金曜日は月に一回、外部の講演者を招いてコロキアム。
今日の講演はChris Kennedy (University of Chicago)。


僕は日本で大学院生をやってた頃から、Chrisの仕事をずっと追っていた。論文は全部読み通し、博士論文は書き込みで埋まるほど何度も読み潰した。形式意味論の枠組みでDegree Structure やMeasure Phraseをきっちり押さえて程度表現の意味を考えるときには、彼の一連の研究は避けて通れないと思う。

僕は「これは面白い」という論文があると、その著者の過去の論文をすべて読み尽くす癖がある。たとえトピックが違う論文であっても、同じ人間が考えだしたものである以上、どこかしら思考に共通した方向性が見いだせるものだ。

僕は勝手に、こういう論文の読み方を「タテ読み」と呼んでいる。それに対して、ひとつのトピックに関してそれを扱っているいろんな研究者の論文を読み比べるのは「ヨコ読み」とでも言おうか。

学会の締め切りが近いときや、急いで論文を仕上げなければならないときに有効なのは、ヨコ読みのほうだ。研究の方法としても、こちらのほうが王道だろう。効率として即効性も高い。

しかし、ひとりの研究者の論文を時系列に沿って古いものから順にじっくり読み潰すと、その人の興味と思考の跡が辿れる。どんな難解な論文も、いちばん基本となるアイデアというのは、とても直感的なものだ。僕はいままでタテ読みをしてひとりの論文を読み漁ることで、その人の「発想のノウハウ」みたいなものを盗んできた。これは日本で形式意味論を学ぶ環境があまり整ってないなかで、僕が勝手にあみだした勉強法のようなものだ。

Chris Kennedyは、僕がそうやってマークしている研究者のひとりだ。ひとつのトピックに関してデータを広く深くカバーする、とてもいい仕事をする。今回、その彼が僕のいる大学で講演をするというので、そりゃ気合も入ろうというものだ。



というわけで、今日のコロキアムは非常に面白そうなわけでつよ。

「ふーん、よかったわねぇ」

いま自分のやってるネタとまったく同じだからねぇ。じっくり聞いてくるよ。

「アポはとったの?」

もちろん。いま書いてる論文を見てもらうの。いいコメントもらえるといいな。

「そうねぇ。ね、その先生、どういう感じの人なの?」

うーんとねぇ、Webサイトにたしか写真があったよ。えーと・・・あ、これだ。

「どれどれ ぽちっとな ・・・わぁ、なにこれ?すごくいい男じゃないハート

・・・。

「え、え、あなた今日この人に会うの?いいなぁ

・・・。

「ね、ね、今日さ、ワタシの写真持って行って、『この女の子どう思いますか?』って訊いてみてくんない?」


それを聞いてどうしろと。



お昼にはほかの大学院生も一緒に、お昼ごはんを食べに行きました。
ちなみに彼は言語学のみならず、音楽活動も精力的に行っていました。彼のホームページにはMusicのセクションがあり、「かつて、ロックスターとしてのキャリアを捨て、言語学者になる夢を追い求めた若者がいた。ここにあるのは、彼が遺したいくつかの仕事である」と書いてあります。カッチョエエ。


実は僕、日本にいたときからずっと論文を拝読してたんすよ。

「へぇ、じゃあDegreeとかMeasure functionとか、そのへんのトピックに興味があったの?」

ええ、まぁ、その辺です。いまもそのあたりのネタをやってまして。

「あのトピックは面白いよね。今日のトークは主に日本語のデータを扱うんだよ。ネイティブがいると助かるなぁ」

へぇ、日本語のデータもやってるんですか。

「うん、いままで主に英語のデータをやってたんだけど、comparativeの特徴に関して各言語を分類すると、英語と日本語は面白い対比ができるんだ。日本語はcomparativeの研究がとても進んでるしね。」

へぇー、いまそういう仕事をしてるんですか。僕、ホームページでずっと仕事をチェックさせていただいてるんですよ。

「え、僕の仕事?音楽のほう?言語学のほう?

言語学のほうですが。

「そっか、言語学のほうか・・・なんだぁ・・・」



あのなぜそこでがっかりするんすか。



ホームページといえば、僕の彼女が写真を見て興奮しちゃいまして。「なんてナイスガイなの!」とか言って夢中になってたんすよ。

笑い 「そりゃ光栄だなぁ。彼女さんによろしく伝えておいてね」


ええ、一応、伝えるだけは伝えておきます。
また舞い上がんなきゃいいけど。



お昼ごはんの後は、あらかじめアポをとっておいたので、1対1で稽古をつけてもらいました。いま僕が書いてる論文についてディスカッションし、コメントをいっぱいもらいました。同じネタをやってるだけあって話が早い早い。ふつうなら先行研究の背景を説明しなければならないところでも、論文を挙げるだけで一瞬で話が通じます。そもそも、僕の思考と発想法は彼の一連の論文から学んだものなので、そりゃ話は早いはずです。僕の考えてることを先に言われる始末です。

トークも非常に上手でした。僕の印象では、西海岸の大学出身の人はプロジェクターを使った発表が上手というイメージがあるのですが、今日あらためてその感が強くなった気がします。パワーポイントを使って発表する人のハンドアウトは、えてしてパワポの原稿をそのまま印刷したようなものが多いんですが、彼はそんな雑なことはせず、ハンドアウトはハンドアウトとして別に作り、あとで復習しやすいようになってました。すごいなぁ。発表ってこうやってしなきゃいけないんですね。

ディスカッションをしてもらって非常に強い刺激を受け、いっぱい有益なコメントをもらったので、冷めないうちに論文を打ち込もうと思います。こういうときは言語学をやってて非常に楽しいと思うんですよね。



いままで詰まってたネタが一気にぶち抜けそうな気配。