておいて、最後に収拾がつかなくなって、うやむやのまま終了、というイメージがあります。ポワロのキャラクターを楽しむくらいがちょうどいい読み方なのでしょう。


最近は推理小説を選ぶ軸がちょっと変わってきました。
自分が知っている土地、場所を舞台にしている小説をよく読む傾向にあります。
ボストンを舞台にしている小説だと、ロバート・B・パーカーの小説でしょうね。探偵のスペンサーは、よくケンブリッジからハーバードあたりまでチャールズ・リバー沿いをジョギングしています。パーカーはまだ新作を発表しつづけているので、最近は出版されたらすぐ読めます。日本で翻訳を読んでた頃よりも読みやすい。英語もあまり難しくないので、勉強の合間に読む本としては手頃です。

僕の住んでいるコネチカット州を舞台にしている小説では、エドワード・D・ホックが書いているサム・ホーソーン医師を主人公とした一連の作品があります。コネチカットの片田舎の診療所の風景が、なんとなく見慣れた感じがします。サム医師は患者さんに手術が必要な場合は、ハートフォードの大きな病院に紹介状を書いたりしています。作品はのどかな田舎風景を描いているだけでなく、なかなか凝った不可能犯罪を扱っていて、僕の趣味に合います。


アメリカに来てつねづね不思議なんですが


上に紹介した推理小説は、日本ですべて翻訳が入手可能です。街の本屋さんでも創元推理文庫やハヤカワミステリ文庫が揃ってますし、これらはブックオフにも置いてます。最近の新しい作品だけでなく、かなり古い推理小説でも簡単に手に入ります。

しかし、アメリカでこういう古い推理小説を読もうとしても、なかなか手に入りません。本屋の店員さんにエラリー・クイーンなんて訊いても「誰ですかそれ?」という感じです。本屋さんにふつうに置いてあるクラシック推理小説はアガサ・クリスティ?くらいでしょう。

毎年出版される推理小説の絶対量が多く、怒濤のごとく書かれる最新作を並べるので精一杯なのでしょう。アメリカで手に入らない原書が、日本で翻訳が簡単に買える、などという本末転倒なことが起こります。僕ははじめてアメリカに渡ったときに、お気に入りの推理小説の原書を買い漁るつもりでいたんですが、本屋さんにそもそも置いてません。


日本を離れてしばらく経ち、最近の日本の推理小説の動向が分からなくなっています。浦島状態ですね。
僕の彼女も推理小説が大好きです。江戸川乱歩の本名を即答できる女の子というのは、あまりいないと思います。日本に帰ったら、彼女の本棚から何冊か失敬して、日本の推理小説を楽しんでみましょうかね。



ペーパーバックって安いよなぁ