日本にもうすぐ帰国するので、「どこ行って遊ぼうかなぁ」といろいろ調べてたら、東京国立博物館で6月17日までレオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』を展示してるらしい。



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文句なく、人類の文化遺産のひとつだと思う。
たとえ単品展示でも見に行く価値はある。


中世の絵画はだいたい神話か聖書を題材としているので、それらの話が分かってないと、実際に絵を見てもあまりピンと来ない。そのなかでも、「受胎告知」(Annunciation)は話が分かりやすい分、聖書を全く知らない人でも鑑賞しやすいテーマだろう。

なにせ、処女の女の子の前にいきなり天使が現れて「あんた、妊娠してるよ」と告げるのだ。そりゃ仰天するだろう。天使がどういう態度で告知してるのか、それを聞いた聖母マリアがどういうリアクションをとるのか、が受胎告知の見所だろう。

かようにドラマチックな場面なので、受胎告知は古くから多くの画家が題材としている。数多の受胎告知の絵を覚えておくコツは、天使とマリアのそれぞれに、なんかセリフを言わせてみることだ。その印象が絵の印象となって思い出しやすくなる。



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「おたく、妊娠してますな」
「邪魔だからあっち行って」




じつは個人的には、ダ・ヴィンチの『受胎告知』は、宗教画としての威力はあまり無いと思う。なんというか、写実的すぎる。聖書の世界を描くにしては、現実味がありすぎる。

この絵が美術史上に果たした役割は、体系化した方法論としての遠近法をはじめて実践したことだ。美術の教科書で遠近法の題材として載せている本もある。今でこそ小学生でも知ってる技法だが、当時は革命的と言えるほど画期的なものだった。まだ僕はこの絵を実際に見たことはないが、実際にこの絵をじーっと見てると、絵が3次元のように浮かび上がってくるように見えるほど、遠近感が感じられるらしい。

基本的なスピリットとして、ダ・ヴィンチは科学者だと思う。きっと絵画を描く時も、彼は2次元の平面上に3次元世界を構築することを目的としていたのではあるまいか。遠近法は、その試みの末に辿り着いた方法論だと思う。

ダ・ヴィンチの業績は数知れないが、そのほどんどの目的は「純粋な現実世界をありのままに把握する」ということに向けられていると思う。だからこそ、人間を精確に描くために夜な夜な墓場を暴いて死体を解剖するなどという、とんでないことをしでかすのだろう。

そしてその姿勢は、宗教画を描く態度ではない。僕はダ・ヴィンチの「受胎告知」を見ると、どこかの庭師と有閑マダムが無駄話をしているいように見える。あまりにも描写が現実的過ぎて、聖なる世界の聖なる出来事を描いているようには見えない。ダ・ヴィンチは現実描写の腕前が凄過ぎて、宗教画を描くには向いていないのではないかと思う。

ダ・ヴィンチのことだから、天使の翼ひとつとっても、実際に鳥の翼を丹念に観察して、忠実に描いたのだろう。その結果、翼がやたらとリアルになり過ぎて、鳥のコスプレにしか見えない。宗教画は小説に似てる。世の中や事実を忠実に再現する必要はない。架空の世界であっても、その世界を違和感なく創り上げるのが腕の見せ所だろう。その辺が、現実世界の把握に心血を注ぎすぎたダ・ヴィンチの限界だと思う。

しかし芸術というのは、頭で仕入れた知識と、実際に目の当たりにするのでは、天地ほどの差がある。「つまらん絵だな」と思っていた絵でも、実物を見ると圧倒される、ということが往々にしてあり得る。どうもこの絵は、そういう類いの絵ではないかという期待がある。幸いに夏休みの帰国が展覧期間に間に合うので、ちょいと見てこようかと思っている。



えー、ちなみに、他の『受胎告知』としましては



エル・グレコ(ブタペスト美術館)
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「妊娠じゃあ!天罰じゃあ!」
「そ、そんな・・・なんで私が・・・」



ボッティチェリ(Galleria degli Uffizi, Florence)
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「いや本当ですって。マジ妊娠してまっせ」
「いやーん、どうしましょうー」



ラファエロ(Pinacoteca, Vatican)
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「ちょっと聞いて聞いて、あのね、あんたね・・・」
「うるさいわねぇ。何なのよ一体」



フラ・アンジェリコ(プラド美術館、マドリッド)
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「申し上げましょう」
「承りましょう」



デル・サルト(Galleria Palatina, Florence)
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「まぁ、そんなわけなんですよ」
「まぁ・・・そうなの・・・」



カラヴァッジョ(Musee des Beaux-Arts, Nancy)
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「思い出せ!覚えているはずだ!誰とやったんだ!」
「・・・(えーと、誰の子かしら・・・)」



ムリリョ(プラド美術館、マドリッド)
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「いや俺は分かってるって。あんたは悪くない、な?しょうがねえんだよ」
「・・・。」




マリアだけに特化して観るとムリリョが一番萌え度が高いかと。