こんな問題はいかがだろう。

ある3人の旅行者が旅館に泊まった。ちょうど季節は夏休み、繁盛するシーズンなので旅館には女子大生、短大生、専門学校生のお姉ちゃん達が何人か住み込みで仲居さんのバイトをしていたとさ。おーいい設定だな。オレも泊まりたい。

さて、ある仲居のバイトお姉ちゃん、お客さん3人を部屋に通すと、一泊分の宿泊料をひとり5000円、3人で合計15000円を受け取った。

仲居さんがその宿代15000円を帳場にもっていくと、おかみさん曰く、「あららウチはひとりいくらじゃなくて、一部屋いくらで宿代をもらうのよ。あの部屋は何人泊まっても10000円なの。この5000円をお客さんに返してきて」

お客さんにお金を返しに行く途中で仲居さんは考えた。ここで5000円を返すと、あの3人のお客さんはケンカになるんじゃないかしら。だって5000円は3で割り切れないもんね。じゃあここはひとつわたしがこっそり2000円もらっちゃおうかしら。そうすれば3000円になって、ひとり1000円ずつ割り切れるでしょ。たとえ1000円でも戻ってきたら喜ぶだろうから、それでいいんじゃないかしら。

とんでもない仲居もいたもんだが、さてここで考えてみよう。

お客さんにしてみれば、一人あたり5000円払って1000円返ってきたので、結局4000円払ったことになる。4000円が3人で12000円。

それに、仲居さんがポケットに入れた2000円を合わせると、14000円になる。
最初集めたのは確か15000円だったはず・・・。


<問題> さて、1000円はどこへ消えたのだろう?


自分なりの解答を考えてから、以下を読んでください。



これは、いわゆる手品と同じで、正しい方向に目が向かないような設問の出し方になっている。一体何を合計として出そうとしているのかによって、計算の仕方が違うことになる。

この設問で、計算の目標となる「合計金額」としての資格をもつ数字は、「最初に徴収された15000円」と、「帳場に実際に支払われた10000円」の、ふたつしかない。実際に「合計」を出すときには、このふたつの数字のどちらを出そうとしているのかをまずはっきりさせなければならない。

ふたつの合計金額の違いは、時間軸に沿って出来事を並べれば明らかになる。


(1)客がひとり5000円、合計15000円を払う

(2)仲居が15000円を帳場に持っていく

(3)おかみ「あら10000円でいいのよ。5000円返してきなさい」

(4)仲居、返しにいく途中で2000円ネコババ

(5)客が3000円、ひとりあたり1000円のキャッシュバック


「最初に徴収された15000円」を計算のゴールに置くのであれば、(1)の段階ですべてが終わりだ。(2)以降のいかなる出来事も計算の要素に入れてはならない。「客がひとり5000円、合計15000円を払いました。以上終わり」でなければならない。実際の宿代も、仲居のネコババも、何の関係もない。

先の設問で「お客さんにしてみれば、一人あたり5000円払って1000円返ってきたので、結局4000円払ったことになる」と言う時点で、(5)の段階が考慮されている。こうなると、設問が目指すものは「いかにして帳場の10000円が構成されているか」という問題にならざるを得ない。問題の目指すゴールとしての合計は、15000円ではなく10000円であるはずなのだ。

先の計算でおかしいところは、仲居さんがネコババした2000円を足してしまったところにある。その2000円は帳場に納められた10000円には含まれていないので、12000円から2000円を引かなければならないのだ。そうすれば合計10000円となり、何の不思議もない。

この問題のトリックは、「本来出すべき結果」が何であるべきかを忘れさせ、「目くらましの結果」に目を向けさせることによって実際とのギャップをつくることにある。なぜ1000円足りなくなるのか、いくら考えても答えは出ない。問題が間違っているからだ。最初に上の問題を読んで、「おかしいよ、そもそも5000円から1000円を引いてる段階で、15000円を合計金額として出す計算じゃないだろう」と気づいた人は、相当に勘のいい人だと思う。

