早い話が:65万人は中国の定説
(2005年9月29日 毎日新聞)


あまり注目されなかったが、中国の胡錦濤(こきんとう)国家主席は、9月3日の演説で気になることを言っている。例の「抗日戦勝60周年記念」の演説だ。

 胡氏は「抗日戦争の主役が国民党軍、脇役が共産党軍」という新しい歴史解釈を述べ、さらに続けた。

 「日本が台湾を侵略占拠していた50年間、台湾同胞は絶えず反抗し、65万人が犠牲となった」

 65万人  ?毎年1万2000人づつ台湾の人を殺した計算になるのだが。



人、いなくなっちゃいませんか。



正しい歴史認識が何だって?


早い話が:65万人は中国の定説 金子秀敏

 あまり注目されなかったが、中国の胡錦濤(こきんとう)国家主席は、9月3日の演説で気になることを言っている。例の「抗日戦勝60周年記念」の演説だ。

 胡氏は「抗日戦争の主役が国民党軍、脇役が共産党軍」という新しい歴史解釈を述べ、さらに続けた。

 「日本が台湾を侵略占拠していた50年間、台湾同胞は絶えず反抗し、65万人が犠牲となった」

 65万人??毎年1万2000人づつ台湾の人を殺した計算になるのだが。

 大江志乃夫著「日本植民地探訪」(新潮選書)は、初期の「台湾征服戦争」による台湾側の死者を1万7000人、その後の「匪賊討伐」などで1万1946人(死刑を含む)と推定している。また、先住民の反乱「霧社(むしゃ)事件」では、644人が死亡したという。

 だが、植民統治を通じた犠牲者の総数は見あたらない。まだ研究が十分に進んでいない。

 65万について、台湾の知人は「学校で習った記憶はない」という。台湾の公式数字ではなさそうだ。だが胡主席の公式発言だから、少なくとも中国では65万が定説となったに違いない。

 数字だけではない。「大陸は抗日戦争。台湾は抗日闘争。共に日本と戦った」という論理にも意味がある。

 かつて日本の「皇民」だった台湾の人々(本省人)は、一貫して植民統治と戦っていたというのだ。「抗日」史観で大陸と台湾は結びついているのだから、台湾独立はありえない。

 「高砂族の霊を返せ」とタイヤル族の民族衣装で靖国神社に乗り込んできた台湾の女性がいた。女優で立法委員(国会議員)の高金素梅(こうきんそばい)さんだ。

 素梅さんは今月中旬、ニューヨークの国連本部で写真展を開いた。先住民族に残虐な弾圧を加えた日本に謝罪を求めるという宣伝である。出発の日、空港に国民党の馬英九(ばえいきゅう)主席が駆けつけ、3000ドルをこの運動に寄付して励ました。

 日本の植民統治に謝罪を求める台湾の運動は、胡演説の歴史認識と裏表だ。

 素梅さんは、母は先住民族だが、父は安徽(あんき)省籍の漢民族で、心情的には中国に近いという。素梅さんはこれから北京の民族大学に留学する。中国の少数民族理論を仕入れて戻ってきたら、台湾でも65万説が広がるのだろうか。(論説委員)