同じようなトリックをつかったものに、「釣り銭詐欺(short change)」というものがある。映画「ペーパー・ムーン」の中で使われていた。

主人公の女の子アディー(ティータム・オニール)が両親に死に別れる。葬式には、たまたま母親の知り合いだった詐欺師のモーゼス(ライアン・オニール)が弔問に立ち寄った。遠くの叔母しか身よりがない彼女のため、モーゼスはアディーを叔母のもとまで車で送り届ける羽目になる。この女の子、実は相当にしたたかで、二人旅の途中に詐欺の手口を覚え込み、ときにはモーゼを上回る腕前を見せるようになる。

あるとき立ち寄った移動遊園地で屋台の綿アメを買うときに、アディーはモーゼがやっていた釣り銭詐欺を真似する。


「5セントだよ」

「5ドル札でおつりある?」

「はいどうぞお嬢ちゃん。綿アメだよ、綿アメはいらんかね!」

「おじさん、おサイフがいっぱいなの。この1ドル札5枚と、さっきの5ドル札とりかえてくれない?」

「はいよ。綿アメはいらんかね!おいしい綿アメだよ!」

「おじさん!10ドル札ある?いま渡した1ドル札5枚と、この5ドル札、あわせて10ドルでしょ?」

「はいよ10ドル。あっちにいっててくれ。商売のジャマだよ。」


- Five cents.

- Do you have change for this five?

- Here you are, little girl. Cotton candy! Get your cotton candy!

- Mister, this purse is sure full. If you give me a five back, I'll give you five ones.

- Cotton candy! Get your cotton candy right here!

- Mister! Is there got a $10 bill? I'll give you the five back. Along with the five ones, you'll have check'en the 10$ bill?

- There. Now, don't bother me any more, you understand?.


さて、アディーはいくらの儲けになるだろうか。
ちなみに、100セントで1ドルである。

こういうときは、頭とお尻だけを計算すればよい。
アディーが綿アメ屋さんに向かうときの元手として必要なのは、1ドル札5枚と5ドル札1枚の、計10ドル。
綿アメ屋さんから去るときに持っているのは、最初におつりとしてもらった4ドル95セント、5セントの綿アメ、10ドル札が1枚。合計15ドル相当。つまりアディーはまんまと5ドルせしめたことになる。

まとめると、こういうことになる。

(1)1ドル札5枚と、5ドル札1枚の計10ドルでスタート。

(2) 女の子が5ドル札1枚を払う。

(3) 綿アメ屋さんが綿アメと4ドル95セントのおつりを渡す →綿アメと4ドル95セントGET

(4) 「おサイフがいっぱいなの」女の子が1ドル札5枚を渡し、5ドル札1枚を受け取る

(5) 受け取ったばかりの5ドル札をすぐに渡し返し、「さっきの1ドル札5枚と合わせて」

(6) 10ドル札を受け取る →10ドルGET


このショート・チェンジのトリックは、(4)でアディーが渡した1ドル札5枚と、すぐそのあとの(4)で渡した5ドル札を、両方とも「アディーに所有権のあるお金」と思わせるタイミングがポイントだ。実際のところ、アディーが(5)で渡した1ドル札5枚は、綿アメ屋さんが返した5ドル札1枚と等価交換したものなので、綿アメ屋のおじさんのお金なのだ。このように、「どちらに属するものか」「トータルで何を出そうとしているのか」の大枠が見えないと、細かい部分に騙されてしまうことがある。

えーちなみにティータム・オニールと、詐欺師モーゼス役のライアン・オニールは実の親子なんですね。現在のテータム・オニールはこんな感じだそうで。


ここだけの話だが、僕はひそかにお金お金「絶対見破られないショートチェンジ」お金お金を開発した。額も5ドルなんてケチなもんじゃない。一度カモをひっかけると50ドル(日本でやったら5000円かな)を巻き上げられる。人数が4人以上いないとできないが、絶対に見破られない自信がある。どんな方法かここで書くわけにはいかないが、さてどんな方法かお考えいただきたい。

ちなみに、上の「旅館問題」と「綿アメ問題」を一発で見破れなかった方は、まず間違いなく引っかかると思いますよ。
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